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岸田首相の「優柔不断」が丁度いい。絶対的な正解などない米中対立

先日掲載の「『すべて中国のせいにする病』の米国に服従する日本という重症国家」でもお伝えしたとおり、中国との対立を良しとする声が大多数を占める日本。しかしアメリカの主張を無批判なまでに受け入れることが、我が国の進むべき道なのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、日米中3国のこれまでの関係性を改めて振り返りつつ、日本が両国に対して取るべき外交姿勢を提示。さらに大量生産大量消費を前提としない、新しいライフスタイルについて考察しています。

【関連】「すべて中国のせいにする病」の米国に服従する日本という重症国家

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2022年以降、米国と中国の関係はどうなる?

1.米国と中国の関係はどうなる?

ネット上では、下記のような意見が支配的だ。

米国と中国は対立関係である。日本は米国の同盟国なので、米国側につくべきだ。

中国は尖閣諸島に圧力をかけ、少数民族の人権弾圧をする非人道的な国であり、許すべきではない。

もし、台湾が中国に制圧されれば、日本も中国に支配されてしまうので、台湾を守らなければならない。

私もこうした意見に基本的には賛成している。その一方で、どこか疑っている。米国と中国のどちらにつくべきかとか、米国は正義で、中国は悪である、という見方は単純に過ぎるのではないか。

例えば、私はバイデン大統領を信じていない。現在、バイデン大統領はアメリカ国民の支持を失いつつある。前回の大統領選挙についても不正があったと思っている。

今後、米国がどのようになのかは分からない。これまで、米国は日本を攻撃し続けてきた。戦争だけでなく、日本経済を何度も潰してきた。これが一貫した米国の対日戦略なのだろう。安全保障で協力していても、経済で協力するとは限らない。

そもそも、中国に投資し、中国経済の成長と共に莫大な利益を上げたのは米国である。従って、本当に米国と中国が敵味方に分かれて戦うのかは簡単には判断できない。

中国は軍事的に日本を威嚇している。しかし、米国ほど徹底して日本経済を破壊したことはない。日本は中国に莫大な投資を行ってきたし、多大な貢献をしている。中国を育てたのは、米国、日本とドイツなのだ。

中国を育て、中国の成長を支えてきたのは先進国の資本と技術と市場である。その関係が切られようとしている中で、中国経済は歴史的に危機に陥っている。それと共に、習近平総書記の政策も混乱している。米国との対立だけでなく、中国経済そのものを破壊しているように見える。

このまま習近平体制を続ければ、中国は崩壊していくだろう。その前に、習近平総書記は失脚するのではないか。そうしないと、世界経済のバランスが崩れてしまう。

もちろん、それが何年後のことか分からない。そして、習近平総書記の次の総書記がどんな政策を掲げるのかも未定だ。次期政権は改革開放路線、米国との関係修復に動くのではないか、と想像できるが、それも絶対とは言えない。

米国も中国も一枚岩ではなく、内部は分裂している。EUも同様であり、各国の思惑はバラバラだ。ロシア、インドも独自の外交を展開している。そして、日本国内も分裂している。

多分、絶対的な正解はない。そもそも世界の動きは、学校の試験ではないのだから、正解があるとは限らない。

そして、我々は状況を判断するための情報さえ十分に与えられていない。あらゆる勢力は自分の利益のために情報を操作し、行動を制限しようとする。我々は限られた情報の中で、自分の頭で考え、行動するしかない。

単純な二元論に立つべきではないし、単純に中国を敵視することにも賛成できない。そう考えると、岸田首相の優柔不断ぶりも丁度いいような気もするのだ。

米国についた方が得だから米国につく。中国についた方が得だから中国につく。そういう損得勘定で動くのは危険だ。損得で動く人は信頼できない。簡単に買収され、いつ裏切るか分からないからだ。

日本は日本の考え方を確立させ、それを主張しておくべきだと思う。

例えば、中国に対して、「人権侵害はやめるべきだ」と主張すべきだと思う。だからと言って、米国のように経済制裁はできない。日本経済に多大な損害を与えるからだ。

経済制裁とは自国の経済の影響の少ない範囲で行うものであり、米国も同様である。米国と日本の損得は別なのだから、米国の経済制裁に追随すればいい、ということにはならない。経済は人々の生活を支えるものであり、それを制限することは人権を弾圧することにつながるのだ。

もし、中国が日本を制裁してきたら、それにも正々堂々と反論すべきである。そうしないと、日本は国際的に信頼されないだろう。

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2.隠していたものが明らかになる

コロナ禍はグローバリズムを終了させた。本来、グローバリズムは、世界が共通の価値観を持たなければ成立しない。例えば、平気で技術を盗むような国とは自由貿易はできない。中国人は日本に自由に入ってきて、自由な行動をするのに、日本人が中国で様々な制限を受けるのはアンフェアだ。日中関係のみならず、海外との関係では相互主義を原則にするべきだと思う。

コロナ禍は中国の野心をあぶり出した。中国政府は改革開放を唱えたが、開放はしても改革はしなかった。世界を共産主義で支配するという野心を捨てていなかったのだ。

前回の大統領選挙以降、米国の分断も明らかになった。

そして、コロナ禍は日本の政治や行政の実態も明らかにした。行政は縦割りであり、前例主義であり、省益中心に動いている。それは緊急事態でも変わらない。

政治家は選挙と政局しか考えていない。そして、パフォーマンスが先行し、国民をコントロールしたがっている。そして、現場対応力が貧弱である。

世界のあらゆる国や地域で、それまで隠されてきたことは明らかになってきた。これはインターネットの効果といえるだろう。

これまで政治や経済について語るのは一部の政治家や評論家、専門家だけだった。しかし、今は一般市民が専門家と同様の情報を持ち、発言できるようになった。従って、政府やマスコミが簡単には騙せない。

その中で、大手マスコミやメガテックは、あからさまに言論弾圧を行っている。考えてみれば、昔から出版禁止、放送禁止に指定されるコンテンツは存在した。言論の自由は法的に認められていたが、それはメディアをコントロールできるという前提があったからかもしれない。かつて一部の作家やアーティストが味わった検閲を、現在では一般の市民が味わうようになったのだ。

今後も真実の追求は収まらないだろう。そして、隠していたものが表面に出てくる。もし、既存のメディアしか見ない人がいれば、ネットを見ている人との情報格差は益々拡大するに違いない。そして、新たな分断が起きるのだ。

3.ビジネスより大切なもの

学生は勉強について語り、社会人は仕事について語る。政治家は政治について語り、経済評論家は経済について語る。これが今までの常識だ。

もちろん、家庭でテレビを見ながら、政治について文句を言ったり、経済について嘆くこともあっただろう。しかし、それが公開されることはなかった。

しかし、インターネットの出現により、誰もが発言できるようになった。そして、学生、社会人という境界も曖昧になった。

一人の人間が生きていく上では、社会のことも経済のことも人権や環境のことも考えなければならない。しかし、それはあくまで建前だった。

社会には役割分担があるのだから、経営者は会社の利益だけを考えていればいい。人権や環境のことは政治家に任せておけばいい。そんなコロナ以前の常識は、通用しなくなっている。

経営を考えて安価で品質の良い新疆綿を使っていたユニクロが、「人権より商売の方が大切なのか」と責められている。しかし、多くの量販店や専門店も新疆綿を使っている。多分、大多数の経営者は「自分の役割は人権より経営を優先すること」と思っているだろう。

しかし、最も人権より金儲けを優先しているのは、中国政府や中国企業である。外国から技術を盗むことは悪いと思っていないし、盗んだ技術をいち早く特許申請し、それで資金調達して日本企業を買収することもある。買収時に下請けや社員の雇用は守ると約束しても、買収してしまえば関係ない。とにかく、金を儲けた方が偉いという価値観を持っているのだ。

しかし、今後は中国経済が急速に悪化するだろう。そして、中国進出した日本企業の業績も悪化するだろう。中国企業に投資していたソフトバンクグループも中国投資を見直している。

欧米各国が人権や環境のことを強調するのは、経済的利益より優先する問題があるという意志表示である。そして、中国を切り離し、制裁を加える根拠でもある。

金儲けより重要なことがある。コストを下げれば良いというものでもないし、会社に利益を残せば良いというものでもない。企業も個人も社会の一員であり、社会に貢献する義務があるのだ。

これが理解できない企業はブラック企業として糾弾されることになるだろう。既存企業はビジョンの見直しを余儀なくされ、それができない企業は淘汰され、世代交代が起きるに違いない。

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4.ローカルに生きるライフスタイル

日本にとって、中国生産は大量生産大量消費を維持することが目的だった。ある意味で中国の工場は20世紀型工場である。そして、世界的な供給過剰に陥り、原材料やエネルギー費の高騰を招いている。

21世紀型の工場は、市場に直結し、無駄を排除した少量生産になるだろう。本格的にロボティクスが発展すれば、無人に近い工場でオーダーメイド生産が行えるようになる。そうなれば人件費の違いは関係なくなる。

大量の商品を中国から輸入するには物流が必要になる。化石燃料の消費とCO2排出も起きる。

店頭販売からネット販売に移行するだけで、店頭在庫は削減される。そこに、クラウドファンディング的な前払い制度や注文生産が普及すれば、生産数量は更に絞れる。

国内生産で完結し、工場の電力に小水力発電や木質バイオマス発電、小型原発を使い、運送トラックが水素エンジンや燃料電池で動けばCO2も排出しない。

需給バランスを調整すれば無駄な資源も使わないし、廃棄も減少することが可能になる。

食料品は勿論、あらゆる生活用品の地産地消が進めば、地方に雇用も生まれ、人口も拡散し、環境に優しい社会が誕生する。

更に、地域経済が地域電子通貨で回るようになれば、為替や相場等の影響も受けにくくなる。

ある意味で、鎖国的な政策のようにも見えるが、貿易や渡航の制限をしようというものではない。あるべき消費と生産、エネルギーと環境の問題を追求した結果として、地域で独立した経済圏、生活圏、通貨圏を形成しようという試みである。

グローバリズムは貧富の格差を拡大し、大量生産と大量廃棄を生じさせ、環境を破壊する。ローカリズムこそ、格差を是正し、資源の枯渇を防ぎ、ゴミを減らし、環境を守ることにつながる。そして、産業政策だけでなく、ライフスタイルもまた、地域密着型コミュニティを基本にした生活になるべきではないか。

編集後記「締めの都々逸」

「新年明けたら コロナを丸め 虎に食わせて 忘れたい」

大きなことを考えてたら、小さなことを考える。そういうクセがついていると、大きな疑問を自分なりに整理しないと、何も発言できなくなります。

ということで、今年以降のことを考えながら、まとめてみました。

単純な二元論ではどんな問題も解決しない時代だと思っています。世の中、複雑系です。でも、複雑系はややこしい。ややこしいことを聞くのは面倒くさい。だから、白黒はっきりしましょうよ、という世論が多いのですが、それでは問題は解決しないと思うのです。

ということで、ややこしいことを発言していこうと思っています。今年も、よろしく。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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