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ウクライナ侵攻の勝者・中国がプーチン失脚で陥る敗者の生き地獄

力による現状変更の強行とそれに伴う民間人大量虐殺等で、世界の信頼を完全に失ったロシア。たとえプーチン大統領の企てが達成されたとしても今後ロシアが陥るであろう窮状を鑑みれば、この侵略戦争の勝者たり得ないことは確実です。では、ウクライナ紛争の「真の勝者」の地位を得るのはどの国なのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、中国こそが勝者としその理由を解説。さらに仮にプーチン大統領が失脚した場合に起こりうる、中国にとって望ましくない結果についても言及しています。

ウクライナ侵攻の勝者は中国だが、ひっくり返る可能性はあるのか?

ロシアによるウクライナ侵攻。ロシアは、ウクライナとの戦争に勝つかもしれませんし、負けるかもしれません。しかし、勝っても負けても、「地獄の制裁」は解除されないでしょう。だから私は、ウクライナ侵攻がはじまる前から、「ロシアの【戦略的敗北】は確実」といいつづけてきました。

では、ウクライナ侵攻の勝者は、どの国でしょうか?これは、中国でしょう。なぜ?

まず第1に、欧米からの対中攻撃がほぼなくなった。2018年から、世界は「米中覇権戦争」の時代に突入しています。バイデンが大統領になっても終わることなく、むしろエスカレートしていました。ところが、ロシアによるウクライナ侵攻で、中国への攻撃は、ほとんどなくなりました。あるとすれば、「ロシアを支援するなよ!」という圧力ぐらいです。中国の戦略では、「山上で、二匹の虎が戦うのを眺める」のが最上のポジション。中国は、今まさに、「山の上で二匹の虎(欧米ウとロシア)が戦う」のを眺めています。

第2に、ロシアは中国の属国になります。ウクライナ侵攻によって、欧米日はロシアに強力な制裁を科しました。もっとも強力なのは、「SWIFTからの排除」でしょう。この件で、モスクワの知人に聞いてみました。彼女は、「(中国版SWIFT)CIPSを使うから問題ないわ」と答えました。SWIFTから排除されたロシアは、これからCIPSで送金することになるでしょう。そうなると、ロシアの中国依存は強まります。ロシアは、「人民元圏」に飲み込まれる可能性が強くなる。

これがらみでもう1つ。アメリカはすでに、ロシアからのエネルギー輸入を止めました。とはいえ、そもそもそれほど輸入していなかった。問題は、欧州です。ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州でも、石炭輸入を禁止します。さらに、天然ガス、石油の依存度もどんどん下げていく方針。

では、ロシアは、石油、ガスを誰に売るのでしょうか?そう、中国です。強い立場の中国は、ロシアからの石油ガスを、安く大量に買うことができるようになります。これは、中国の戦略的にも、非常に重要です。今まで中国は、主に中東から原油を入れてきました。つまりタンカーで。そして、中東と中国を結ぶ海は、米軍の支配下にある。米中対立が激化したら、アメリカは、「中東→中国」の石油の流れをカットする力があった。

では、アメリカは、ロシア→中国の原油、天然ガスの流れをカットできるでしょうか?無理でしょう。だから、世界一の戦略家ルトワックも、リアリズムの神様
ミアシャイマーも、「アメリカは、ロシアを反中包囲網に取り込め」とずっと主張してきたのです。

私も、一冊目の本を出した2005年ごろから、ずっと同じ主張をしてきました。ウクライナ侵攻を決断したのは、プーチンの破滅的な戦略ミスでした。しかし、その前にアメリカも同じく「大戦略的ミス」をしていたのです。

というわけで、「ウクライナ侵攻の勝者は中国」です。これをひっくり返す方法はあるのでしょうか?

ムッソリーニとプーチン

プーチンは、「現代のヒトラー(プトラー)だ!」とよばれることが多くなってきました。しかし、「79年周期説」で見ると、プーチンは、「現代のムッソリーニ」。習近平が「現代のヒトラー」となります。

ヒトラーは、「ユダヤ人絶滅政策」を行っていました。習近平は、ウイグル人100万人を強制収容し、ウイグル女性に不妊手術を強制し、まさに、長期的民族絶滅政策、ジェノサイドを行っています。

さて、ムッソリーニのイタリアは、ナチスドイツの同盟国でした。ところが、1943年7月にクーデターが起こり失脚。その後、イタリアは、連合国側に寝返ったのです。

1943年といえば、ちょうど79年前になります。もちろん、私はファナティックに79年説を信じているわけではありません。ですが、いろいろ面白い事実もあります。

1929年、世界大恐慌。79年後の2008年、リーマンショックから「100年に1度の大不況」が起こった。

1934年、ヒトラー、ドイツの総統に。79年後の2013年、現代のヒトラー習近平が国家主席に。

1939年、第2次世界大戦勃発。79年後の2018年、ペンス副大統領の反中演説から「米中覇権戦争」勃発。

どうでしょう。なかなか興味深いのではないでしょうか?もし79年周期どおり、現代のムッソリーニ、プーチンが失脚したら、どうなるでしょうか?

ロシアに、親欧米派の新大統領が誕生する。「対中包囲網に参加する」ことを約束するかわりに制裁を解除してもらう。そうなれば、中国は、ウクライナ侵攻の勝者から敗者に転落します。

そんな都合のいい展開があり得るでしょうか?「まさか!」と思えるでしょう。しかし、日本人のほとんどが、実際にはじまるまで「ウクライナ侵攻などありえない!」と考えていたのです。こういう時代は、なんでもありえます。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年4月8日号より一部抜粋)

image by: Alessia Pierdomenico / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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