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透ける維新の企み。大阪府と読売の“包括協定”が炙り出した「カジノ誘致」

昨年末、突如「包括連携協定」を結んだと発表した大阪府と読売新聞大阪本社。「権力の監視」の役割を持つ全国紙が自治体とこのような関係を結ぶ背景には、どのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、府、読売各々の思惑を分析し解説。さらに維新の会の「企て」についても推測しています。

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大阪読売と大阪府の包括協定に見るメディアの堕落

読売新聞大阪本社がこのほど「包括連携協定」なるものを大阪府と結んだ。いったい何をしようとしているのか。

ただでさえ、在阪の主要メディアは居心地のいい府政記者クラブ、市政記者クラブなどに加盟し、府市から情報提供サービスを受けて、体よく報道コントロールされている。その距離をもっと縮めようというのである。

政治権力と一体化するかのごとき報道機関など、国民の知る権利にこたえられるはずがない。“新聞離れ”が進むなか、権力の監視という本来の役割を捨ててでも生き残りをはかろうとしているようにさえ見える。

「包括連携協定」はそんなものではないという反論もあるだろう。むろん、協定の趣旨そのものは筋が通っている。行政だけで時代の激しい変化に対応するのはむずかしい。民間企業と協力し、地域の課題を解決するのだという。

情報発信や防災対策のために、神奈川県と株式会社LINE、福岡市とYahoo!株式会社がこれを締結するなど、全国各地で取り組みが広がっているのは確かだ。地方紙が自治体と協定を結ぶケースも散見される。

では、読売新聞と大阪府は、具体的に何をどうするつもりなのだろうか。大阪府の資料には、府職員に読売記者が「読む・書く・話す」力を向上させる特別講義を行うとか、府立の小中学校へ出前授業をするとか、読売主催の文化イベントに招待するとか、たくさんの項目が並べられている。実際にどこまでニーズがあるのかはともかくとしても、決して腹に落ちる内容ではない。

ポイントになりそうなのは「大阪府の情報発信への協力」「万博に関連した情報の発信」といった項目だ。情報発信については、読売ファミリーなど無料の生活情報紙が媒体として例示されているが、当然のことながら、府が期待するのは読売本紙であろう。

しかし、万博などの情報発信のためだけに、大阪府が一つの新聞社と手を握ることは考えにくい。万博に関連した情報は、記者クラブで全加盟社向けにいくらでも発表できるからだ。役所まるがかえの記者クラブにいるだけで、放っておいても役人がネタを提供してくれるため、各社は複数の記者を常駐させている。つまり、情報発信に府が苦労するはずはないということだ。

ならば、府は何を読売新聞に期待しているのだろうか。考えられることはただ一つ。吉村府政への、紙面での援護射撃だ。東京五輪もそうだったが、万博という国家的プロジェクトを進める過程では、巨費を投じるだけにメディアからのさまざまな批判が予想される。

万博会場である人工島・夢洲には初期投資約1兆800億円でカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致する予定でもあり、大阪府と大阪市は今年4月までに計画を国に提出することになっている。この夢洲の土壌汚染対策費用だけでも約800億円かかるという。カジノには府民の反発も強く、実現までには曲折が予想される。

読売新聞が今回の協定により、大阪府知事の意向を忖度するようになれば、カジノ反対派の意見は軽視され、推進派の言い分がより大きく紙面に反映されるだろう。

いうまでもなく、万博とカジノリゾートで成功するか否かは、大阪を根城とする日本維新の会の浮沈にかかわってくる。党の吉村副代表をトップとする大阪府が、発行部数ナンバーワンの読売を味方につけたいと思っても一向に不思議ではない。あたかも、読売を御用新聞のごとく利用したアベ・スガ政権のように。

とはいえ、今回の話は大阪府から持ちかけたわけではない。包括連携協定は、あくまで企業側が提案することになっている。

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では、これを提案した読売新聞のねらいは何か。もちろん、府に食い込めば、取材がしやすくなるだろう。だが、それよりも営業上のメリットを重視したに違いない。大阪府の職員は警察や公営企業を含め7万人近くもいる。販売戦略を立てやすくなるのは確かだ。

背景にあるのは、新聞購読者数の減少である。日本新聞協会が2021年12月下旬に公表したデータによると、同年10月時点で日刊紙97紙の総発行部数は、前年比5.5%減の3,065万7153部だった。

2011年には4,400万部だったことを考えれば、恐るべき落ち込みようである。かつて販売部数1,000万超と吹聴していた読売新聞も738万部ほどに減り、うち大阪本社分は189万部と、例外なく凋落している。

その昔、大阪読売はそれなりに気概のある新聞社だった。

1874年に東京で創刊された読売新聞が、朝日、毎日の地盤である大阪に進出し、「大阪読売」という新聞社を設立したのは1952年10月のことである。

その後、読売新聞大阪本社と商号を変え、ナベツネこと渡邉恒雄氏がいて保守色の強い東京本社とは一味も二味も違う新聞を発行していた。

とりわけ記憶に残っているのは「黒田軍団」と呼ばれる社会部内のグループだ。黒田清社会部長が率い、1970年代から80年代半ばにかけて弱者の視点から異色の記事をつむぎだし、大阪読売の一時代を築いた。

戦争の悲惨さを訴える連載で菊池寛賞を受けた黒田氏らは84年にポーランドでの原爆展を企画した。これが社論の右傾化を強めようとする渡邊氏の逆鱗に触れた。原爆展を終えてポーランドから帰国した黒田氏は社会部長のポストを追われ、軍団の面々は部内の閑職か地方支局に飛ばされた。

その後、渡邊氏は社内に憲法調査会のごときチームを設置して「憲法改正試案」をまとめ、紙面で発表するなど、政治への関与をいっそう強めてゆく。渡邊氏の思惑通り、大阪本社の紙面もしだいに東京の色に染まっていった。

95歳になった今も読売新聞グループ本社代表取締役主筆を続ける渡邉氏が、安倍政権を支援してきたことは周知の通りだ。権力に近づこうとする読売の体質は、渡邊氏という“独裁者”に支配されてきた報道機関が持つ負の側面だ。

大手新聞ほど、権力に庇護されている民間企業はない。国有地を安く払い下げてもらってそこに本社を建て、電波利権を与えられてテレビ局を開設し、なおかつ新聞だけは公取委に再販制度を黙認させて、新聞価格を高く維持している。

しかも大阪府市の場合は、維新という政党が密接にからんでいる。維新の側から見ると、大阪府を利用して読売新聞を取り込む図式だ。

だからこそ、普通の民間企業や地方紙よりもはるかに、権力との距離を保つことに神経を使う必要があるのだ。今回、読売新聞大阪本社はその点を見誤った。大阪本社の柴田岳社長は元々、東京読売の論説委員や常務をつとめた人である。

最近、大阪府と大阪市はアベ・スガ官邸における密室政治の中心人物だった和泉洋人元首相補佐官を特別顧問にした。加計学園の獣医学部新設を企んだ安倍首相の“密使”として、当時の前川喜平文科事務次官に「総理は言えないから私が言う」と設置認可するようプレッシャーをかけた人物だ。前川氏に関するスキャンダルめいた記事を読売新聞に書かせた件にもからんでいると疑われている。

大阪府と読売新聞の結託、和泉氏の大阪府市特別顧問への就任。それらは万博やカジノリゾートにつながる一連の動きのような気がしてならない。

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image by: 大阪府公式HP

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