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自殺者も多数。大学という閉鎖的環境で起きている「アカハラ」の異常

外部の目が届きにくく、さまざまなハラスメント行為が日常的に繰り返される研究室も存在する大学という場所。そのあまりの酷さに自死を選ぶ被害者が出るなど、到底見過ごすことはできない社会問題となっています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、自身も経験したというアカデミック・ハラスメントの深刻さを取り上げるとともに、機能しているとは言い難い大学ハラスメント防止窓口の現状を紹介。その上で、状況改善に繋がる国による実態調査実施の重要性を訴えています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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閉鎖的環境での「アカハラ」問題

日本のハラスメント対策の不完全さは、これまで何回も指摘してきましたが、その中でも遅れているのが「アカハラ」対策です。

アカハラ=アカデミック・ハラスメント(キャンパス・ハラスメント)は、教育研究上の優越的地位を利用して、学生や研究者の利益や権利を侵害する人権侵害のこと。性的な嫌がらせ(セクハラ)や過剰な叱責・誹謗中傷などのパワハラに加え、研究活動の妨害や研究成果や論文の盗用や、私的に学生や研究者を使う強要行為など、多岐にわたります。

また、LGBTに関連する差別的な扱いや発言、アウティングなどの問題も多く、数年前には非常に痛ましい事件もありました。

加害者と被害者の関係も「教員→学生」だけではなく、教員→職員、教員→教員、職員→職員、学生→学生、さらには、学生→教員もあり、私自身、実際に経験したり、研究者仲間から相談を受けたりしてきました。

大学という「場」は、中に入らないと知り得ない絶対的な力関係と閉鎖的環境があり、問題が起きても「外部の目」が入りづらいのです。

大学の研究室は教授が一国一城の主的存在であり、少人数制であると共に、「自分の人生の進路」が大きく関わってくるので、被害者も口外しずらい事情もあります。被害者の多くは一人で抱え込み、精神疾患に陥ったり、退学を余儀なくされるケースも少なくありません。

朝日新聞は1月11日付の朝刊一面で「学内セクハラ 整わぬ相談体制」という見出しで、アカハラの実態の一部を報じていました。

内容は、研究者を目指し、大学院に進学した女性が教授からセクハラを受け、大学を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こしたケースを取り上げたものです。

大学に相談窓口はなく、大学の調査委員会に申し立てを行ったそうです。しかし、3ヶ月も放置された上に、納得いく説明もなかったことから訴訟に踏み切ったとされています。

文科省が2018年に実施した調査では、全国の99.7%の大学がハラスメント防止に取り組み、99.3%が相談窓口を設置しています。しかし、その運用方法に基準はなく、「機能していない」という意見が多かった。

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また、朝日新聞が文科省が進める研究大学強化促進事業の19大学を対象に行った調査で、5大学が「相談にあたる専任の相談員がいない」と回答。その理由として「専任を置く金銭的な余裕がない」「適当な人材がいない」などが挙げられました。専任の相談員がいる大学でも「相談員に専門の知識がない」との意見が出たそうです。

あくまでも私の実感ですが、学生の相談窓口はある程度機能している大学はあります。しかし、教員や社会人を経験してから大学院に進学した人の場合、そもそも「相談する対象」にすらなっていないように思います。

教員の中には非常勤で雇用され、就活を続けながら大学の講義をしている人も多くいます。不安かつ不安定な日々を過ごしているのに、教授から罵倒されたり雑用を強いられたり。あるいは、「1年間は非常勤で、2年目には正式雇用する」と言われていたのに、さんざん使うだけ使って、約束をなかったことにされたり。

休暇を取っただけで、「なんであなただけ取るんだ?」と叱責され、「勤務態度が悪い」と悪評を流されたり。

未来ある優秀な研究者たちの人生が、「密室」で破壊されているリアルが存在しているのです。

民間企業のハラスメント対策も十分機能しているとは言い難いものですが、対策が進んだのは、国が大規模な「実態調査」を行ったことも大きな要因の一つです。

アカハラはほとんどのケースが公開されず、和解をする代わりに「公言してはいけない」とする大学も多く、件数や被害状況などの実態はほとんどわかっていません。

メディアが継続的に実態を取り上げ、発信し続けることで、社会の関心が高まり、国が動くことがある。私もできる限り、メディアで具体的なケースの発信をするつもりですが、大手メディアには是非とも頑張って、国に「大規模調査をやる」と言わせてほしい。

大学という「教育の現場」で、ハラスメントが存在し、隠蔽されるのは許されることではないと思います。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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