恋愛以上に相手をシビアに見定める面がある「婚活」。結婚相手としては「いい人」の方が「ダメな人」よりいいに決まっているように思いますが、「いい方すぎて…」と言われ連続して断られたらヘコんでしまいますね。そんな経験をした40代男性からの相談に答えるのは、メルマガ『公認心理師永藤かおるの「勇気の処方箋」―それってアドラー的にどうなのよ―』著者で公認心理師の永藤かおるさん。「いい人」でいようとし過ぎてはいないか、「いい人」の鎧をまとって“本心が見えない”と思われているのではないかと伝え、「いい人」でいる努力を別に向けたほうがいいとアドバイスしています。
ちょっと御相談がありまして:『いい人』は誉め言葉ですか?
皆様からお寄せいただいたご相談や質問にお答えしたり、一緒に考えたりしていきます。
Question
40代前半男性です。婚活をしています。直近で、立て続けに断られました。相手の方達からは同じようなセリフです。「とてもいい方なんですが、もったいなくて」。これって、なんでしょうか。
会社でも同じようなことを言われたことが何度もあります。先輩の女性からも、同期の女性からも、「うーん、◎◎君はいい人すぎるからな…」という、なんとなく否定的なニュアンスで、ダメ出しをされたことがあります。後輩からも「◎◎さん、いい人ですよね…」と言われますが、その時の後輩の表情は微妙です。いい人と言いながら、ダメな人と言われているようです。この「いい人」は誉め言葉ですか?違いますよね?でも自分ではどうしていいかわかりません。
私にはわがままで横暴な兄がいるのですが、その兄には本当に嫌な思いをさせられました。だからこそ、今まで、嫌な人よりいい人のほうがいいと思い、人に親切にしたり、相手が望んでいることを優先させたりしてきました。服装や清潔感にだって気を配っているし、「婚活NGワード」とかも絶対に言わないように気を付けています。相手が嫌がるようなことはしないようにもしてきました。
できる限りの努力はしています。その結果「いい人」とは言われるのですが、お付き合いはうまくいきません。兄にはとてももったいないような奥さんがいます。納得できません。私はどうしたらいいのでしょうか?
【永藤より愛をこめて】
「いい人」問題ですね……。そりゃ誰だって、嫌な人よりいい人がいいに決まっています。そういう意味では、あなたは正しい。他者に親切にするのも正しくて、いいことです。それは間違っていない。でもうまくいかないんですよね。そして、わがままで横暴だと思っていたお兄さんに、素敵なパートナーがいるのも納得できない。そりゃ腹もたつでしょう。
ここで質問です。何でも言うことをハイハイ聞いてくれて、多少わがままを言っても一切反論もせず、常にニコニコ笑って聞いてくれるAさん。お天気のようにくるくると表情が変わり、喜怒哀楽が激しめで、ちょっとわがままだけど甘えるときはおもいっきり甘えてくるBさん。あなたはどちらに『魅力』を感じますか?また、あなた以外の人たちは、どちらにより多く『魅力』を感じると思いますか?
「あの人、いい人だから好き」ということももちろんあると思うのですが、対人関係の中には「いい人だけど虫が好かない」「いい人だけど気が合わない」こともあるし、あろうことか「あいつちょっと問題あるけど、なんだかほっとけないんだよな」「あの人、こんな欠点があるんだけどそこがかわいいのよね」ということも多々あるのです。
あなたは、「いい人」を目指すあまりに、本当の自分を「いい人」のペンキでコーティングしてしまっていませんか?自分の中の欠点や短所やダメな部分を見せまいとして、精神的厚化粧をしていませんか?それが周りに伝わってしまうと、なんだか「本心が見えない人」みたいに映ってしまうのかもしれません。また、相手にも緊張感を強いてしまう原因にもなりかねません。「こんないい人には、ダメな自分は見せられないわ」と思われる可能性も大です。
「いい人」の鎧を少しずつ外して、生身のご自身を見せていくことによって、もしかしたら周りの見方は少しずつ変わってくるのかもしれません。それで離れていく人はそこまでです。でも、生身のあなたに触れて、「あ、こういう一面もあるんだ!」とびっくりしつつ好感を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。鎧は抱きしめても冷たいだけです。鎧を脱がないとあなた自身の温かさは伝わりません。
剥製のようにすっくと立っている凛々しい犬もいいですが、おなか丸出しでのんきに寝ている犬は愛おしいじゃないですか。そうそう、「男はつらいよ」の寅さんがあんなに日本国民に愛されたのも、寅さんが完全無欠のスーパーヒーローではなく、惚れっぽくてけんかっ早くて、勘違いの連続でダメダメだというところがみんなの心に響いたからだと思います。「もう!寅さんったら!(はぁと)」みたいな感じですね。
ご質問にお答えしておきましょう。ここでの「いい人」は誉め言葉ではありません。「いい人」になるための努力を、適切な「自分らしさの解放」に向けてみてください。つまり「精神的厚化粧を落とせ!」ということ。それは、わがままで横暴になれというのではなく、自分の弱さとかダメさとかもひっくるめて、生身の素顔の自分を愛するということです。
婚活のご健闘をお祈りしております。おなか丸出しにしあえるお相手が見つかるといいですね。
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