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カギは「生産性」あの伊藤忠商事が「万年4位」からトップに立てた秘訣

先ごろ発表された「就職人気企業ランキング」で、4年連続1位となった伊藤忠商事。同社は2021年3月期決算で商社業界の業績トップに輝いており、創業150余年にして人気・実力ともに日本一の総合商社の座を射止めるに至りました。「万年業界4位」と言われ続けた伊藤忠は、なぜ変わることができたのでしょうか。今回のメルマガ『熱血日記』では外資系金融機関で30年間の勤務経験を持つヒデキさんが、「生産性」をキーワードにその秘訣を探っています。

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生産性革命を起こした伊藤忠商事。業界4位から1位に躍進したトップ商社の秘密

日本の生産性が低い。日本人の就業者の一人当たり生産性はOECD加盟国中26位と、さんさんたるものです。政府主導でDX改革が始まったものの、未だにFaxやハンコを使い、大企業では昭和の遺物、稟議(りんぎ)システムを未だに使い、係長→課長→次長→部長→役員と、紙の文書にハンコを5個も押して、意思決定に2週間から1か月もかかる会社が多いそうです。

欧米企業なら意思決定役職者の決断ひとつで2時間で終わる仕事が2週間…。ハンコ、Faxとともに稟議システムも廃止すべきではないでしょうか。投資金額に応じて決定者一人で十分なのでは。

契約書を紙で印刷し、ハンコを押して倉庫に保管(保管費用が掛かります)する企業も多いです。電子契約書をクラウドに保存すれば費用はゼロなのに。

日本人の生産性を改善するポイントがどこにあるか?業界で万年4位だった伊藤忠商事が業界トップに立った背後に、生産性革命があります。

以前は財閥系商社がトップ3を独占し、伊藤忠、丸紅は4位、5位という時代が長く続きましたが、繊維部門出身の岡藤正広社長、現会長が就任してから、純利益、時価総額、株価のトップを飾るようになりました。

三井、三菱、住友の財閥系商社が「政商」として国策に乗っかり、資源、鉄鋼、エネルギーなどからトップに長年君臨してきたのに対し、近江商人が出自の伊藤忠、丸紅は「行商」として江戸時代に天秤棒をかついで足を武器にして大阪の本町から服の生地を売る店からはじまりました。“コテコテの関西系商社”として知られてきました。

岡藤会長は東大の卒業文集の中に「伊藤忠入社、三菱商事、三井物産殲滅」と書いて同級生を驚かせたそうですが、経営者ひとつで企業は大きく変わるものですね。伊藤忠を総合商社トップに引き上げたのには、岡藤氏が社長に就任した2010年から「いかに生産性を上げるか」に集中した成果があります。

商社に限らず、他の業界も学べます。

1.フレックスタイム制を撤廃し、早朝勤務にシフト

深夜までオフィスで残業、もしくは取引先の接待で夜遅くまで仕事する商社マンのライフス大夫を一新。どの商社も平均10時出社だったのが、世間の常識に合わせるためにフレックスタイムの廃止に踏み切ります。社内の反対を説得するために、まずは管理職の始業時間をはやめることから始めます。

岡藤会長自身が、残業が大嫌いな性格だったのです。

半年後にはほとんどの社員が朝早く出社するようになったのを見届けてから、特別ボーナスを支給し、フレックス制度を廃止しました。

「遅くまで残業する人間はあまり仕事ができない。効率を考えて朝からパパっと仕事をこなす人間の方が仕事ができる」、との信念のもと、午後8時過ぎ以降の勤務を原則禁止する代わりに、午前5時~9時に仕事をする社員に残業手当をつけ、朝食の無料提供も始めました。

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2.会議と書類は最低限

フレックス制度の廃止と朝型勤務にシフトして成果が上がると、次は会議と書類の徹底的な削減します。

上の人間は暇になると不安になって会議をします。そのために関係部署の人間は資料を作り、会議を開く。そこで挙がった数字など絵にかいた餅で何も残らないが、上司は会議を開いたことで安心する。それでは部下の生産性など上がるはずもない。そこで、会議の削減と、書類作成の削減を大々的に進めました。

3.社員が誇りに思える会社にする

社員が自分の会社を誇りに思えるかどうかが大切です。

「三菱に落ちたから伊藤忠に来た」などという意識が定着したら、社員の誇り、モチベーションが高まりません。そのために数字にこだわります。

純利益でトップ、株式時価総額で業界トップ、給与でトップ。そうすることで就職先人気企業ランキングでもトップに立てるし、社員が奮起します。

書類作成や会議の頻発などのムダをなくし、数字の追及にとことんこだわる。このあたりは同じく業界トップ企業を果たした日本電産の永守会長や、ファーストリテイリングの柳井社長とも共通した哲学です。2番手、3番手などに価値はない。業界1位にこそ価値がある、という哲学です。

そのために岡藤会長は役員、社員に「人の倍働け。そうすれば給料は1.5倍出す」と言ってモチベーションを上げました。

4.企業ブランディングを磨く

社員の心をひとつのベクトルに向かわせることで、団結心、集中力に拍車をかける。B2Bなので消費者とは関係はないものの、顧客企業や業界、広くは日本全体に“いい会社だ”と信頼して頂くために企業ブランディングを磨く。

そのために企業広告として「ひとりの商人、無数の使命」という全面広告を載せました。東京ディズニーランドが清掃の基準として“赤ちゃんがハイハイできるか”というコンセプトを設定しているように、企業にひとつのイメージを植え付ける。商人として誇りと重さを一言に凝縮することで、会社の姿勢を貫徹させる。

これが企業イメージの向上や、社員の団結心、チームワークに拍車をかけます。分かりやすい言葉で完結に会社のめざす方向性をアピールすることの大切さです。

5.女性が活躍しやすい制度をつくる

日本の大企業が世界の企業に対して遅れている原因のひとつに、“昭和のオヤジ”が大挙して経営陣に座っており、異質な考え、多様性のある考えが経営に出てこない、という弊害があります。

商社の役員リストなど見れば、ほぼ99%が年配の昭和のオヤジのみで、女性も外国人も姿がありません。この環境からは、多様性も柔軟な発想、アイデアも浮かぶはずがありません。

朝型勤務制度を導入させてから、子育てをしている女性社員が目に見えて輝きだしました。午前6時半に出社して、子供を事業所内保育所に預け、会社が提供する朝食を食べて、仕事にかかる。

午後3時すぎには子供を連れて退社し、スーパーで買い物をしてから家族との時間が過ごせる。この改革で女性が活躍できる組織の素地が出来ました。総合職採用の女性比率の目標、女性役員の登用目標だけつくるのではなく、実際に女性が働きやすい制度をつくることが大切です。

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6.プロダクトアウトから、マーケットインの発想に変える

特にメーカーなどはそうですが、自社製品を作って、「これを作ったから買って下さい」というのがプロダクト・アウトの発想です。

営業マンは、自社製品に誇りを持ち、効率的に自社製品やサービスを売る技術を磨くことに価値があるのですが、時代の変わり目、顧客ニーズが変化しているときにプロダクトアウトの発想にとどまっていると、業績は伸びません。

伊藤忠は「行商」が出発点であり、創業者の伊藤忠兵衛が麻生の卸売りをする近江商人でした。長男の長兵衛さんといっしょに開業し、商売は忠兵衛さんの方が強かったけれど、家の中では長男の力が強い。

良いところだけ長兵衛さんがとって「忠兵衛、お前はこれをやれ」と、大変なところばかりをやらされる。最後は仕方がないので貿易業に乗り出し、海外へ進出する。

そこが伊藤忠商事の出発点でした。岡藤会長は社内で「マーケットイン」の発想に切り替えよ。と盛んに言っています。

天秤棒を担いだ行商の強みは、単に麻生を売るだけではなく、売った先で「次はこんなものはないんかな?」と言われたらその御用聞きで商いの幅を広げていく。フットワークの軽さ、三菱商事や三井物産にはできない商法。

顧客のニーズ、指向にともなって大胆に商売を作っていく手法。それは、総合商社の在り方にも大きく影響します。

総合商社が「選択と集中」をすると、ひとつの分野にとらわれてしまう。メーカーとは違うのだから、一つの分野に集中して投資する必要はないわけです。

逆にいろいろな業界で商機を見つけていくには、繊維でも、食料でも、幅広くアンテナを張っておく。そうすると伊藤忠が得意とする生活消費関連分野で営業品目が増え、総合力が増すわけです。

顧客の希望にあわせて柔軟に商売を開発していく柔軟さ、フットワーク。変化の多い時代にはマーケットインの発想で本業を継続させていかなければなりません。

※ 引用:岡藤正広「伊藤忠はこうして財閥に勝った」三菱商事、三井物産を追い越したウラ 文藝春秋digital

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image by: yu_photo / Shutterstock.com

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静岡県浜松市出身。バブル期に大学を卒業し、総合商社にバッサバッサと落とされて外資系銀行に就職。ドイツ系銀行、米系証券会社、米系銀行と25年以上を外資系金融で過ごし、クリエイティブな発想を身につける。社会に刺激や知識をバラまくことで活性化させようと決意し、多忙な日々を縫って情報発信を続ける。

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