全世界の民主主義国家が強く非難する、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻。西側諸国は経済制裁の強化を表明しましたが、プーチン政権に打撃を与えることは可能なのでしょうか。今回のメルマガ『テレビでもラジオでも言えないわたしの本音』では著者で現役医師の和田秀樹さんが、その効果やプーチン大統領の思惑等を考察。さらにロシアが「戦争に強い国」である理由を解説するとともに、欧米が派兵しないことをこの危機から学習した日本が取るべき自衛策を提示しています。
マスコミが報じない社会の真実をお届けする和田秀樹さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ
死ぬのが怖くない人たちの強さ
私の予想に反して、ロシアがウクライナ攻撃を今のタイミングで行った。
ロシア非難を正義の味方面をして行うが、どのワイドショーでも、次のコーナーではコメンテータがニコニコしながら別のことを楽しんでいる。
基本的に他人事ということだろう。
もし、日本が本当に中国なり北朝鮮なりに攻撃されたら、編成を変更して、一日中この話題でもちきりになるはずだ。
そういう点では、北朝鮮のミサイルも核実験も、どうせ攻めてこないと踏んでいるから、30分くらいで次のコーナーに変わるということだろう。
我が玉川徹氏はロシアに何の得にもならないという話をやはり正義の味方のような顔をして得々と話す。
そんなことで説得されるはずがないと思って聞いていたら、別のコメンテーターがロシアの得にはならないが、プーチンの人気回復や権力固めという点でプーチンには得になると論じた。
これは的を射ている。
どこの国の政治家も、原則的に国益より、自分の利益を優先させる。
たとえば、岸田という人も、2類から5類に指定を変えたり、あるいは、国民に安心感を与えるように安全宣言を出して、高齢者に外出して少しでも歩いてもらうほうが国益にかなっていることはわかっているという。少なくとも藤井聡先生の話では耳に入っているし、そのほうが妥当だと考えている可能性は強いらしい。
しかし、国益ではそうであっても、感染者数が支持率に直結するし、自粛政策を続けるほうが支持率が落ちないので、馬鹿げた自粛政策を続けているという。
これではプーチンを笑えない。
ただ、このロシアのウクライナ侵攻はいろいろなことを考えさせてくれるものだった。
ある解説者の学者の話は説得力があった。
それは、ロシアというのは意外になんでも作れる国だから、制裁が意外にこたえないという話だった。
私も調べてみて驚いたのだが、ロシアは世界一の小麦輸出国になっている。
アフガニスタン侵攻の際に、アメリカが制裁としてソ連への小麦輸出を止めようとしたらアメリカ国内の農業団体の反対でできなかったことは資本主義の弱さをさらけ出したが、今は、むしろそれに頼らなくていい。
逆に買ってもらえないという制裁のほうが響くという皮肉な状態になっている。牧畜面でも世界最大の輸出国の一つになっているという。
欧米諸国が買わないという制裁をしたら、同盟を条件に北朝鮮の食糧不足が解決するかもしれない。するとますます北朝鮮が暴走する。アメリカに脅威を抱かせるだけで、ロシアへの矛先が緩むのでロシアとしては国益にかなうかもしれない。
いずれにせよ、その学者に言わせるとロシアに経済制裁をして外国からものが入らないようになっても、先進的なスマホのようなものを望まなければたいがいのものが自給できるらしい。
でも、これはよく考えたら、円安になって貧乏国になった日本も似たり寄ったりだ。
金持ちは最先端製品を買えても、貧乏人は経済制裁後のロシアと変わらない。
でも十分満足していて選挙も自民党が勝ち続ける。
ロシアも金持ちは経済制裁で、海外資産などが凍結されたり、自分の資産を換金できなかったり、株価が暴落して困るだろうが、貧乏人は困らない。
だから経済制裁は確かに意味がなさそうだ。
それでも、バイデンは中間選挙をにらんでも、やはり派兵はしないようだ。
ヨーロッパもウクライナがまだNATOに加盟していないこともあって派兵はなさそうだ。どこの国も、他人事のために自国民の血を流す気にならないという時代になったということだろう。
マスコミが報じない社会の真実をお届けする和田秀樹さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ
当初は東ウクライナだけの予定だったが、予想外のウクライナの弱さもあってウクライナ全土の制圧もありえる状況になった。
そして東ウクライナの独立くらいを落としどころにして制裁解除という交渉に向かうのではないかという気がしてきた。
外交というのは、やはり武力が使えるというのは有効なカードだと思い知った。
そもそも論として、バイデンがウクライナのNATO加盟はないと明言して約束していれば、こんなことにならなかった可能性が高い。少なくともロシアの派兵の口実が作りにくい分だけ、あるいはその約束を守ってもらうため、ウクライナ攻撃を遅らせた気がする。自国の兵士を出す気がないのなら、もう少し上手に外交をやらないとひどい目にあうということだろう。
さて、今回の場合、ロシアはウクライナを武力で圧倒したわけだが、アメリカやNATOが派兵してもロシアはかなり戦争に強い国だとみている。
というのは、死を恐れない人間がそれだけ多い国だからだ。
今回のコロナ騒ぎでも、ロシアはあまり対策をしなかったし、ワクチン接種も遅れたという。
男性の平均寿命が60代で、いろいろな病気で死ぬのが当たり前になっているから、コロナ程度ではビビらないということらしい。
多少、戦争で死んでも勝てるなら、そちらのほうが男らしいという文化があるようだ。
3,000万人死んでも戦いに戦って当時世界最強だったドイツ軍を打ち破っただけの国なのだ。
第二次大戦後の人命が重視される時代には、戦争というのは死ぬのが怖くない国のほうが勝つ。
ベトナム戦争で北ベトナムが勝ったのも、アメリカがこれ以上人が死ぬのが嫌だったからに他ならない。
アフガンからアメリカが撤退したらすぐにタリバンが政権を奪取したのも、イスラム国が根絶やしにならないのも、彼らが死ぬのが怖くないからだろう。
中国にしても一人っ子政策で死ぬのが怖い人間が増えていて、実際は戦争をやりたくないらしい。ウイグルの人間の洗脳を急いだり、虐殺をしたりしているのは、死ぬのが怖くない兵士の確保のためかもしれない。
韓国の出生率が史上最低になったそうだが、韓国も戦争はできないだろう。
それを考えると北朝鮮は飢え死に凍え死にが当たり前で、CIAによると平均寿命が60代なので、死ぬのが怖くない国だ。
早く、食糧援助や医療支援をして死ぬのが怖い国にするほうが安全保障のためにはいい気がするが、日本はずっと逆をやっている。中国があえてそれをしないのも北朝鮮の死ぬのが怖くない兵士を維持しておいて台湾を攻める時に使いたいという計算があるのかもしれない。
さて、そんなことを考えていると、日米安保など幻想だというのが見えてくる。
台湾有事であろうが、何か口実をつけて中国が日本に攻めてくることがあろうが、アメリカは自分たちの兵隊が血を流し、死ぬということはなるべく避けたいから「共通の危機」でないということで意外に派兵すらしてくれないかもしれない。
コロナ騒ぎをみても、こんなに死ぬのが怖いことがわかったのだから平和憲法がお似合いだし、永世中立を目指すほうが日本向きのような気がするが。
おそらく中国が日本に攻める口実は在日米軍が攻撃を準備しているとかいうでっちあげ(リアルにありえるかもしれないが)のような気がする。ロシアだってNATOを口実にした。
とにかく意外に欧米が派兵しないことを学習したのだから、ロシアや中国や北朝鮮が怖い国になったのは確かだ。日本もそこから学んで、9条を守って、専守防衛のためといういいわけをしながら核武装でもしたほうが、よほど自衛になる気がするが。
マスコミが報じない社会の真実をお届けする和田秀樹さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ
image by: Degtyaryov Andrey / Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」』2022年2月26日号の一部抜粋です。
<月単位で購入できるバックナンバー>
・154回 死ぬのが怖くない人たちの強さ(2/26)
・153回 度胸のない為政者たち(2/19)
・152回 根拠なしに煽る統計のわからない人々(2/12)
・151回 風邪で死ぬ人がいることがわからない人たち(2/5)
・150回 コミュ障受難時代(メタバース・面接)(1/29)
・149回 東大医学部病という病(1/22)
・148回 要介護地獄がくる(1/15)
・147回 2022年 年頭所感(1/8)
政治・社会・世相など毎号さまざまなテーマを取り上げ、目からウロコの視点を提供する和田秀樹氏。1/22号では、大学入学共通テスト初日に発生した東大前3人刺傷事件を「東大医学部病」の切り口で分析。全国レベルの秀才が東京大学卒業後に「アホになってしまう」カラクリを、自身の体験もまじえ解説しています。そのほか1月は、ワクチンを問題視する人になぜ獣医が多いか(1/29号)、コロナ政策のミスで要介護高齢者が激増する(1/15号)、2022年は空前の不景気の年になる(1/8号)などのトピックも。
・146回 ただの風邪に大騒ぎをする国(12/25)
・145回 金持ちの卑しい国に独立はない(12/18)
・144回 民主主義と脳の自由(12/11)
・143回 予防にばかり力を入れる予期不安の国(12/4)
12/18号は、自民党の「ネット情報工作」がテーマ。自民党と取引関係にあったウェブ関連企業が運用していたとみられる匿名ツイッターアカウント「Dappi(ダッピ)」が、自民党への賛同や野党批判の発言を繰り返していた問題について、著者の和田氏は「調べたがわからなかったで済まされ、送検されることもないだろう」「自民党は金を払って野党議員の悪口の書き込みを続けるだろう」と指摘。日本の警察や検察がまともに機能せず、正義がないがしろにされるようになってしまった背景を分析しています。
・141回 犠牲者の構造(11/20)
・140回 忖度の構造(11/13)
・139回 何も考えていない人たち(11/6)
・138回 東京一極集中の本当の解決策(10/30)
・137回 選挙対策で老人が贔屓されているという嘘(10/23)
・136回 皇族の心の健康をないがしろにする宮内庁(10/16)
・135回 複雑性PTSDを救え(10/9)
・134回 中村格時代の警察とそれにベッタリのテレビ局(10/2)
▼2021年9月
・133回 弱い女性の人権を認めないタリバン以下の自民党(9/25)
・132回 表に出ていることを素直に信じるバカ(9/18)
・131回 正義という名の暴力(9/11)
・130回 腐りきった日本の小児科(9/4)
・129回 医療崩壊でなく、医師のモラル崩壊(8/28)
・128回 コロナで死ぬか、ワクチンで死ぬか?(8/21)
・127回 日本だけ終わらないコロナ禍(8/14)
・126回 感染症学者とは?(8/7)
・125回 オリンピックと感染騒動(7/31)
・124回 トラウマを与えた人をどう扱うか(7/24)
・123回 70代というビジネスチャンス(7/17)
・122回 命は地球より重い国(7/10)
・121回 おもてなしはどこにいく(7/3)
・120回 すべては選挙のため(6/26)
・119回 なんのためのオリンピック(6/19)
・118回 生命の質とは(6/12)
・117回 コロナと学力低下(6/5)
・116回 コロナ感染者が減らない理由(5/29)
・115回 命ぎたない人間が戦争を起こし、恥をさらして終わらせる(5/22)
・114回 誰が上級市民なのか?(5/15)
・113回 現場の医師に見捨てられる日本医師会(5/8)
・112回 見えない教育虐待と自由のない国への徒手空拳の挑戦(5/1)
・111回 ものを深く考えられないのに肩書だけが立派なバカの恐怖(4/24)
・110回 予防万能社会の恐怖(4/17)
・109回 人権をふみにじる快感(4/10)
・108回 命vs人権(4/3)
・107回 差別や女性蔑視もみんなでやれば怖くないのか?(3/27)
・106回 感楽街の発想(3/20)
・105回 受験もゲーム、人生もゲーム(3/13)
・104回 コロナとアルコール(3/6)
・103回 トランプ支持者とマイルドヤンキー(2/27)
・102回 決めつけは差別の始まり(2/20)
・101回 文化的生活という権利(2/13)
・100回 株価の謎(2/6)