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人気バラエティTVプロデューサーが向き合う天災、疫病、そして戦争

人の想像力には限界があります。東京に住み東日本大震災を経験しても、恐怖を実感できたのは原発の爆発を見た時だったと述懐するのは、『からくりTV』『金スマ』などを企画制作したTVプロデューサーで、『最速で身につく世界史』などの著書を持つ角田陽一郎さんです。今回の『角田陽一郎のメルマガDIVERSE』で角田さんは、ロシアのウクライナ侵攻により初めて「戦争」を実感したと告白します。その理由を世界史を動かしてきた3つの災禍のうち「天災」を東日本大震災で、「疫病」をコロナ禍で実感するさなかで、「次は戦争」と覚悟していたからと説明。漱石もヘミングウェイもそうした日常の中で作品を残していたことを思い、自身の「使命」について考えています。

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天災、疫病、そして戦争

戦争が始まりましたね。でも、こんなふうにカジュアルに「戦争が始まりましたね」なんて、まるで花粉症が始まるように、オリンピックが始まるように、戦争を誰かが始めてしまう、そしてその残虐な行為が開始されることをこんなふうにカジュアルに自分のメルマガに書き始めるようになるなんて、暗澹たる気持ちになります。

僕が書いた『最速で身につく世界史』でも言っているのですが、世界史を動かしてきたものに、天災と疫病と戦争があります。そして、それらはそのたびに飢餓を生み出し、幾つもの騒乱と移動、国家の崩壊、そしてやがて新たな国家や秩序を形成してきたのです。

なので、こんなことを人類はずーっと繰り返してきたんだろうなって、一方では思うわけです。夏目漱石だって存命中に日清戦争、日露戦争を経験して、第一次世界大戦の最中に亡くなってるわけですし、アーネスト・ヘミングウェイだって10代で第一次世界大戦が勃発したから『武器よさらば』を書いたわけで、30代でスペイン内戦が勃発したから『誰がために鐘は鳴る』は生まれたわけです。そしてそれと同時にこの間に、漱石もヘミングウェイもコレラのパンデミックを経験し、スペイン風邪の時代を生きたわけです。つまり戦争も疫病も、彼らの日常だったわけです。

そして、ほとんどの日本人は、そして特に1970年千葉県生まれの僕はといえば、この歴史を動かしてきた3つの災禍とは、この数年の大人になるまではほとんど全く経験して来なかったわけでした。先ほど自著『最速で身につく世界史』を挙げましたけど、それを書いたきっかけも僕は大学時代の専攻が「西洋史」だったからなのですが、そういう意味では、これらの3つの災禍が、世界史を動かしているんだと、書物で教科書で先生の授業で、ただ情報として知っているだけだったのです。

それを自分の身をもって体感したのは、ほんと2011年の東日本大震災が最初なんだと実感するわけです。1995年の阪神淡路大震災だって、関東の僕にはやっぱり他人事でした。さらに厳密にいえば、東日本大震災だって、その瞬間を僕は東京の赤坂で経験しただけなので実際に多くの被害と苦痛に遭われた東北地方の方に比べれば、体感したなって烏滸がましくって、言えたものではありません。

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でも。それでも、この体感したって感覚を僕はなんで今もっているかというと、自己分析してみれば、それは、自分の(そして自分の近しい人たちの)生命の危機を実感としてリアルに感じているから、なんだと思えるわけです。そしてそのリアルな死を感じたのは、僕が自分の死を、自分がナニモノかに殺されるんだって最初にリアルに実感したのは、2011年の311の震災の直後からの、福島の原発の崩壊の映像をテレビのニュース中継で見ているときなのです。

こういうふうに書くと失礼極まりないのですが、あの311の日の津波が襲ってきて東北の街街が破壊され海に流されていく光景を見ている時は、まだそれでも僕には他人事でした。それに震度5を東京で経験したとはいえ、震源は東北沖なんだ、まさかそのレベルの巨大な地震がこの東京を襲うことは、その時点では無いだろうって、なんていうか勝手に高を括って、他人事にして、卑劣にも安心していたんだろうと思うのです。

でも、あの福島原発崩壊の映像で、僕にはとてもとてもリアルに死の恐怖が襲ってきたのでした。実感を地震の揺れという現実で体感したというより、映像という仮想で体感するという現象はとても興味深い現象なのですが、だからこそたかだか100数十キロしか離れていない場所から、放射能はやってくる、それも目に見えない形で、襲ってくる、それは他人事なんかじゃない、まさに自分の身体を直接襲ってくる「殺される」という恐怖がテレビの電波に乗って津波のようにやってきたのだと思うのです。

そして、僕はあの日以来、自分の考え方や、生き方が一変したのでした。所属していたTBSテレビをやめ、今のこのようなバラエティプロデューサーとして生きているのも、そのリアルな死の恐怖がきっかけだったわけです。

二度あることは三度ある

そして、時はちょうど2年前の2020年の3月、疫病がリアルに襲ってきました。新型コロナウイルスです。デルタ、オミクロンと続き、今も世界はその災禍に苦しんでいます。あらゆる人たちと同じように、この災禍を僕自身も、日々のマスクという肌感覚で、会えない人と会えない、行きたい場所に行けないという距離感で、ライブコンサートで歓声も上げられないという拘束感で、日々実感しているわけです。

僕は、この10年の間、311で天災を実感してから、コロナで疫病を実感しつつ、ここ数年ずっと思っていたのでした、次は「戦争がやってくる」と。天災、疫病、戦争が、歴史を動かしているのであるからには、そしてその歴史の中を漂うちっぽけな存在である自分なんかが、その歴史の渦から逃れることなんてできないんだって、それこそ実感するわけなのです。次は、「戦争がやってくる」と。

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そして、1週間前に実際に、ロシアがウクライナに戦争を始めました。つまり、戦争はやってきたのでした。でもこう書くのも、実は正しくはありません。実際のところ、アフリカでも中近東でもアジアでも今までも今も戦争は日々たくさんすでに起こっているからです。でも、それらを、また馬鹿な僕は、ただ“単に”実感していなかっただけなのかもしれません。多分それらの戦争や紛争、遠い国の人々の苦しみと、自分の人生を重ね合わせることができずに、ただ単に情報としてだけ、頭の中で処理していただけだったのかもしれません。

でも、今回のロシアのウクライナ侵攻は、その恐怖を、自分の身体を襲ってくる死の恐怖を、まるで311の原発崩壊の映像のように、僕にはリアルに実感させられるのです。それは、多分、この戦争が、本当に他人事では無いことだからかもしれません。モノゴトには、そうは言っても大小があります。今までの、今起こっている様々な戦争・紛争に比べても、このプーチンの暴挙は、多分、世界大戦を始めるような、大きな愚挙なんだと思えるからかもしれません。

そしてこの僕が、この戦争をリアルな死の恐怖として実感するのは、きっとコロナ禍をまさに今体感しているからなのかもしれないともまた思うのです。つまり、自分の身体が、自分の身体の危機に過敏になっているとでもいうか。天災、疫病と、リアルに危機を体感している中での、3度目の危機感、「二度あることは三度ある」というような実感。

約100年前のスペイン風邪からの第一次世界大戦の勃発。そこからの関東大震災からの、世界恐慌からの、満洲侵攻・日中戦争からの第二次世界大戦。77年前の広島と長崎の原爆。歴史の教科書で学んだ、情報としての世界史。そして半世紀前に僕は生まれ、それを情報として知りながらも、平和という時分に生きてきた自分。そして今、僕は実感として体感するわけです「二度あることは三度ある」という歴史という運命。天災、疫病、そして戦争。

この文章は、今回どう終わるのでしょうか。書いている自分もわかりません。だってこの始まった戦争に、今はまだ終わりは見えないから。そしてコロナ禍も、まだ終わりは見えないから。ただ少なくとも言えることは、この1週間前に戦争が始まったことで、このメルマガの文章が、個人的な悩みからは、少なくとも今解放されているとは、言えます。

それが、いいことだとは当然思えないのですが、そして実際のところ自分の個人的な悩みが無くなったわけでも、全く無いのですけれど、でもだからこそ想うわけです。夏目漱石もアーネスト・ヘミングウェイも、小説を書いたんだと。個人的な悩みをいっぱい抱えながら。でも、そして、だからこそ、この世界の危機を実感しながら、作品を産み続けたんだと。

この戦争で、僕が得た唯一のことは、この世界の危機を実感して、では自分はどう生きていくのか?という、この自分の殻に閉じこもりがちな自分の脳内の想いを、この世界に解放しなければいけないのだ、という使命を。それがこの世界に生きている、ちっぽけな自分の唯一の“実感”なんだということを。

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image by:Jurko Banzaj/Shutterstock.com

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