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あの原発事故で東電は本当に「国有化」されなければならなかったのか?

今から約11年前に起きた、東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故は、私たち日本人に大きな衝撃を与えました。その後、東京電力は事実上「国営化」されていますが、この流れに疑問を抱く人はいないのでしょうか? 今回のメルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』では、 福島第一原発事故の責任はどこにあるのか、そして国と東京電力の「不審な動き」を追い、真実に近づこうとしている一冊を紹介しています。

【一日一冊】福島原子力事故の責任 法律の正義と社会的公正

福島原子力事故の責任 法律の正義と社会的公正

森本紀行 著/社団法人日本電気協会新聞部

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は、東京電力の国営化と解体だけでなく、電気事業の自由化、再生可能エネルギーの導入という電気事業改革のきっかけになりました。

震災当時、私は東京電力は損害賠償を払うため発電所を売り払うのではないかと考えていましたが、「原子力損害の賠償に関する法律」を読むと、「異常に巨大な天変地異又は社会的動乱によって生じた損害」は免責と書いてありました。

なるほど、この免責があるから東京電力は安全基準さえ守っていればよいのだ、というレベルの安全対策していなかったのです。法律的には東京電力の賠償責任は免責され、国の支援で原子力賠償が進められると読めるのです。過剰なまでに原子力の安全に金をかけていた東北電力は、業界の異端だったのです。

しかし、原子力賠償は私の予想とはまったく違う方向に進んでいきました。民主党政権は、東京電力の免責を認めずすべて東京電力の責任であると断定し、東京電力もそれを受けてしまったのです。

財務省は、原子力損害賠償支援機構法を作り、国債で10兆円建て替え払いをし、25年かけて東京電力が3分の2、他の原子力発電を持つ電力会社が3分の1を返済する仕組みを作り上げました。

国は免責を認めず原子力事故の賠償費用はすべて電力会社の負担とし、東京電力を国有化して支配し、やりたかった電気事業の改革を推し進めることに成功したのです。

東京電力の経営支配を目論む政府のやり方に行政裁量を逸脱した違法性を見る。政府は自らの責任を棚に上げて東京電力にいわれなき批判をぶつけることで、不当な国有化を実現(p164)

この本では、金融関係のプロである著者が、第三者の視点で東京電力の原子力賠償のあり方について、問題点を4つ指摘しています。

まず第一の問題点は、リスクのある原子力発電を民間企業が推進するために「原子力損害の賠償に関する法律」が作られていたのに、記載されている想定外の天変地異にもかかわらず掌を返すように免責に当たらないとしたことです。なぜか、その点について東京電力も法的に争うことをしていません。

また、第二の問題点は、原子力を国策として進めていたのにもかかわらず、東京電力が事故を起こしたら、民主党と官僚は、すべて東京電力の責任であると断定し、東京電力を国有化して天下り、分割・解体しました。民主党と官僚は東京電力と一緒に叩かれる側にいたはずなのに、叩く側に素早く立ち回って、東京電力を叩き続けているのです。

さらに第三の問題点は、事後法である「原子力損害賠償支援機構法」では、他の原子力発電所を持つ電力会社が、一般負担金という形で東京電力の賠償費用の3分の1程度を負担しているということ。将来の原子力賠償費用確保のための相互扶助型保険制度のようですが、事故が起こってから保険を作って、強制的に電力会社から金を集めるのは、著者はありえないことと断言しているのです。

第四の問題点は、原子力損害賠償支援機構から東京電力に1兆円を出資し、議決権50%以上として国有化したことです。株主価値は半分に棄損。東京電力の支援は別の方法でもできたのに、なぜ国有化なのか。著者の見立ては、官僚が東京電力を国有化し、支配することで、東京電力を分割し、事業再編、電気事業の自由化を進めようとしたということです。

1兆円を投じて国有化することが、本当に、「国民負担の極小化」になるのだろうか。例えば、機構が社債や融資の債務保証をすることでも、東京電力の資金調達の援助はできたはずである…機構と東京電力が事実上の一体化をしてしまう…相互牽制は、機能しなくなてしまう(p146)

この本が問題としているのは、官僚、政治家が国策として推進してきた原子力の事故の責任は東京電力の押しつけ、原子力賠償は電力会社に押しつける一方で、原子力賠償支援を口実に東京電力を国有化して、東京電力を発電・小売・ネットワークに分割したことです。

法律に基づき行政を行うべき官僚が、ここまで責任を回避し、責任転嫁し、民間企業を支配できるのが日本という国なのです。

この本を読んで、私の感じていたことがそれほど間違っていないのだということがわかりました。日本電気協会から出版されていることを割り引いても、日本という官僚国家の本性、民主党政権のいい加減さを再確認しました。

こうした内容はマスコミでもほとんど報道しないので、大きな力が働いているのは間違いないのでしょう。

原子力事故をきっかけに電気事業の自由化、再エネ導入を進めた経済産業省は、その結果のすべてを負うことになるはずですが、うまくいけば自分の責任、失敗すれば、次は誰の責任にするのでしょうか。

森本さん、良い本をありがとうございました。

【私の評価】★★★★☆(87点)

<私の評価:人生変える度>
★★★★★(お薦めです!ひざまずいて読むべし)
★★★★☆(買いましょう。素晴らしい本です)
★★★☆☆(社会人として読むべき一冊です)
★★☆☆☆(時間とお金に余裕があればぜひ)
★☆☆☆☆(人によっては価値を見い出すかもしれません)
☆☆☆☆☆(こういうお勧めできない本は掲載しません)

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