米軍制服組トップが「台湾有事」見解表明。軍事アナリストはどう見たか?

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6月17日、米上院歳出委員会の公聴会に出席した米軍統合参謀本部議長が、中国による台湾の武力統一について「可能性は低い」との見解を表明したと各メディアが報じています。今年3月に米インド太平洋軍司令官が「台湾有事」の可能性を否定しなかったのとは異なる見解が示されたことについて、軍事アナリストでメルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する小川和久さんが解説。現場司令官が「有事」に触れたのは別の意図があると指摘しています。

台湾有事のリアリティ

中国が台湾に武力を行使する可能性について、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官(当時)とアキリーノ太平洋艦隊司令官(同)が3月、米議会の公聴会で「脅威は今後10年間で、実際には6年で明白になる」と述べ、米国内だけでなく、日本国内でも台湾有事についてにわかに関心が高まることになりました。

私は2人の海軍大将の発言を「こちらが手立てを講じないでいれば追いつかれる」との警告だと受け取るべきであり、同時に、海軍力の増強に向けて議会に予算増額をアピールする狙いも含まれていると発信してきた訳です。

台湾有事のリアリティの乏しさについては、軍事専門家であれば根拠をもって示すことができるものだからです。そのあたりのお話は、YouTubeにアップしてありますので、視聴いただければ幸いです。
「台湾有事」は起こりうるのか 前編/日本の安全保障は「台湾」抜きで語られていた?/アメリカ海軍大将の発言「6年以内に脅威」/中国軍の台湾上陸・占領がありえない理由/弾道ミサイルによる斬首戦は? – YouTube

そして17日、米軍側からも私の指摘と重なる見解が示されました。以下、19日付の朝日新聞を引用します。読売新聞なども同じ内容を報じています。

「米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は17日、米上院歳出委員会の公聴会に出席し、中国が台湾に対して軍事的圧力を強めている問題をめぐり、『中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い』と述べた。中国による台湾の武力統一が『近い将来、起きる可能性は低い』とした。

 

ミリー氏はまた、『中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない』と分析。ただ、『台湾は中国の国家的な利益の核心部分だ』とも語った。

 

同じ公聴会でオースティン米国防長官も『中国が台湾統一を目標にしていることは疑いの余地はない』と述べ、『複数の機密情報がある』と語った。ただ、中国がいつ台湾を武力統一できるような軍事能力をもつかについては『不透明だ』とした。(後略)」(6月19日付 朝日新聞より)

私が若いころ、教えをいただいていた青木日出雄先生(陸軍航空士官学校、航空自衛隊から航空ジャーナルを創刊)は、いつも「軍事は常識の科学である」と言っておられました。極端な議論の多くは客観的根拠に欠けるという教えですが、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」にならないよう心がけながら、冷静かつ着実に日本の安全を高めていきたいものです。(小川和久)

image by:Phil Pasquini / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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