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コロナとマスクで見えてきた一番恐ろしい「同調圧力」という世間

日本ではマスクをするのが当たり前になって約2年。テレビなどの中を除けば、赤の他人のマスクを外した顔を見ることはすっかり少なくなってしまいました。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授が、マスク姿の女性が美人に見え、「妖しさ」を感じる理由を語ります。さらに、マスクを着用したままだと注意されるケースもあった銀行が、今では真逆になるなど、180度変わった当たり前を受け入れられない人がパージされてしまう「同調圧力」の恐ろしさについても言及しています。

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マスクがおしゃれのアイテムになる日

前回、一人で自動車を運転していたり、誰もいない道を歩いていたりする時に、マスクをする必要なんてないと書いたが、もしかしたら、マスクをする癖がついてしまったので、マスクをすることが苦にならなくなったのかもしれない。新型コロナウイルスが流行り始めた2020年の初めごろは、専門家は、マスクはほとんど役に立たないと言っていたが、いつの間にか、マスクこそ感染を防ぐ重要なアイテムだと言い出して、真面目な日本人のほとんどは、他人がいるところでは、マスクをするようになった。

確かにマスクは感染者が、咳をしたりくしゃみをしたり、大声で話したりする際に、口から出る飛沫を減らす効果はあるけれども、非感染者が感染リスクを減らすのにどれだけ効果があるかは疑問である。最近まで厚労省は、飛沫感染と接触感染が主で、空気感染はほとんどないと言っていたが、デルタ株が猛威を振るうようになって、実は、空気感染が主で、次に飛沫感染、接触感染はむしろ稀という話になってきた。ましてや今流行り出したオミクロン株は、一説によると、デルタ株の4倍も感染力が強いということなので、まず間違いなく、ほとんどは空気感染によるものだろう。

主たる感染源が空気感染ということになるとマスクはN95といった完全防御のもの以外はあまり役に立たない。特にウレタンや布製のマスクは役に立たない。不織布のマスクも隙間がないようにぴったりつけてないとあまり役に立たないかもしれない。床に落ちたウイルスを含む飛沫は、暫くすると少し乾いてエアロゾルという微粒子(0.001μm~100μm)となって空中に3時間ほど留まる。これを吸い込んで起こるのが空気感染だ。

繁華街やスーパーではほとんどの人がマスクを付けているが、杜撰な付け方をしている人が多く、感染予防の役に立っているとは思われない。とりあえず、付けていれば文句はないだろう、という感じの人も結構沢山いる。女の人の中には、マスクを付けている方が化粧をしなくて済むので、有難いと思っている人がいるみたいで、いざ、マスクを外してもOKということになっても、外したくない人もいるかもしれない。特に、顔の全体の作りには自信はないが、目の美しさには自信があるという人は、このまま、マスクを付けるのが習慣である日々が続いてほしいと思っていることだろう。

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最近はコロナ禍のせいで滅多に街に出ることもないが、時々女房のお供で、繁華街のスーパーなどに行くと、美人が増えたような気がする。テレビを見る習慣がない私は、街に出なければ、女の人を沢山見ることがないので、綺麗に見えるようになったのかしらとか、目だけしか見えないので、目元の化粧が上手い人は綺麗に見えるのかしらとか、思っていたのだが、暫くして、顔を隠しているので、むしろ美人に見えることに気が付いた。

マスクで素顔が見えないので、マスクを取ったら絶世の美人かもしれないと、想像をたくましくして見る。すべてを顕わにするよりも、適度に隠している方が神秘的なのだ。「夜目、遠目、傘の内」という言葉がある。暗かったり、遠かったり、傘に隠れてよく見えなかったりすると、美人に見えるという格言である。

「マスクしている女性を見るとそそられるね」と私の若い友人は言っていたが、新型コロナが流行り始めた頃、イギリスでは安全なセックスの方法として、「互いにマスクをして後背位」を政府系の機関が推奨していたよ、と話したらニヤニヤしていた。マスクには、確かに下着と同じような、ゾクッとするようなエロティックな側面がある。

私も名を連ねた、『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』(内田樹編)と題するアンソロジーがある。鷲田清一は「マスクについて」というここに収録されているエッセイの中で次のように述べている。

「マスクはたしかにそれを装着している人の存在を不明にする。けれどもそこには消失の不安と共に、人を魅入らせる妖しさもある」

コロナ禍が始まる前、マスクをして銀行に入ると、「お客様、恐れ入りますがマスクを外してください」と言われたものだ。顔という本人の認証の消失は、銀行にとってリスク要因と考えられていたのだ。そのままマスクを外さなかったら警察に通報されたかもしれないが、周囲の人にとってマスクは注目の的であり、怪しいと同時に多少の妖しさも感じたことだろう。

コロナ禍が始まると、話はひっくり返って、マスクをしないで銀行に入ると、「お客様、恐れ入りますがマスクをして下さい」と言われるようになった。マスクは日常になり怪しさは感じられなくなってしまったのだ。マスクをしないのが当たり前の世界からマスクをするのが当たり前の世界に、あっという間に変わってしまった。そこに同調圧力が加わり、当たり前を当たり前と思わない人はパージされるようになった。

今まで、当たり前だと思っていた世界がひっくり返り、別の当たり前が立ち現れる。当たり前は、その時々の擬制なのだ。それが分かれば同調圧力とは無縁の立ち位置で世界に立ち向かうことができるはずだが、ほとんどの人は何の反省的意識もなく、当たり前は当たり前だと思っているのだろう。一番恐ろしいのは同調圧力という世間かも知れない。

人前では服を着るのが当たり前の世界では、すっぽんぽんで歩いていると、猥褻物陳列罪で捕まる。イヌに服を着せて散歩させている人たちがいるが、そのうちそれが当たり前になると、服を着せないで散歩させると、猥褻物陳列罪で逮捕されるようになったりしてね。

そもそもなぜ人は服を着るようになったのかしら。ヒトは無毛なので、寒いところで暮らす人は服を着ないと生きていけないというのはよく分かる。服の第一の目的は防寒のためだ。しかし、ほとんど服を着なくても寒くない熱帯地方の人々も服を付けているのが普通である。上野千鶴子に『スカートの下の劇場』と題する著書があるが、この本の冒頭の話はニューギニア高地人の男性のペニスケースにまつわるものだ。(『池田清彦のやせ我慢日記』2021年12月24日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)

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image by: Shutterstock.com

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