ビジネスマンの悩みのタネといえば、いつまでたっても無くならない毎日の「残業」ではないでしょうか。この残業が「当たり前」になってしまうのは危険と説くのは、メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』の著者で、Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さん。上司から言われたことだけをこなしていれば定時で終われた昔に比べて、より複雑になってきている現代の働き方に対応するための「タスク管理術」とは?
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残業が当たり前になってはいけない #タスク管理エッセイ
勤務先で大きなイベントが迫っているせいか、妻の残業が増えてきました。私は彼女の送り迎え担当大臣なので、彼女の勤務時間の変化はダイレクトに私の作業時間にも関わってきます。なので、非常に敏感なのです。
仕方がない残業というのは、たしかにあります。仕事と書いて、ルビに「トラブル」と振るのが仕事の本質といっても過言ではありません。特に、B to C な仕事をしていると、突発的な出来事(主にクレーム由来)はたびたび発生します。それに対処しつつ、日常の仕事のクオリティーを落とさないならば、残業することは避けられないでしょう。
とは言え、です。
残業は「仕方なし」でなければいけません。言い換えれば、残業時間を日常的作業の算段に加えてはいけません。「あぁ~、仕事が山積みだ~。でも、残業すればなんとかなる」が常態化し、その作業を片づけるために残業が常に付随するようになったら、それは危険な兆候です。
なぜならば、そこで思考は「タスクを片づける」ことにしか向いていないからです。本来残業が常態化している状態では、「いかにタスクそのものを減らすか」に思考が向けられるべきでしょう。そうした、ややメタなことを考えることによって、職場の環境は変わっていきます。逆に、それを考えない限り、タスクが減ることはないばかりか、「へぇ、この作業は完了できるんだ。だったら、もっと仕事を増やそう」などといった誤ったフィードバックが発生しかねません。極めて危うい状況です。
確認しますが、残業することが絶対的に悪なわけではなく、タスクを片づけることもいけないわけではありません。ただ、残業が当たり前になり、タスクを片づけることしか考えなくなるのが悪い状態なのです。
以上は、理屈の上では当たり前の話に聞こえるかもしれません。しかし、人間の精神は、「たくさん残業して仕事をしている」に充実感をおぼえてしまう危うい側面を持っています。特に、職場全体がそうした雰囲気に包まれているならばなおさらです。
そうした環境下では、上のような「当たり前」の考えは出てこず、逆に「残業して当たり前」な考えが支配的になります。だからこそ、意識的に注意を向けた方が良いのです。
自分の「作業記録」からわかること
私は毎日作業記録をつけていて、朝一の挨拶&今日の予定設定と、夜の「一日の振り返り」が日課になっています。
しかし、プライベートで一週間ほどごたごたしていて、その巻き返しのために作業量を増やしていたとき、夜の一日の振り返りがスルーされている日が何日か出てきました。危険な兆候です。
「夜の一日の振り返り」がスルーされているという事実およびその記録(実際は記録の欠如)は、私の一日が「乱れている」ことを示してくれます。ここで絶対にやっていけないのは「もっと頑張って作業しよう」という決意です。しかし、そういうときに限って、そのような決意が生じやすいのです。
なぜならば、「巻き返しのために作業」しているときは、たいてい焦りを抱えているからです。たくさん作業をしても、まだ十分だという感じを得られない。だから、もっと作業をしようとしてしまう。非常によくある話ではないでしょうか。
しかし、もっとたくさん作業をしたところで、焦りは消えません。根本的な原因が、作業量の少なさではないからです。おそらくは、「今、自分が何をどんな位置づけの中で、何を目指しておこなっているか」が理解できていないことが一番の理由なのでしょう。朝一にリストを作り、その日の夜に振り返りをすることは、そうした感覚を醸成する効果がありました。
この感覚は、どれだけ目の前の作業をこなしたところで生まれてくることはありません。
ここでもやっぱり、「タスクをこなすこと」だけを考えていてはダメなのです。
何に注意を向けるのか
上長に言われたことをこなしていれば、定時に仕事が終わり、家に帰ったら仕事からは完全に解放される、という牧歌的な時代では、上のような悩みはほとんど起きなかったのでしょう。逆に言えば、こうした問題は非常に現代的であり、上の世代はあまりうまく相談に乗れないかもしれません。「君たちは、言われたことをこなしていればいいんだよ」などと考えている人は、相談相手として極めて不適切と言えるでしょう。
実際、現代は仕事において極めてややこしいことを考えなければならない時代になっています。極めて恵まれた環境にいる人以外はおおむねそうだと言ってよいでしょう。
だから、定期的に「タスクをこなすこと」以外のことに注意を向けていきたいものです。
(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』より一部抜粋)
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