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「オミクロン株の危険性」ばかり強調するマスコミを疑え。上昌広医師が緊急提言

驚異的な感染力で、全世界に爆発的な広がりを見せるオミクロン株。マスコミはこれまで同様に危険性を強調していますが、はたしてそれはどこまで信用できるものなのでしょうか。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上 昌広先生は今回、データに基づいた冷静な判断が必要として、オミクロン株の毒性が低い証拠を提示。その上で、同株への感染を過度に恐れるべきでない理由を記すとともに、従来通りの日常生活を送ることの重要性を訴えています。

プロフィール:上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

緊急寄稿。上昌広医師が警告、国民を殺す「誤ったオミクロン株対策」

オミクロン株にどう対応すべきか。1月6日、政府は沖縄、広島、山口県に対し特措法に基づくまん延防止等重点措置を適用、11日には水際対策を2月末まで延長することを決めた。

マスコミは「病床逼迫リスク再び 東京、空床の即時把握できぬまま(日本経済新聞1月5日)」、「沖縄、一般診療に制限 一部病院担い手不足(読売新聞1月8日)」など、オミクロン株の危険性を強調する。

私は、このような論調に賛同できない。オミクロン株は全く未知のウイルスではない。南アフリカや英米から多数の臨床研究が報告されている。データに基づき、冷静に判断すべきだ。

日本の感染者数

日本の感染者数は多いのか。図1をご覧いただきたい。経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国の1月9日の人口100万人あたりの感染者数を示す。日本の感染者は35.2人で、厳格な水際対策が成功しているニュージーランド(11.9人)に次いで少ない。仏(3,946人)、伊(2,624人)、英(2,607人)、米(2,130人)など欧米先進国とは比較にならない。

ところが、このような欧米での対応は日本より遙かに緩い。12月27日、米バイデン大統領は「備えはできている。学校と経済は動かし続ける」、1月4日、英ジョンソン大統領は「学校と企業活動を継続させ、コロナと共に生きていく方法を見いだす」と発言している。日本の感染者数で「第6波がきた」と騒ぐのは滑稽だ。

オミクロン株は毒性が低い

なぜ、海外は冷静でいられるのか。それはオミクロン株の毒性が低いことが分かっているからだ。既に複数のグループから、オミクロン株の毒性についての研究が報告されている。例えば、12月23日、英保健安全保障庁の研究チームは、英国でのオミクロン株感染者5万6,066人の転帰を分析し、デルタ株と比較し、重症化リスク(入院リスク)は62%低いと報告している。状況は米国も同じだ。昨年12月1日と比べ、1月10日の感染者は8.7倍増加したが、死者数は1.7倍しか増えていない。

日本でも、オミクロン株感染は重症化しにくい。1月4日現在、沖縄県では675人の感染が確認されていたが、このうち623人(92%)は無症状あるいは軽症だ。

コロナ対策で重視すべきは、感染者数ではなく、重症者や死者を減らすことだ。オミクロン株の感染を過度に恐れるべきではない。

オミクロン株に感染したらどうすればいいのか

では、オミクロン株に感染した場合、どうすればいいのか。最近になって緩和されたが、日本では、オミクロン株感染者は、原則として入院が必要だ。

これは患者にとっても、社会にとっても最悪の対応だ。大部分は無症状、あるいは軽症なのだから、医学的には入院の必要はない。高齢者は入院をきっかけに、認知症が進んだり、体力を落とすから、出来るだけ自宅で治療すべきだ。

ただ、そうはいっても、高齢者や持病を有する人の中には、心配な方もおられるだろう。そういう方にはオンライン診療で、医師が定期的に診察すればいい。

コロナの流行が始まり、世界中で「非接触」の需要が高まった。必要は発明の母だ。

この2年間で世界の医療提供体制は大きく変化した。昨年11月には、米ジョンソン・エンド・ジョンソンが、糖尿病治療薬の第3相臨床試験を、被験者が医療機関に通院することなく、全てバーチャルでやり遂げたと発表しているし、昨年1月には、米ユナイテッドヘルスケア社が、遠隔診療に限定したプライマリケアを提供する保険の販売を米国11州で開始している。同社の調査によると、利用者の4人に一人は主治医と直接会うより、バーチャルなやりとりの方が良いと回答している。

日本医師会の抵抗もあり、日本ではオンライン診療が進んでいないが、一部の開業医は熱心に取り組んでいる。万が一、オミクロン株に感染し、自宅療養となった場合、保健所が紹介する医師への対応に満足できなければ、遠慮なく、このような医師に連絡し、オンラインで診療を受けることをお奨めする。

経口治療薬

オミクロン株の多くは無症状、軽症といえども、高齢者やハイリスク患者が万が一感染した際には、早期治療、つまりコロナ治療薬の服用が望ましい。点滴薬もあるが、経口薬なら、自宅での服用も可能だ。

ところが、その治療薬の入手が遅れている。米メルク社のモルヌピラビル、米ファイザー社のパクスロビドなどの経口治療薬は、感染早期に投与することで、重症化や死亡のリスクを、それぞれ3割、9割減らすことが証明されている。このような治療薬はオミクロン株にも有効だ。世界各国は治療薬確保に奔走している。

米国政府は1月4日、ファイザー社のパクスロビドの供給を、昨年11月に契約した1,000万回分から2,000万回分に倍増させたと発表した。1月末までに400万回分が納入される。日本が確保したのはモルヌピラビル160万回分、パクスロビド200万回分で、十分量とは言いがたい。1月7日、日本経済新聞は、調剤薬局クオールで「4日時点で全店の1割にあたる約90店に届いたが、この店には1箱、患者一人分のみ」という状況を紹介している。

コロナ治療薬確保は、政府の仕事だ。奮起を期待したい。

追加接種の促進を

治療薬の確保と並ぶオミクロン株対策の中核は追加接種だ。従来型ワクチンの追加接種はオミクロン株にも有効だ。昨年12月11日、イスラエルのシェバ・メディカルセンターと同国保健省の中央ウイルス学研究所は、追加接種により、オミクロン株への中和活性が100倍高まったと報告している。同様の研究は、昨年12月23日、米マサチューセッツ総合病院の研究グループが、米『セル』誌に報告している。

世界各国は追加接種の推進に懸命だ。残念なことに、日本は先進国で一人負けだ。OECD加盟38国中、35カ国が接種率を公表しているが、日本は断トツの最下位である。

岸田総理は、大規模接種会場を再開するなどして、追加接種を前倒しする方針を明かしている。速やかに追加接種されることをお奨めしたい。

日常生活の継続

オミクロン株対策として、最後に挙げたいのは、従来通りの日常生活を送ることの重要性だ。

あまり議論されることはないが、規制強化は経済面だけでなく、健康にも悪影響を及ぼす。高齢化が進んだ日本では、その影響は深刻だ。実は、コロナ流行下で日本での死亡数は増加している。医療ガバナンス研究所の山下えりかの調査によれば、2017~19年の死亡数と比較し、2020、21年の5月は、1.25倍、1.37倍、8月は1.29倍、1.35倍、更に2021年の1月には1.19倍死亡者数が増えていた。コロナが流行する度に死亡が増加していることがわかる。この増加は自然変動では説明がつかず、国立感染症研究所は「超過死亡」を認定している。「超過死亡」はコロナ感染による死亡が増えたためではない。2021年1月には過去3年間と比べて、2万4,748人死者が増えているが、この時期にコロナによる死亡が認定されたのは、2,261人に過ぎない。コロナの流行時期に合わせて、多数のコロナ関連死が生じていたと考えるのが妥当だ。

12月24日、スポーツ庁は全国の小学5年生と中学2年生を対象とした2021年度の全国体力テストで、男女とも全8種目の合計点の平均値が調査開始以来最低であったと発表した。

小中学生の体力がこれだけ落ちるのだから、高齢者の健康が害されるのも宜なるかだ。今回のオミクロン株での規制強化でも、多くの高齢者の命が失われるだろう。

最後に

オミクロン株対策は合理的でなければならない。海外の経験からもっと学ぶべきだ。

オミクロン株の流行は、南アフリカだけでなく、英国、ギリシャなどでもピークアウトしている。感染拡大から1ヶ月程度で収束に転じたことになる。日本も同様の展開を辿るだろう。ちなみに昨年の冬の流行のピークは1月11日だった。日本でのオミクロン株の流行が欧米レベルまで拡大する可能性は低い。大騒ぎせず、冷静に科学的に議論すべきである。

 

上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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