オミクロン株に対する感染防止策として「人流の制限」より「人数の制限」と発言した尾身会長に対し、自治体の長などから反発の声が上がりました。しかし、わかりにくい発言意図も、そもそも「人流」などなく常に「まん防」状態にある島根県浜田市での感染拡大の状況を見ることでわかりやすくなると説くのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。大都会と同じようにオミクロン株が拡大したのは、学校などは大都会と変わらない「人数」が集まるためと解説。故に「人流」ではなく「人数」に対して制限をかける対策が必要だと、具体例を上げています。
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『デフォルトまん防』のこと
物書きなら何かについて話をする時には(もちろん時間と予算の許す限りにおいてだが)必ずリサーチをする。その過程において思わぬ知識や情報を得ることも多い。今回はそういう、言ってみれば「調査余滴」のようなものからの話である。
前回、中四国地方におけるオミクロン株拡大のルートの一つとして山口県岩国市→広島市→島根県浜田市というのを挙げた。
● 「岩国基地」発「広島」経由。中国地方の感染拡大に見る地方医療の崩壊危機
この浜田市についての「調査余滴」である。というのも今回の調査が、この人口約53,000人という日本のどこにでもありそうな典型的な地方市においてCOVID-19のような世界的感染症がどのように広がり、そしてこの先どのように収束していくか、といった一連の過程をしっかり調査・考察することの必要性を認識するきっかけとなったからである。思えば我々が日々与えられている情報はあまりにも大都市的である。
浜田市は島根県第3の人口を抱える市である。といっても当該県の人口分布は多少いびつで、第1位の県庁所在地松江市(人口約202,000人)と隣接する第2位の出雲市(人口約172,000人)とは随分へだたりがある形での第3位なのである。人口何万人から都市的と言っていいのかはよく分からないけれど、超民間基準の「スタバ」のあるなしで言えば、県内では松江市に2店舗、出雲市に2店舗あるのみである。傍証にしても搦め手に過ぎる気もするが多少は想像の役に立ったであろうか。
以下、同市について取材等で分かったことをまとめる。
- 飲食業は既に廃れてしまっている
- 公共交通機関はほとんど利用しない
- 大規模なイベント会場はない
これは言うなれば「デフォルトまん防」である。コロナ前から、外食はほとんどしない、満員電車もない、大人数の滞留もない。ディスタンスも普通にしていれば十分確保できるし、加えて手指消毒やマスク、検温チェックなどの対策も徹底している。
それでも同市において感染は広がった。その原因はおそらく学校(幼稚園・保育園を含む)である。ここだけは大都会と変わらぬ人数が集まるからだ。尾身会長が「人流の制限」と「人数の制限」を相反するような概念のように用いてその結果各方面から分かりづらいと批判を受けたが、一転田舎では分かり易いのである。集まらなければいいという訳である。
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では学校を閉鎖すればいいではないか、ということにはなるのだけれどここで思い出してもらいたい。一番初めの緊急事態宣言中において最も評判の悪かった施策が学校等の閉鎖であった。これはなかなか口には出せない。政治家ならなおさらだ。そこで「各自治体の判断」となる訳である。
一応政府の方針通りにことが進めば、1月27日からまん延防止等重点措置の適用地域は島根県(同県に関しては初めて)を含む18道府県を新たに加えた計34都道府県となる。飽くまで個人的な意見としておくが、この効果は極めて限定的であると思う。「デフォルトまん防」の地方市でも感染拡大しているからである。
運が良ければ、耳を塞いで目を閉じている間に自然にピークアウト、そしてフェードアウトして行くかもしれない。だがもし運が悪ければそれはそのまま最悪の事態となる。オミクロン株の脅威は感染者数の多さそのものにある。数の暴力ほど恐ろしいものはない。社会を正常に維持するための基幹労働力が確保できないようなことになってしまえば実質的にロックダウンと同じような状況となってしまう。このような受動的なロックダウンは能動的なそれと比べものにならぬくらいの不安感を市民に与えることであろう。
実は第6波は今までで最も危険かもしれない。殺傷力の高い一撃ではなく、徐々に数を削るという戦術で来ているからだ。こういう戦いを強いられると気づいた時には既に数的に戦闘不能ということも起こり得る。
それを回避するには防衛線が必要である。患者数がある数(あるいはある率)を超えれば学校閉鎖、さらに超えればエッセンシャルワーカー以外の電車利用禁止などである。相手が数で来る以上、防衛線も数によって策定されるべきであると考えるからである。
敵が変わればこちらも戦い方を変えねばならない。戦とはそういうものであろう。にもかかわらず、呑気に「今までの、これまでの」などと言ってばかりいては手遅れになってしまう。最前線ではもう既に、第6.5波あるいは第7波の影が見えているのだから。
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