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岸田政権が打ち切れぬ、安倍氏がプーチンに媚びを売って行なった“事業”

プーチン大統領によるウクライナ侵略を受け、西側各国がロシアに科している厳しい経済制裁。しかし日本はその輪に加わる一方で、「経済協力」も続けるという矛盾した対応を取り続けています。なぜ岸田政権は毅然とした姿勢を見せることができないのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、北方領土の返還で歴史に名を刻むことを目指した安倍元首相が、プーチン大統領のご機嫌をとるために行なった事業を列挙。さらにそれらの事業から岸田政権が撤退しない理由を推測するとともに、ロシアへの徹底した経済制裁が日本の安全保障のために必要不可欠な理由を説いています。

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ロシアへの制裁と協力を同時進行させる日本政府

ロシアによるウクライナ侵略に対し、日本政府は、欧米と足並みをそろえて経済制裁をしているように見せている。

しかし、プーチン大統領との蜜月をアピールする安倍元首相が貢いだ3,000億円の経済協力は継続し、北極海やサハリンの石油・天然ガス事業からも撤退する気配はない。

日本政府の制裁措置は、プーチン大統領らの資産を凍結したり、国際銀行間の送金・決済システム(SWIFT)からロシアの7銀行を排除することなどだ。

ロシアはこれに反発し、外貨建て債務をルーブルで返済することを認める48の「非友好国・地域」の一つとして日本を指定した。北方領土問題など平和条約交渉について「継続する意思はない」とする声明も発表した。

オホーツク海で大規模な軍事演習をしたり、北方領土で地対空ミサイルの発射訓練をしてみせたのは、日本の制裁に対抗する示威行動と捉えることができるだろう。

安倍元首相とプーチン大統領の長年にわたる蜜月関係とは、いったい何だったのかと考えこんでしまう。

現に、プーチン大統領は北方領土を「経済特区」のようにしようとしている。北方領土を含むクリル諸島に企業を誘致するため、税負担を20年間免除する法案をこのほど発効させた。北方領土での共同経済活動をめざすとした日露合意に反するのは明らかだ。

誰もが分かっていたことではあるが、プーチン大統領に北方領土を返還する気などさらさらないのである。

プーチン大統領にとって、北方領土の返還で歴史に名をとどめようと前のめりになる安倍元首相は利用しやすい相手だったに違いない。14年のクリミア併合に対し、欧米各国が経済制裁を科すなか、日本の対応といえば、併合反対メッセージを出しながらもロシア側の経済コストを強いないという、生ぬるいものだった。

そして、2016年5月、ロシア・ソチで開催された日露首脳会談において、安倍首相はプーチン大統領に「8項目の経済協力プラン」を提案した。医療▽都市づくり▽中小企業交流▽石油・ガス開発▽生産性向上▽極東の輸出基地化▽先端技術▽人的交流―の8項目である。

同年12月に山口県長門市で開催された日露首脳会談では、早くもこれを具体化した事業計画が発表された。日本が官民80件、合わせて3,000億円規模の投資をするという内容だ。

目下、ロシアへの経済協力について各界から見直しや中止を求める声が上がっている。

自民党外交部会などの合同会議で25日、ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、日ロが北方四島で目指す「共同経済活動」を含めた日ロ間の経済協力推進を疑問視する意見が相次いだ。佐藤正久部会長は「強い制裁と言いながら片方で経済協力を続ければ、先進7カ国(G7)は日本を信用しない」と強調。出席者から「政府は間違ったメッセージにならないよう対応すべきだ」と同調する指摘が上がった。

(2月25日日経新聞)

日本商工会議所の三村明夫会頭は3日の定例記者会見で、日本とロシアが結んでいる8項目の経済協力プランについて「見直しが必要だ」と述べた。理由として、ロシアのウクライナ侵攻が「明らかに国際法違反だ」と指摘した。

(3月3日日経新聞)

2022年度の当初予算案には、経済協力事業の一環として約21億円が盛り込まれている。3月14日、17日の参院予算委員会で、この問題が取り上げられた。

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「国際社会がノーといっている時に、なにが経済協力だ」などと野党に追及された岸田首相は「修正は考えていない」と答え、その理由について「参加した日本企業がどう対応すべきかの情報提供をする予算が含まれている」と述べたが、苦しい弁明には違いない。

たとえ22年度予算については、そのようなゴマカシが通用するとしても、ロシアの信用が失われた以上、今後、全体計画を進めていくわけにはいかないのではないか。

安倍元首相がプーチン大統領のご機嫌をとるために行った事業は、これだけではない。

北極海のヤマロ・ネネツ自治管区ギダン半島でLNG生産を行う「ヤマルプロジェクト」は50.1%の株を持つノヴァテク(ロシア)と、中国、フランス企業の合弁だが、クリミア問題で欧米諸国が撤退し、プラント建設や資金調達に困ったため、安倍元首相が救援を買って出た。官邸の働きかけで日揮や千代田化工がプラント建設に参入。国際協力銀行が巨額融資を行った。

同半島で23年からLNG生産が開始される「アークティックLNG2」事業にも、三井物産や経産省所管の独立行政法人が参画している。

これら北極海プロジェクトは、欧州向けにはよくとも、日本からはあまりに遠く、プーチン大統領の口車に乗った感が強い。日本政府は、ロシアへの制裁を求める国際世論に従って事業から手を引くかどうかの判断を迫られている。

1990年代から進むサハリンの原油・天然ガス開発「サハリン1」「サハリン2」の場合は、政府が「日本のエネルギー安全保障上、重要なプロジェクト」と位置づけているだけに、より深刻だ。

すでに米エクソンモービルが「サハリン1」から、英蘭シェルが「サハリン2」から撤退すると発表している。

「サハリン1」は、エクソンモービルが30%、経産省・伊藤忠・丸紅などの「サハリン石油ガス開発」も30%、ロシアのロスネフチとインドが各20%の権益を持っていたが、エクソンモービルの持ち株がロシアに没収されれば、経営権はほぼロシアのものとなる。

「サハリン2」は、ロシアが環境問題を持ち出してイチャモンをつけ2007年に日本側企業と英蘭シェルから経営権を奪い取った。その結果、出資比率はロシアのガスプロムが50%プラス1株、シェルが27.5%、三井物産が12.5%、三菱商事が10%になっていた。英蘭シェルの撤退で、その株式をロシアが没収すれば、日本勢の権益は無いに等しい。

つまり、「サハリン1」「サハリン2」ともに、将来にわたって原油・天然ガスの安定供給をもたらすかどうか危ぶまれる存在となっているのである。

国際世論に従うなら、いずれのプロジェクトからも撤退すべきところだが、安倍元首相に忖度しているせいか、いまのところ岸田政権にその気はないようだ。

萩生田経産相は、3月4日の記者会見で「サハリン1は、エネルギーの安定供給上、重要なプロジェクトだ。エクソンモービルの撤退表明による影響については、情報収集のうえ精査していく」と語っている。

日本は、輸入原油の約6%、輸入天然ガスの約9%をロシアから輸入している。北極海やサハリンの資源事業から撤退すると、中東への依存率がさらに高まるだろうし、日本企業の損失も甚大だ。

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しかし、ロシアの侵略行為に対し、徹底した経済制裁を科すことは、日本の防衛にとっても重要な意味をはらむ。

他国を侵略するという国際犯罪をなしたとき、その国家の指導者は破滅的な代償を払わなければならないことを知らしめるのが経済制裁の主目的であろう。そのためには、寸分漏らさぬよう主要各国がしっかり足並みを揃える必要がある。

ロシアのウクライナ侵略は、台湾や日本をにらむ中国の存在を否応なく意識させ、日本の防衛力強化を唱える声が高まっている。プーチン大統領が核兵器使用をちらつかせていることもあり、安倍元首相にいたっては、核シェアリングの論議をするべきだと言いたてている。

しかし、こういう時、短絡的に核兵器導入に結びつけて議論しても、冷静な判断は期待できない。それよりも、いかにして侵略者の意気を削ぐ徹底した経済制裁を実行するかが、肝心なのではないか。経済制裁も実力の行使だ。そこにどれだけのパワーがあるのか、計算高い習近平氏はじっと見つめているだろう。

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image by: 首相官邸

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