2018年に本格化し、現在も収まる気配がないと言われる米中対立。あらゆる面で中国の「非」を攻め立てる米国ですが、はたしてそこに大義は存在するのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、英国人政治評論家の論評を引きつつ米政府の中国に対する「誤った対応」を非難。さらにその米国の主張に吟味もせずに付き従う日本についても強い批判を記しています。
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年1月3日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
自分の衰退を中国のせいにしようとして罪をなすりつける米国の病的心理/ガネシュ記者の論説に学ぶ
今年は、米国ではバイデン政権の命運を占う中間選挙、中国では習近平体制の確立を賭けた共産党大会が開かれる。そのそれぞれが秋の山場までにどういう展開を迎えるか、2つの変数とその掛け合わせ次第で、それでなくともギクシャクが続く米中関係の行方が左右されていくことになろう。
日本のマスメディアでは、中国をことさらに醜悪に描き上げ、それに対して米国を盟主とし日本を副官とする「民主主義陣営」が立ち向かって行くといった、米国直輸入の冷戦思考そのままの勇ましい論調が主流を占めているけれども、その中にあって、12月31日付日本経済新聞に載った英「フィナンシャル・タイムズ」米政治担当の首席評論員=ジャナン・ガネシュの「中国台頭、米の責任ではない」と題した論評は、珍しく(と言っては失礼かもしれないが)正気を保ったもので、私の意見とも多くの部分で合致する。
中国の台頭は必然
ガネシュは要旨次のように言う。
1.米国は1990年代には世界で唯一の覇権国だった。中国が今後、米国を追い抜くかどうかはともかく、米国は90年代当時の地位は既に失った。そのトラウマを癒そうと米国は、一体何をどうすればよかったのかとくよくよと考え続けている。
2.だが、どこで失敗したのかと模索するのは「逃げ」とも言える。現状を自分たちが過ちを犯した結果だと捉えるのでなければ、米国よりはるかに巨大で長い歴史を持つ中国が、世界で再び台頭するのは必然だったと認めることになるからだ。
3.欧米はある程度、犠牲を払えば中国台頭を遅らせられたかもしれないが、それを阻止することなどもとより不可能だった。己の無力を認めることは、罪を認めるよりもつらい。米国以外の西側諸国も、中国台頭を阻止できないと認めるのは米国と同様にできていない。「欧米はいかに簡単に中国の台頭を許したか」という見出しが米フォックスニュースで踊っても驚かないが、英BBCのサイトに10日、似たタイトルの記事が載った〔本誌注:How the West invited China to eat its lunch〕。
4.これらの見出しには、自分たちの無力さを認めたがらない欧米のメンタリティが反映されており、2つの前提が含まれている。第1は、中国のWTO加盟は阻止できたはずだという考えだ。だがそれは当時、市場開放に向け改革を進めていた世界人口の5分の1を占める中国を世界経済から排除するなどできるはずがなかった。第2は加盟を阻止していれば西側諸国が不利益を被ることがなかったという考え方だが、あれだけ多くの西側企業が中国の安い労働力をてこに大きく成長した事実を忘れているのか。
5.中国の台頭はその長い栄枯盛衰の歴史からみれば驚くべきことではない。いまの中国台頭を異常現象のように捉えること自体が時代錯誤だ。
6.米国がこれだけ衰退しているのに、まだ覇権国と自負していることが米政府の矛盾した対応につながっている。対中強硬派のポンペオ前米国務長官は、ニクソン大統領が中国を国として承認したことさえ甘かったとみていた。こうした薄っぺらな強硬姿勢の問題は、そもそも中国には自力で繁栄する力はないと言いたげな点である、中国に力がないのなら、なぜかくも中国に強硬姿勢をとるのか……。