在京ラジオ局の社員というサラリーマン生活のかたわら、これまで50冊近く著書を出してきた筆者。周りからは、「私も本の原稿を書いてみたい」といった相談を受けることが多い。また、講師として「出版セミナー」などに顔を出すと、同じように「書いてみたい」という方から質問攻めにされる。そこで、今回は、「どうすれば本が出せるのか」、拙い経験則と出版関係者への取材からまとめてみた。
清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。
誰でも「週末作家」になれる!
どのような職種の方でも、10年、20年と経験を重ねる間に、本の1冊や2冊くらいは書ける材料が溜まってくるものだ。
仕事に限らず、旅行、グルメ、園芸、陶芸、絵画、それにスポーツ、健康といった趣味や特技、また、医療や介護、子育てなどを通じて得た経験などからも、1冊の本にまとめるだけの材料は集まるはずだ。
かく言う私も、浅学の人間ながら、「週末作家」生活を始めて約20年になる。報道記者という経験に、独自の取材や調査を加え、政治・国際情勢、教育・生き方をテーマにした著書を出版してきた。
「自分には文才もなければ時間もない」という方もいるだろうが、書く気さえあれば、誰だって「週末作家」になれるのだ。
書きたい人には追い風が吹いている!
まず、記事で使いたいデータのほとんどはネット検索で見つけられる時代になったことだ。また、「google forms」などを使えば簡単に世論調査もできるようになったことが大きい。
2つ目は、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として進められてきたテレワークの拡がりだ。企業の規模や職種によって温度差はあるものの、在宅勤務やリモートワークの定着によって、上司や同僚から監視されない自由な時間が増えた。裁量労働制など働き方改革とも相まって、空き時間を作りやすくなった。
3つ目は、企業の間で副業や兼業を推進する動きが拡がってきたという点だ。厚生労働省に促される形で、副業や兼業を認める企業も増えてきた。
つまり、これらの動きによって、「本を書く」「ネット記事をアップする」→「収入(印税)を得る」という行為が、誰はばかることなく安心してできる環境が整いつつあるのだ。
「週末作家」にはこんなメリットが!
では、私が「週末作家」になって得たメリットを列記しよう。
- 臨時収入が得られる。
- モノの見方が細かく丁寧になる。メモを取ったりするようになる。
- 執筆時間を確保するため、時間の使い方が上手になる。だらだらする時間が減る。
- 曖昧だった知識や記憶が整理される。
- 類書やデータ、論文などの先行研究にも目を通すため、知識や気づきが増える。
- 本が完成すれば名刺代わりになる。その分野に詳しいという証拠になり一目置かれる。
一方、私が体験したデメリットも付記しておく。
- 副業が認められていない時代は、上司に呼ばれ「次にやったら訓戒だからな」と怒られた。
- 「あの人、印税で豪華な生活をしている」と陰口を叩かれた。
- 著書の売れ行きやネット記事の反応が気になる。
- ネット上で批判にさらされる。(もちろん評価もされる)
著書出版への道は。高校野球の「甲子園への道」と同じ
「誰でもなれる」とはいうものの、何事にも「壁」は存在する。私の著書のうち、2作目の『父親力で子どもを伸ばせ!』は、出版社に持ち込んではボツにされ、10連敗くらいした。
3作目の『ラジオ記者、走る』に至っては、新潮社で書籍化されるまで、軽く15連敗以上している。
出版は「甲子園への道」と同じだ。書籍化したい場合、編集者⇒編集会議⇒営業会議⇒社長(役員)決済、という手順で進むことが多い。
高校野球に例えるなら、これが都道府県大会で、これらを勝ち抜けば出版(甲子園出場)ということになる。
都道府県大会を勝ち抜くには?
では、どのようにして出版社内の諸手続き(都道府県大会)を勝ち抜き、出版(甲子園出場)にこぎ着ければいいのだろうか。
出版社に知人がいれば、その人を通じ、編集部(新書や文庫で出したいなら新書編集部や文庫編集部)につないでもらえば話が早い。
また、身近に出版社から本を出した人がいれば、その人経由で編集者に紹介してもらえばいい。とはいえ、多くの人はそうはいかないので、自分で売り込むほか手はない。
全国には3000社近い出版社がある。その中には、「持ち込みはお断り」というところもあるが、新たな書き手を探していることも事実である。
私と同じように持ち込みから始めた作家に、石渡嶺司さんという方がいる。彼は「大学」や「就活」をテーマに20数冊の著書を出し、「情報ライブミヤネ屋」などテレビの情報ワイド番組にゲストコメンテーターで呼ばれる存在になった人物だ。
最初は20社ほど持ち込み「ことごとくボツだった」という中で出版に成功し、現在に至っている。その石渡氏は言う。
「企画書(特に目次案・仮タイトル)、読者視線(客観性、読者層の想定)、売り込む先の出版社の戦略的な選択、情報収集力、熱意が重要です」
また、私の友人で「言葉」や「キャッチコピー」などをテーマに数多くの著書を出している川上徹也さんはこう語っている。
「編集者が集まりそうな会に出席。ある出版社の社長と名刺交換し、意気投合したのがきっかけ」
誰でも「週末作家」になれるとはいうものの、待っていては何も始まらないということだ。
出版社はどうやって書き手を探しているのか
実際に大手出版社の編集者に取材したところ、以下のような答えが得られた。
- 「オーソドックスな実用書の場合、都合よく書いてくれる筆者を選びます。新しい書き手を求める場合は、SNSのフォロワーが多い人に声をかけたりします」(学研プラス)
- 「持ち込み、紹介、一応フラットに見ます。実力があれば可能性はあります」(光文社)
- 「SNSをチェックしフォロワー数や切り口の斬新さを見ます。持ち込みも目を通しますが、SNSで発信し目に留まるようにしたほうが近道かと思います」(小学館)
- 「著者探しでYouTubeばかり見ています。書き手に求めるのはテーマに関しての十分な実績と知見、オリジナリティ。できればその世界でコアなファンがいること」(日経BP)
- 「既存の著者に紹介してもらったり、医師や研究者などオリジナリティが高い研究をされている人に依頼したりします」(PHP)
- 「出版セミナーに参加している人の企画書を採用する出版社もあると聞いていますが、私は、他社さんの本を読んだり、いろいろな場所に顔を出したりして書いてもらえそうな人を探しています」(朝日新聞出版)
こうした声を聞くと、「やはりSNSなんだな」と思ってしまう。ツイッターでフォロワー数を増やす、YouTubeを始めてみる、といったことも必要かもしれない。
かく言う私も、何冊かは、私のブログや担当番組のツイッターを見て、編集者から声をかけてもらったところから始まっている。
私に本が出せるのか?の指標
では、皆さんが何かに精通していて、本を出したいと考えた場合、それが形になるかどうかの指標を述べておきたい。
- 1章から5章まで大枠を決める
- それぞれの章で10項目、書きたいことを並べられる
この2つができれば、本は書ける。
たとえば、「大のお城好き」だったとして、第1章、第2章…とテーマを分け、それぞれ10項目、合計50項目をリストアップできれば本は書ける。
各項目で4ページ書くとして200ページ(まえがき、あとがき等を含め220ページ前後)の本になるということだ。
てこを動かすのと同じで、本を出そうとすると最初は少し苦労するかもしれない。しかし、転がり始めれば案外難しくない。
また、本は書くことで知見が深まり、出したことで名刺代わりにもなる。是非あなたも「週末作家」を目指してほしい。
清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。
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