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米国は正義か?中国がロシアの行為を「侵略」と呼ばぬ正当な理由

主要国の多くがロシアのウクライナ侵攻を糾弾する中、批判的な立場を取ることのない中国。西側メディアは友好国の蛮行に非難の声を上げられない中国が、国際的にきわめて苦しい立場に追い込まれたと伝えていますが、果たしてそれは正しいのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を上梓している拓殖大学教授の富坂聰さんが、なぜ中国がロシアの行為を「侵略」と呼ぶことがないのかを、中ロ首脳会談後に出された声明を読み込みつつ解説。同時に、この件における中国の対応を一方的に責めることは、既存秩序への挑戦と破壊であるとの警告を記しています。

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中国はなぜロシアの行為を「侵略」と呼ばないのか 共同声明から読む

3月11日、全国人民代表大会の閉幕を受け李克強総理が会見した。質疑ではロイター通信の記者が、ロシアの軍事侵攻を「非難しないのか」と質す場面が注目を浴びた。李総理はこれに正面から答えず、中国外交の原則を述べるにとどめた。同じようなことは3月1日、中国外交部の定例会見でもあった。汪文斌報道官がロシアのウクライナでの行いの「定義は何か?」と質されたのだ。

いずれも意図は同じで、中国にロシアの行いを「侵略」と非難させることだった。しかし中国は、「ウクライナ問題に中国の利害はない。中国はずっとウクライナ問題の是非曲直を見極めた上で立場を決めるとしている」と原則論で応じている。

こうしたやり取りを受け西側メディアは「(中国が)苦しい立場にある」と報じた。良好な中ロ関係に配慮するあまり、「ロシアをちゃんと批判できない国」だと。日本の読者が聞いても違和感はないニュースだろうが、正しい受け止め方とは言えない。

というのは報道官たちは苦しい言い訳をしたというよりも質問にうんざりしている様子がありありで、こう繰り返している。

共同声明を精読してくれ──。

ロシアの行動は侵略か否か。それも過不足なく書かれている。声明を読めば、侵略か否かを決められるのは「国連だけ」と中国が考えていることは明白だ。さらに踏み込めば、アメリカが自在に決める秩序には従えないということも理解できる。中国が対ロ経済制裁に歩調を合わせない理由も同じだ。そもそも中国は、制裁の効果を疑問視し続けてきた。

一方のロシアも、苦しいながらドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の独立を承認し、彼らからの依頼を受けて平和維持のための軍事作戦を展開したという体裁を整えている。これが合法か違法かという論争は残るにしても、国連を意識した手続きは踏んでいるのだ。

アメリカの秩序に違和感のない日本からすれば、ロシアの暴挙に経済制裁を加えることは自然な話だ。しかし、世界は広いという視点に立てば、その考え方は通用しない。西側社会にも属さず、先進国でもなければ、アメリカとの相性が良くない国も数多く存在し、国際社会は形成されているからだ。

戦後の安全保障は、そうした国々を含めて国際連合が一つの秩序として機能することで平和を維持してきた。本来であれば、アメリカは国連の一員でしかない。それが中国やロシアの立場であり、理屈的にはむしろ筋が通っているのだ。

ロシアの暴挙を前に「侵略」という定義もできない中国は「間違っている」という西側メディアの圧力は、一見正しいようでいて明らかな既存秩序への挑戦と破壊なのである。

物足りないとはいえ機能していた一つの秩序を壊すリスクを世界は国際連盟で経験しているはずだ。

いま国連に代わり「アメリカがダメといえばダメ」という秩序をすべての国が受け入れられれば良いが、もしそうでなければ国際連合の権威は失墜──といってもすでにそうなっている面は否めないのだが──する。アメリカを正しい裁判官と認められない国々は、必然的に新たな秩序を確立しようと動き、対立軸を際立たせる。これこそ世界大戦へと向かわせる動力だ。

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日本では、ウクライナの人々のため世界が団結してロシアを追い込むことこそが正義だと信じられている。だがそこには、相違点がありながらも何とか一つの秩序を共有しようとしてきた世界を決定的な分断へと向かわせる危うさが潜んでいることに思いを至らせる声が不足している。

われわれは正しいから国連は無視しても良いという考え方の先にあるのは、繰り返しになるが戦争だ。

その意味ではロシアの行いを肯定するというのではなく、彼らが戦争に向かう前にしていた主張を国連という秩序に照らして検証する必要もあるだろう。

さて、そういう意味でも中ロ首脳会談後に出された声明をもう少し細かく──以前にもメルマガで一度少し触れたが──見てゆかなければならない。

全文を読めば明らかなように声明は「反アメリカ」と「国連中心主義」に彩られている。

冒頭から「国際社会には少数の勢力が依然として一国主義を奉じ、強権的に他国の内政に干渉し、他国の持つ正当な利益を損ねている」と対米批判をしているのが典型だ。中ロはこれを認めず、「国連を中心とした国際体系と国際法を基礎とした国際秩序が必要」だと訴えている。

また四つに分けられた各ポイントでは、まず一で「『民主』は一部の限られた国の特許ではない」と、これもアメリカを中心に西側社会が内政に干渉することへの反発だ。アメリカの民主主義が基準ではなく、中ロは「国連憲章」と「世界人権宣言」こそが基準だと主張する。

続く二では、感染症対策、一帯一路構想、そしてマクロ政策、科学技術、気候変動などでの中ロの協力や見解に触れ、三で再び世界の安全についての話題に戻る。

持続可能な世界の安全をテーマとした中ロの合意のなかで特徴的であったのは、「中ロは相互に核心的利益を堅持することを重ねて表明し、国家主権と領土の保持と外部勢力が中ロの内政に干渉することに反対する」という一文だ。これもまたアメリカに対するけん制である。

三では「両国は」という主語に交じって「ロシアは」という主語も登場し「中国の一つの中国政策の支持と台湾が中国の不可分な領土の一部であることを承認し、またあらゆる形での“台独”に反対する」という一文も加わっている。

外国メディアが一斉に取り上げた「NATOの東方拡大に反対する」という一文も三のなかに記されたものだ。

ただ三の範囲は広い。AUKUS(オーストラリア、イギリス、およびアメリカ合衆国の三国間の軍事同盟)を念頭に核拡散への懸念や生物兵器禁止条約の重要性、INF(中距離核戦力全廃条約)廃棄後の欧州で緊張が高まったことなどを指摘している。そして「中国は」という主語で、「ロシアが提出した法的拘束力のある欧州の長期的かつ安定した安全保障の提案を支持する」という立場も示されている。

この提案に対しアメリカが冷淡に応じたことがロ烏戦争の一つの断面だと中国が考えていることが、ここから伝わってくるのだ。

中国の報道官たちが「共同声明を精読してくれ」と繰り返した理由も理解されたのではないだろうか。

そして最後に四がくるのだが、ここで中ロがターゲットにしたのが、実は日本だ。国連への支持と同時に「第二次世界大戦の歴史の歪曲と改ざんの企みに反対する」という一文がそれに当たるが、この話題は紙幅の都合で次の機会に回すことにしよう。

ウクライナ侵攻を目の当たりに、ロシアが破れかぶれの暴挙に出たとの解説が日本ではよく聞かれる。しかし声明を読む限り、ロシアが国連という価値観を案外大切にしていることがうかがえるのだ。

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image by: YashSD / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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