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アフガン米軍撤退はトランプが仕掛けた巧妙な「時限爆弾」説の根拠

現地時間8月30日午後11時59分、アフガニスタンから完全撤退を完了したアメリカ軍。国外退避を求める人々が殺到する空港付近で自爆テロが起きるなど、アフガンに大混乱を招いたこの撤退劇に対しては各所から批判の声が上がっていますが、今後の情勢はどう動いていくのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、現状は最悪のシナリオを辿っているとは言えないとしてその理由を解説。さらに米軍撤退以降焦点となる2つのポイントを挙げ、自身の見通しを記しています。

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アフガン情勢、現状は最悪のシナリオではない

8月15日にタリバン勢力が電撃的に首都カブールに無血入城して、ガニ政権は崩壊、事実上アメリカはこれを追認する形で、8月31日を期限として、撤兵を加速、そんな中で8月26日にはカブール空港の近辺で、自爆テロが発生して米兵13名を含む170名(最低でも90名)という犠牲者が出ました。

こうした現状については、バイデン政権の危機管理能力がダメだというニュアンスで報じられることが、アメリカの国内でも国外でも多いわけですが、私は、この現状というのは最悪のシナリオを辿っているとは言えないと思います。

まず、改めて今回の経緯ですが、当初の「アメリカとタリバンの合意」における撤兵時期は5月1日でした。これは、トランプが設定したもので、もしかしたら就任から「最初の100日」が終わるあたりのバイデン大統領に対して「時限爆弾」として仕掛けたのかもしれません。これを8月31日に伸ばしたのは賢明でした。

それから、ガニ政権の崩壊ですが、これもトランプの2020年2月の撤兵合意というものが、「アメリカとタリバン」で結ばれているように、トランプ時代からガニ政権をアメリカは見放していたわけです。ですから、バイデンが、「ガニ政権が数年は持つと考えた」のは「甘い」などと言われていますが、バイデンとしては最初からガニ政権など計算外だったはずです。

そのガニ大統領は、6月末に訪米してホワイトハウスにバイデンを訪ねています。このガニ訪米ですが、この時点ではどう考えても統治能力は喪失に近い状態だったので、そのままガニがアメリカに亡命する可能性もあったわけです。ですが、おそらくバイデンはその申し出を拒否し、一旦カブールに戻して米軍によって警護させ、その上でタリバンが入城するようなら第三国に逃すというシナリオを押し付けたと考えられます。

例えばですが、米軍がいるのにガニが亡命したら、米軍の守るカブールをタリバンが攻めるという危険なシナリオになるし、ガニがいるのに米軍が先に撤退したら、ガニを見殺しにして、それこそカブールは今以上のカオスになります。少なくとも、ガニを見殺しにすることなく、しかし自国に直接亡命させるのでもなく、そして少なくともカブールは無血入城にするということで、全体的に上々のシナリオで来ていると思います。

ISの攻撃ですが、残念ながら想定内ですし、米兵の犠牲は痛ましいものの、アメリカにとっては最悪の事態ではありません。というのは、アメリカに取っての最悪というのは、ISとタリバンが「反米」で団結することです。そうなれば、現在のアフガンに残る軍と民間人への危険は遥かに増大しますし、それ以前に、全世界を舞台とした反米(反NATO)テロの危険が出てきます。日本もパラリンピックなどやっている場合ではなくなります。

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ただ、この点に関してはアメリカはよく分かっていると思います。タリバンと、ISはよくライバルと言われる一方で、反米闘争を続けて来たということでは共通しています。ですが、ISというのは「サダム・フセインの特別共和国防衛隊」の残党を中心としており、その名の「イスラム国」というのは正統カリフ時代とかウマイヤ朝、アッバース朝などの「再興」を気取って自称しているわけです。従って、彼らの話す言語はアラビア語です。

一方で、タリバンというのはアフガン南部からパキスタン北部の遊牧民などがルーツであり、使用言語はペルシャ語の地方方言になります。ですから、恐らくISのテロリストからすれば、タリバンは「地の果ての田舎者」的な見方をしていると思いますし、タリバンからISは偉そうな乱暴者にしか見えないはずです。ちなみに、タリバンがビンラディンを賓客として扱ったのは、ソ連軍を撃退する際の同志だったからですが、ISとの間にはそんな共通点はありません。

反米ということで言えば、勿論タリバンは長い年月アメリカと抗争して来ましたが、現在は和平・撤兵合意の当事者であり、この点ではISとは異なります。現在は、カブール、特に国際空港周辺ではタリバンが米軍と米国人をISから守っている構図になっていますが、これもそのような政治的な構図を反映したものです。

タリバンは、既に大学の男女別学を打ち出すとか、女性アナウンサーを排除、あるいは音楽の禁止を徹底するために歌手を殺害といった行動に出ています。20年前と全く同じで、ヒドい話ではありますが、本気でシャリーア(イスラム法)の徹底をやるのであれば、もっと迅速かつ苛烈に行うはずで、今はまだ統治の手応えもなければスキルもない中で試行錯誤的にやっている感じもします。

今後ですが、とりあえず8月31日の米軍撤退期限以降について、

  1. 米国人をはじめとする外国人のスムーズな待避が続くのか?
  2. アフガン人の米国もしくはNATO協力者への弾圧が始まるのか?

という2点が当面の焦点になります。その中で

(最悪のシナリオ)タリバンとISが連携して、1.2.を人質に取ってガニ前大統領の身柄引渡しなどを要求、膠着状態からバイデンは再度軍事対決へ。

(最善のシナリオ)タリバンはIS討伐に協力、しかも古い価値観をやや改めて、漸進的な改革をスタート。米国はこれを見守る。

というのが両極端だとすれば、現実はその中間のどこかということになります。

私の予想ですが、この後で、ガニ前大統領とその周辺の汚職や蓄財に関する扱いが一つの焦点になると思います。タリバンはガニを極悪人呼ばわりしています。その一方で、アメリカは現在もガニの亡命を受け入れていません。アメリカは、6月の時点でも受け入れずに一旦アフガンに戻していますし、現在もおそらくはUAEに留めたままとしています。

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アメリカとしては、ガニの身柄をアフガンに戻すことはしないと思います。そこまでやると、利用しておいて不要となったら切り捨てるということになり、仮にタリバンがガニの命を取るようなことになれば、アメリカの威信は丸潰れになるからです。

一方で、ガニは多額の現金を持ち逃げしたという説がありますし、これまでに相当な額を彼の周辺が国外に持ち出しているようです。そして、タリバンは「アフガンの金だから返せ」と主張しています。仮に、アメリカがガニ周辺の腐敗を「庇う」のではなく、ガニの周辺にあるであろう不正なキャッシュを「アフガンに戻す」ということになれば、タリバンとの「手打ち」への条件の第一が整います。

問題は、タリバンが「余りにも苛烈な女性差別」を続けるようだと、バイデンのアメリカとしては「手打ち」ができなくなるということです。もしかするとタリバンは、その辺も分かっていて社会への統制のレベルを色々と変えてくるかもしれません。

いずれにしても、知識人政権と言われたガニ政権ですが、腐敗のレベルは相当に酷かったようです。その処遇を通じて、アメリカとタリバンのコミュニケーションが機能するか、これが向こう数ヶ月の大きな課題になると思われます。

(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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