「すべて中国のせいにする病」の米国に服従する日本という重症国家

 

「覇権システム」をめぐる米国の錯誤

以上のガネシュの論述に大筋賛成しつつも、若干細かいところまで含めて注釈する。

第1に、1.の1行目「米国は1990年代には世界で唯一の覇権国だった」は、正確ではない。これは正しくは、「米国は1990年代には世界で唯一の覇権国だと思い込んだ。それが今日に至る対中態度の迷走の出発点となった」と書くべきである。

本誌は、1989年12月のブッシュ父米大統領とゴルバチョフ=ソ連大統領のマルタ会談で「冷戦終結」が宣言され、やがてブッシュが「米国は“冷戦”という名の第3次世界大戦に勝利し、今や唯一の超大国となった」言い出した時から、「違う。ソ連だけでなく米国もまた負けたのだ」と主張し続けてきた。冷戦の終わりとは、ただそれだけでなく、それ以前の数世紀におよぶ熱戦の時代を含めて、国家と国家が重武装に頼って覇を競い合う戦争中毒の時代が終わることを意味するのである以上、唯一も何も、覇権という観念そのものが消滅するのであり、その基本的な世界潮流を見誤れば、米国は自らの衰退を早めるだけである。

このことについては、本誌を通じて、また本誌の関連記事を中心に米国のアフガンとイラクの2つの戦争の過ちを指摘した『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版、2006年刊)の特に「終章/イラク以後の世界へ」で論じてきた。ここは21世紀の世界構造を理解する上での肝心要なので、是非同署をご参照いただきたい。一言でいえば、米国がそこで自己認識を間違えて、「超」はつかないけれども十分に大きな「大国の1つ」として世界と上手に折り合いを付けながら生きていく道筋の探究を始めなかったことが、世界の大迷惑の根本原因なのである。

だから5.でガネシュが米国がこれだけ衰退しているのに、まだ覇権国と自負していることが米政府の矛盾した対応につながっている」と言うのは、全く正しい。私は最近はこれを、自分の客観的な位置や周辺状況が分からなくなって徘徊したり凶暴に走ったりする老大国の認知障害状況と呼んでいる。

中国の台頭は歴史の必然である

第2に、彼が2.と3.で言うように、「中国が世界で再び台頭するのは必然」であり「欧米がそれを阻止することなどもとより不可能」であるというのは本当で、これは中国が好きだとか嫌いだとかいうレベルの個人感情とは関係がない、世界史的な客観的プロセスである。

これについては本誌はしばしば、国際政治の学生なら誰もが知っている「マディソン教授の世界GDPシェアの2000年変遷図」〔写真 https://bit.ly/3eLIJaA 〕を使って説明してきた。(耳にタコの読者の方もいるかもしれませんが)紀元1年から1700年頃までの世界主要国のGDPシェアでは赤の中国と橙の世界2大国を合わせると全体の7~8割程度であり、特に中国を見ると1820年辺りで過去最大の世界シェア4割ほどまで達している。その直後の1840年が英国が引き起こしたアヘン戦争で、それを期に中国は日本を含む列強帝国主義に好き放題に翻弄され、まるで風船がパンクしたかのように縮んで、1950年にどん底を迎える。

そこから盛り返して今は18%ほどまで来て、ランド・コーポレーションの分析ではすでにpppベースのGDPでは米国を抜き去りつつある。これを中国の方から見ると、19世紀半ば清国最盛期に英国にしてやられてから雌伏すること160年、今こそ「偉大なる中国の復活」すなわちアヘン戦争前の数千年を通じて中国がインドと並ぶ圧倒的経済大国であった時代を復元するのであって、まさに「異常現象」であるどころか、世界史を正常な姿に戻すことなのである〔写真 https://bit.ly/3eLIJaA 〕。

その中国の自己認識が正しいかどうかは議論の余地があるかもしれないが、少なくとも中国の側から見れば世界がそう見えていることを計算に入れずにこの国と向き合うことはできない。

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