毛沢東が主導し、1,000万人もの自国民犠牲者を出したとされる悪名高き文化大革命。その「再来」とも言うべき変革が、習近平政権により推し進められているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、あまりに文革と酷似した中国当局による人民押さえつけの実態を紹介。さらに「習近平はラストエンペラーだ」とする指摘があながち間違いではない理由を記しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2021年9月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
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【中国】ついに始まった「文革2.0」で習近平はラストエンペラーになる
● 習氏の取り締まりは中国全体に及ぶ「変革」-国営メディアが論評掲載
8月29日、人民日報や新華社通信、解放軍報、国営中央テレビ、中国青年報、国新聞社などの国営メディアが、ある論者の論評を一斉に掲載したことが、大きな話題になっています。
その論者はブログ活動をしている「李光満」という人物で、国営メディアに掲載されたのは、彼のブログに掲載されていた「每个人都能感受到,一场深刻的変革正在进行!」(大きな変革が起きていることを誰もが実感できる!)というタイトルの文章です。
その論評では、最近、脱税で50億円の罰金を中国当局に課された女優の鄭爽(ジェン・シュアン)氏や、かつて旭日旗に似たデザインのファッションを身に着けたり、アリババのジャック・マーとの交際が原因で、出演作が動画配信サービスから次々と消されていると噂されている女優の趙薇(ヴィッキー・チャオ)氏などのことに触れながら、「習近平総書記が進める取り締まりは、国全体に及ぶ深淵な『変革』であり、これに反すれば処罰を受けることになる」と警告しています。
李光満氏は、アリババグループのアントが中国当局によってIPOを取り消され、アリババが182億元の罰金を支払わされたこと、そして前記のような芸能・娯楽産業の「腐敗」を是正する一連の動きなどについて、中国が経済、金融、文化、政治において大きな変化を遂げていることを物語っていると述べ、資本中心から人民群衆への回帰だとしています。そしてそれは、中国共産党の初心への回帰、社会主義の本質への回帰だと主張します。
また、「今後は、高額な不動産価格や高額な医療費にも取り組み、教育・医療・住宅の3つを完全に平準化していく」「貧乏人を助けるために金持ちを殺すことは望んでいないが、金持ちと貧乏人の間に広がる所得格差に効果的に対処する必要がある」とも述べています。
こうした変革はアメリカが中国に対して行っている野蛮で獰猛な攻撃に対抗するためのものであり、これを邪魔するものは誰でも処分を逃れられないと強調しているのです。
この論評を国営メディアが一斉に掲載したことで、台湾メディアなどでは、「文化大革命2.0」が発動されたという論調が強まっています。
● 中國歩入文革2.0?官媒稱整肅商界、娯樂圈是「紅色革命」
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現在、習近平は自らの「習近平思想」を学校教育で教えることを義務化し、さらにはジャック・マーら民間の成功した経営者への圧力を強めています。また、芸能界でのイケメン礼賛を「男の女性化」だとして是正を求め、テレビ出演者の服装まで取り締まるようになっています。
1989年の天安門事件の学生指導者であり、現在は台湾に在住している王丹氏も、「習近平は本当に第二の文化大革命を起こしたいと思っている」と明言し、「数年前、私たちは『狼が来る』と叫んで文化大革命が再びやってくると言った。今、オオカミが来ている」と論じています。
かつての文化大革命は、大躍進政策によって数千万人もの餓死者を出したことで、地位が危うくなった毛沢東が、失地回復するために起こしたものでした。そして習近平も、何ら目立った手柄もなく、むしろアメリカをはじめ他国の反中意識を高め、敵を多くつくってしまった失敗を糊塗するために、国内での締め付けを強化しているわけです。
そう考えると、「15年以内にイギリスに追いつき追い越す」と宣言して推進した大躍進政策が失敗したことと、2025年までに製造強国になるとして『中国製造2025』を掲げたものの、欧米から中国ハイテク企業が排除されている状況とも重なります。
また、毛沢東の文化大革命は、最初は「文匯報」に四人組の一人だった姚文元が京劇『海瑞罷官』の内容について、「人民公社を否定している」「(大躍進政策を批判したことで失脚させられた)彭徳懐の解任を批判している」と芸能批評を掲載したことから始まりました。今回の李光満氏の論評が芸能界の批判を行っていることも、毛沢東の文革と重なるところがあります。
毛沢東の文化大革命では、資本主義に走る者たちは「走資派」と呼ばれ、弾劾されました。「資本主義から人民中心へ向かう」文革2.0においても、走資派は攻撃の的となります。ジャック・マーもその一人なのです。
かつての文革では、ただでさえ個人主義の中国人のあいだで裏切りと密告が相次ぎ、人間不信社会が高進していきました。今回も、同様のことが起こりつつあります。鄭爽や趙薇は文革時代に吊し上げされ自己批判させられた反動分子なのです。こうした吊し上げは、これからも増え続けるでしょう。
まさに「万人による万人に対する闘争」です。誰も信じられず、相手を陥れることばかり考えるようになります。すでに中国のネット上では「密告ホットライン」が開設され、告げ口が奨励されるようになっています。
● 中国が「密告ホットライン」を開設、ネット民に告げ口を奨励
香港でも、国家安全維持法に関するホットラインが立ち上げられ、密告を奨励しています。とくに人権派、民主派の教員などが標的になっているそうで、約10万件の密告があったそうです。
● 香港国安法施行から1年 瞬く間に消えた自由… 大陸マネーで好況の一方 強まる「警察国家」色
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一方で、毛沢東の文革が中国経済をめちゃくちゃにしたように、習近平の文革も中国経済を大きく後退させる可能性は少なくありません。人間不信社会では、協業ができないからです。中国には「中国人は1人では龍だが、3人集まると豚になる」ということわざがありますが、利己主義の中国人は我が強く、自分の利益ばかりを考えるために、チームプレーが苦手なのです。密告で相手を追い落とせるとなれば、なおさらです。自分が密告される前に誰かを密告する、という光景は、毛沢東の文革時代にもよく見られました。
加えて、外国企業にも中国共産党の圧力がかかることは間違いありません。今年6月、中国では「反外国制裁法」が施行されましたが、ウイグル問題などで欧米諸国が中国に制裁を課した場合、中国の外国企業の資産が差し押さえられる可能性もあるのです。
習近平にとっては、もはや経済問題よりも、自己の絶対的地位確立のほうが優先度が高く、いかに人民を押さえつけるかということのほうが重要なのです。
台湾などでは、この文革2.0の30年後に、改革開放2.0がやってくるという予測もなされています。「歴史は繰り返す」ということですが、しかし、改革開放政策に騙され、中国の肥大化を招いてしまったという教訓から、外国資本が再び中国に投資するようになるかは不透明です。もしその場合には、本当の中国の自由化、民主化が不可欠となってくるでしょう。それは中国共産党の終焉を意味します。
その意味では、習近平が中国の「ラストエンペラー」だという指摘も、あながち間違っていないと思います。
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