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経営者のツケを払うのは労働者。「もらいすぎ中高年」という嘘を暴く

若年層の雇用悪化や賃金上昇を阻む諸悪の根源のように語られ、世代間の分断を煽るかのように繰り返される「もらいすぎ中高年」という言葉。はたして彼らは本当に「もらいすぎ」ているのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、さまざまなデータを基にその「ウソ」を暴くとともに、すべての世代の日本人が「もらわなすぎ」であるという事実を指摘。その上で、日本人の賃金がこれほど低く推移している根本原因の解明を試みています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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「もらいすぎ中高年」は本当か?

「もらいすぎ中高年」―――。

この数年、繰り返されてきた言葉です。はい、その真意は説明せずともおわかりですね。

日本企業の賃金体系は、勤続年数や社内キャリアなどに基づいているので、「長く働く=年齢が高い」人がたくさんもらうことになる。その結果、50代前半がピークになる山型が維持されてきました。

「45歳定年説」が主張されたり、年功序列へのアレルギーが「これでもか!」と繰り返されるのも、「もらいすぎ」という意識が多くの人たちの共通認識として定着していることの証なのでしょう。

しかしながら、年功賃金を否定する材料として常に使われるのは「アメリカ」との比較です。雇用流動性も同様に「アメリカと比べ」が決まり文句です。

実際には、アメリカ以外の先進国、すなわち欧州にも日本同様、勤続年数で賃金があがる傾向はあるし、「長期雇用」も欧州では決して珍しいことではありません。

イタリア、イギリス、フランスなどは日本より緩やかながらも、右肩上がりです。ドイツは欧州の中でも、長期雇用が一般的で「日本型雇用」に近いとされ、勤続年数10年~20年までは日本より上昇率が高いことが確認されています。

さらに「勤続1~5年」と「勤続30年以上」の上昇率を比較した場合、日本が1.8倍で、ドイツは1.7倍とさほど変わりありません。

一方、日本の入社時と勤続30年時点の処遇の上昇率の推移を見ると、1976年では2.3倍でしたが、1995年には2.2倍、2019年には1.7倍と年功序列的傾向の度合いは低下しているのです。

1997年~2019年までの22年間の男女大卒者の賃金変化率をみると、25-29歳は4.1%上昇しているのに対し、55-59歳は18.1%の下降してることもわかっている。

なのに「もらいすぎ中高年」と、あたかも「中高年」に問題があるかのような言説はいささか腑に落ちません。むしろ、「中高年」以外の層の人たちの賃金の低さにこそ問題がある。中高年以外の層が「もらわなさすぎ」なのです。

アメリカとの比較でも「中高年」だけではなく「すべての世代」で賃金が低いので、「もらわなさすぎ日本人」と指摘すべきでしょう。

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そもそもなぜ、日本の賃金はこんなにも低いのでしょうか。なぜ、コロナ前「空前の人手不足」に陥りながら、賃金は全く上がらなかったのか。古くから「人手不足になると実質賃金が上昇し、新たな均衡が実現する」と経済学では、“当たり前”のように言われてきました。ところが、日本ではバブル崩壊以降、いざなき景気を超える好況期でも、「賃金の上方硬直性」といわれる特異な現象が起き、コロナによりますます上がる見込みは遠のいています。

かつての経済学の理論が想定しなかった異常事態です。

専門家たちからは「賃金をあげることより、雇用維持を重視してるから」「高齢化が進んでるから」「経営者があげることへの不安感が強すぎるから」「外国人労働者を増やしたから」「労働生産性が低いから」などなど、あれやこれやと「賃金が上がらない」理由が指摘されています。これらの要因が複雑に絡み合った結果なんだ、と。

が、「理由とかどーでもいいから、あげてくれよ~」というのが、働く人たちの本音ではないでしょうか。

私自身は、そういった諸要因は間接的なものであって、日本の現場力の衰退にこそ原因があると考えています。

つまるところ、日本は付加価値ある製品を、商品をつくってこなかった。

他の先進国は、比較的高い値段をつけても高く売れるもの、つまり付加価値が高いものをつくってきたのに、それをしなかった。いや、できなかった。それが日本の最大の問題だと思うのです。

付加価値がうまれるのはいつの時代も「現場」です。その「現場」に投資をしなかった。教育の機会を減らし、安い労働力の確保に精を出し、技術移転をする機会も、技術を磨く時間も与えなかった。短期的かつ短絡的に、コスト削減に精を出してきた経営者のツケを「働く人」が払わされている。そう思えてなりません。

以前、「世界に誇る技」を持つ日本の中小企業を取材して回った時に、ある町工場の社長さんがこんな話をしてくれました。

「ものづくりと会社を経営することは一緒ですよ。作った品物とお金を交換するだけのこと。シンプルに考えればいい。金儲けばかり考えているとおかしくなる。周りの人は俺に、金儲けを考えないなんてバカだのなんだのいうけど、素晴らしいモノを作って、それをお金に交換する。それだけのことなんだよ」と。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: StreetVJ / Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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