著者だけではなく、制作に協力した人たちが次々と暗殺されたいわくつきの本があります。命じたであろう人物の名はプーチン大統領。そうした出来事が、「本に書かれている内容が真実である」という証明なのかもしれません。メルマガ『1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』』の中で、ロシアのスパイによるロシアの内部事情を暴露したをその本を紹介していきます。
【一日一冊】ロシア闇の戦争
『ロシア闇の戦争』
アレクサンドル・リトヴィネンコ , ユーリ・フェリシチンスキー 著 , 中澤孝之 訳/光文社
ロシアでは武力侵攻を行う前に、相手側がテロ活動を行ったかのように破壊活動を自作自演することがマニュアル化されています。ロシアのチェチェン侵攻でも同じ手法が行われていたと著者は説明してくれます。
著者のリトヴィネンコ氏はKGB諜報局、ロシア保安庁、連邦防諜庁、連邦保安庁(FSB)に在籍していた本物のスパイであり、1998年にFSBからの違法な暗殺指令を記者会見で暴露して、2006年に暗殺されています。2006年のロシア大統領はプーチンであり、プーチンの命令で暗殺されたのです。
1994年、連邦防諜庁(FSK)はモスクワの鉄橋を爆破します。その犯人は石油会社ラナコの社員で、爆弾を仕掛けているときに暴発して死亡しました。ラナコ社社長のラゾフスキーはFSKの工作員でした。
FSKは「チェチェンのテロリストがロシア国内で活動している」と発表します。これはKGBのマニュアルにある宣伝文句と同じであり、その後チェチェン人が逮捕され、チェチェンでの軍事行動(第一次チェチェン紛争)が開始されたのです。
1994年12月…FSK工作員で、ラゾフスキーが経営するラナコ社で働いていたウラジミール・ヴォロビヨフという男が、路線バスに遠隔装置の爆弾を仕掛けた(p77)
さらに1999年9月、ロシアのアパート4カ所が爆破され、300人以上が死亡しました。エリツィン政権はチェチェン人によるテロとして、報復として第二次チェチェン戦争を開始します。FSB長官だったプーチンは1999年8月に首相となり、12月には大統領代行、2000年5月には大統領となっていくのです。
著者が指摘するのは、同時期に起きたアパート爆破未遂事件です。アパートの地下室に時限爆弾が発見され、犯人は逃走し、なんと犯人がモスクワのFSB本部に連絡を入れていたことを捜査官が突き止めたという事実です。プーチンの後任のパトルシェフFSB長官は、「爆破未遂事件は演習であった」と発表せざるをえませんでした。
著者の見立ては、プーチンはFSB長官としてアパート爆破事件を計画し、チェチェン人の犯行に見せかけて、ロシアの第二次チェチェン紛争を画策したということです。プーチンはチェチェン紛争によってエリツィン大統領を退陣させ、FSBの仲間を政府の要職に配置していきます。
プーチンの後任のFSB長官だったパトルシェフは今もロシア連邦安全保障会議書記として、プーチンを支えています。チェチェン紛争を利用して旧KGB勢力によるクーデターで、ロシア支配に成功したのです。
モスクワとの不審な通話を受信したのだ。「一人ずつ脱出しろ。街じゅう警官だらけだ」電話の相手はそう答えた…電場番号から、テロリストが連絡した相手はモスクワのFSB本部であることが判明したのだ(p140)
この本に協力した多くの人が殺されました。ロシア下院議員のゴロヴリョフとユーシェンコフは射殺され、ポリトコフスカヤ記者も殺された。シチェコチーヒン下院議員と著者のリトヴィネンコは毒を盛られ、殺害されたのです。
この本から分かることは、プーチンは裏切者は決して許さないということです。ウクライナもロシアを裏切ったので、許さないのでしょう。そして、暗殺や紛争による数万人の死もいとわなかったプーチンですから、70歳の今、目的達成のためなら核兵器の使用もいとわないと思われます。
映画では主人公の奥さんのクビが最後に主人公に送りつけられたり、ギャングに捜査官一家が惨殺されて気分が悪くなる作品がありますが、現実のロシアの方が怖ろしい世界なのです。この本はロシアでは発禁となっており、この本の内容を紹介するだけで暗殺される可能性がありますので注意しましょう。
そういえば、アメリカでもCIAとマフィアが組んで大統領を暗殺したことがあるし、大量破壊兵器を開発しているとの理由で侵攻したこともあるので、諜報の世界は本当に怖ろしいことがわかりました。
フェリシチンスキーさん、良い本をありがとうございました。
【私の評価】★★★☆☆(76点)
<私の評価:人生変える度>
★★★★★(お薦めです!ひざまずいて読むべし)
★★★★☆(買いましょう。素晴らしい本です)
★★★☆☆(社会人として読むべき一冊です)
★★☆☆☆(時間とお金に余裕があればぜひ)
★☆☆☆☆(人によっては価値を見い出すかもしれません)
☆☆☆☆☆(こういうお勧めできない本は掲載しません)
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