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圧倒的な“遊び場感”。飲食横丁「ガレーラ立川」大成功の秘訣とは?

東京都の西部に位置し、多摩地区の要衝として栄えてきた立川市。大規模な繁華街を抱えるこの街に、昨年暮れにオープンしたフードマーケット「ガレーラ立川」が大きな賑わいを見せています。その秘訣に迫るのは、『月刊食堂』『飲食店経営』両誌の編集長を経て、現在フードフォーラム代表を務めるフードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、「ガレーラ立川」の若きプロデューサーへのインタビューを通して、何がコート内に溢れる「遊び場感」を生み出しているのかを探るとともに、全10店舗それぞれのこだわりを紹介しています。

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プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

東京・立川に誕生した横丁「ガレーラ立川」に漂う圧倒的な“遊び場”感覚の秘訣とは

コロナ禍にあって飲食業界でヒットしているトレンドの一つに、いわゆる「横丁」が挙げられる。筆者はさる2月4日付の「MAG2NEWS」で、今年1月にオープンした東京・虎ノ門の『小虎小路』のことを紹介した。“まん防”期間中は自粛要請に従っていて、明けてから賑わいが再び盛大になっている。

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今回は昨年12月東京・立川にオープンした「GALRELA Food Market TACHIKAWA」(以下、ガレーラ立川)のことを紹介しよう。立川はJR立川駅の北口側、南口側の二つの賑わいがあるが、歓楽街としては北口側が大きい。このエリアにはキャバクラやラブホテルが集まるアンダーグラウンドの一帯もある。「ガレーラ立川」はそのような一角に誕生した。店舗規模は約70坪・200席となっている。

「ガレーラ立川」の外観。ラブホテル、キャバクラに囲まれたアンダーグラウンドの場所にある


ストーリーのある空間でホッピングが楽しい

「ガレーラ立川」の外観は小さな倉庫のようなイメージ。横文字の看板と共にイルミネーションが施されているから「商業施設」であることが伝わる。施設内の照明のトーンが抑えられていて、何やら怪しい雰囲気がある。ここが18時を回るころには飲食を楽しむ人々で大いに盛り上がるようになる。平日、土日祝日とも昼時から(11時営業開始)クローズタイム無しで営業していて、特に土日祝日は昼時から夜まで延々と賑わっている(23時営業終了)。施設内の飲食店は10店舗、これを一覧表にまとめたが、ほとんどが立川をはじめとした地元の飲食業である。いずれも専門店で業態はダブっていない。

施設内には店舗の仕切りがない。中に入ると「わっ!」という感じの空気感に圧倒される。同時にわくわく感が高まってくる。右手側はポップな雰囲気があり、一方左手側はしっぽりとした感じが漂う。この理由は後述するが、客層は20代から40代がメインで、外国人がたむろしている様子が目立つ。“遊び場”という言葉が自然と連想された。ここに入ったら、一つの店にとどまらずホッピングが楽しい。

正面入り口が入って全体を見渡すことができるメインのフロア

ここは以前昭和レトロの雰囲気でまとめた「立川屋台村パラダイス」が営業していて、昨年4月に閉鎖。それを立川に本拠を置く食肉卸・加工販売を手掛けるミートコンパニオン(代表/阿部昌史)が取得して、「立川を活性化したい」という思いで構想を練った。

そのプロデューサーとして依頼を受けたのは保村良豪氏である。保村氏はカジュアルレストランを展開するMOTHERS(本社/東京都武蔵野市)の代表で、スタイリッシュでかつ秀逸な料理とサービスの飲食店・物販店を展開。立川は同社の本拠とも言える場所だ。

「ものを言い合える関係性」で計画を進める

「ガレーラ立川」をプロデュースした保村良豪(よしたけ)氏。地元立川の経営者たちから人望の厚い人物である

保村氏は「ガレーラ立川」をプロデュースしたいきさつについてこのように語る。

「いただいたテーマは『賑わいの創出』。ここは立川の中でも最もアンダーグラウンドな土地ですが、アンダーグラウンドだからこその空気感を大切にした。アレンジの仕方によっては艶っぽさが生まれる。そこで、あまりつくり込みをしないように考えました」

一覧表にあるとおり、出店している店の本社が立川市、武蔵野市、日野市となっているのは、保村氏と交流のある地元のメンバーで、保村氏が声を掛けて集めたから。最初に各オーナーに確認したことは、周りの商圏とかぶる商売はしないこと。それ以外の業態や価格構成、客単価について話し合うことは特にしなかったという。

「出店をお願いしたところはみな、しっかりとおいしい料理を出して、しっかりとおもてなしができるところ。業態の調整については私が行なった。とは言ってもメンバーが一堂に会して5分くらいで話がまとまった」(保村氏)

しかし、店に入ったとたんに圧倒される空気感はなぜ生まれるのだろうか。これについて保村氏はこう語る。

「ここの空間に『体感』が存在しているからです。それは『うわっ』という感動が、一つの空間の中に全部がつながっている状態。これを個店でつくり上げることができませんね」

店内のレイアウト図。二重コの字になっているのはカウンター。全体を見渡せるのが⑤、⑥、⑦のあたり

「『体感』をつくるために大切なことは『ゾーニング』。ここから入るとこのように感じるだろうなだとか。ラブホテルの横は裏路地だし、その近くにはバーやしっぽりと日本酒を飲む店を集めた。一方で、元気があってポップな動きができる店は入口近くの表側に集めた。これはみんなで話し合いながら、なんとなく収まった。これによって、施設全体のパワーが最大化する空間が出来上がった」

バーや日本酒を打ち出す店を一角に集めて静かに飲食を楽しむ雰囲気を創出している

ここのゾーニングが成功している要因は、何よりも保村氏と交流のあるメンバー相互が取り組んだことであろう。「ものを言い合える関係性」が一体化することによって、施設の中に「体感」を創出しているだろう。これが全く畑違いで、お金だけを目的に集まってきている人たちと取り組むと、このような形にはならないはずだ。

「モデル」の位置づけで各店舗が可能性を模索

一覧表の順に従って、各店舗のこだわりを紹介しよう。

あて鮨 喜重朗:こちらは“元祖あてまきの店”。「あてまき」とは巻物の中に塩辛やこのわたなど日本酒のあてになる具材を入れて食べていただくすしで、ここのオーナーが命名。

“あてまき”を生み出したすし店の様子。すしはみな小ぶりでつまみ感覚でいただく

立川ちゃんぽん エビサワ:立川市内で店を構え、2018年に閉店した「ホットナンバン」のちゃんぽんを、同店のファンであった保村氏をはじめとして記憶を頼りに再現した。

鶏だしおでん ねりもん:「おでんを水炊きのように提供してみたい」というオーナーの思いから開発に取り掛かり、一つのおでん鍋に鶏ガラ60分を使用して濃厚なスープにしている。

おでん鍋一つに「鶏ガラ60羽」で出汁を取っている店。このようにすべての店にこだわりがある

春巻きのニューヨーク:「ガレーラ立川」から徒歩1分の場所で「餃子のニューヨーク」を構える会社の店。春巻きは餃子と共に中身が見えないことから「感性を刺激する」という発想で開発。

「ガレーラ立川」から徒歩1分の場所で「餃子のニューヨーク」を営業する店が「春巻のニューヨーク」で出店

向日葵屋(ひまりや):酒との相性の良い小鉢料理を多数ラインアップ。料理もドリンクもすべて1品500円(日本酒は約90ml。支払いはキャッシュオンで対応。

GALERA EXPRESS COFFEE:コーヒー豆は、ブラジル・サマンバイヤ農園やコロンビア・ブエナビスタ農園の他、インドネシア、エチオピアから取り寄せ、豆に合わせて焙煎。

OAK:イタリア、フランス、スペインの自然派ワインやスパークリングワイン、オレンジワインなど約250本を常備。施設内ホッピングの利用を想定していてグラスに関しては少し抑えた価格で提供。

TACO WASA TOKYO TACO:タコスの生地をおからと小麦を原料とすることでもちもちした食感にした。これを「トーキョートルティーヤ」と名付け、通常コーンのものと選べるようにした。

Tamaya:2021年12月にオープンした立飛麦酒醸造所(立飛ブルワリー)のクラフトビールを提供。フードは鶏肉のほかに三元豚の「かしら」や「ひぞう」などを炭火焼で提供。

VIGO OYSTERBAR:自然派ワインと牡蠣、タパスの店。牡蠣は全国各地の産地から届いたものを、滅菌海水に入れて浄化させる時間を一般的なものより長く行っている。

保村氏によると、これらに出店している業態は「それぞれのオーナーにとって『モデル』となる位置づけ」と語る。ここでの営業が新たな展開を画策するチャンスとなり、ファンを育てることにもつながる。「ガレーラ立川」の月商は計画当初5,000万円とされていたが、この繁盛ぶりから拝察すると優に達していように伺われる。

image by: 千葉哲幸
協力:GALERA Foodmarket TACHIKAWA

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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