アメリカの外交問題の中で、史上最悪の関係にあるとされるサウジアラビアの話を前回しましたが、今回はその第2弾。インド太平洋に於ける安全保障の大きなカギを握るインド、とアメリカのまずい関係についてお話をしたいと思います。
国連人権理事会からロシアを排除する事に賛成しなかったインド
4月7日の国連人権理事会からロシアを排除する決議案は、24か国が反対、58か国が棄権と、なんと合わせて82か国もの国が賛成しなかったと言う話を以前ご紹介しました。
日本にいると驚かれるかもしれませんが、実は、ロシア包囲網を取る国は、実質NATO加盟国とその周辺国プラス、日・韓・オーストラリアだけ、と言っても過言ではない現実があり、そして、賛成しなかった国々の中に、ブラジルやメキシコ、インドネシア、そしてインドなど、経済的に今後無視できない大国が含まれています。
その中で、今後ロシアだけでなく、中国との、更には中露の連携体制との対立軸を考える際に安全保障上極めて重要な大国が「インド」です。
インドの立ち位置
インドは、ウクライナ紛争が開始された後も、味方に付けようと必死に画策するアメリカに同調する素振りを全く見せず、中立と言いながらロシア寄りの姿勢を保っています。
経済制裁にも全く同調せず、紛争開始後の3月に、ロシアからなんと1600万バレルの原油購入という契約を締結しました。
この量は昨年インドがロシアから輸入した1年間分の金額に匹敵すると言われ、5月から引き渡しが始まりましたが、更に今後増加すると見られていて、サウジアラビアと同様に、「ロシア支援」と取れる動きを見せています。
インドがアメリカに同調しない理由
インドが、容易にアメリカと同調しない理由は、長く続いた両国の決して良いとは言えない関係にあります。
第2次世界大戦後、一貫してアメリカはインドを敵対国とは言わないまでも、決して友好国としての扱いをしてきませんでした。
寧ろインドと敵対するパキスタンを支援し、1965年に当時のガンジー首相にベトナム戦争を批判された際から1998年のインドの核実験まで、アメリカは事ある毎に一方的に経済制裁を課し続けてきました。
直近でも、アフガン撤退やミャンマー軍事政権への対応も、インドの敵対国であるパキスタンや中国により有利に働き、インドのアメリカへの不信感は決して薄まる方向に動いていない現状にあります。
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ロシアとインドの関係
逆にロシアは冷戦時代、つまりソ連時代から、実質的軍事同盟と言っても過言では無いくらいインドを軍事的に支援してきました。
インド軍が保有する武器の大半はロシア製と言って良く、インドの武器輸入に占めるロシア製の割合は直近20年で60%以上、例えば、ブラーモスと呼ばれる超音速巡航ミサイルはロシアとの共同開発であり、インド海軍が唯一保有する空母もロシア海軍より購入したものです。
また、ロシアはインドに特別原子力潜水艦のリースを認めています。
直近の問題としては、2018年にインドがアメリカの反対を後目に50億ドルで契約を締結した「トリウームフ」と呼ばれる防空ミサイルシステムです。
アメリカのパトリオットの進化版と言われているものですが、まだ昨年納入が始まったばかりで、これは、2017年に制定されたアメリカの法律上、自動的に経済制裁発動の対象となります。
バイデン政権は、制裁を課すか、免除するか今のところ未定だと言っていますが、こういったことも含め、アメリカが自国の都合で他国にものを言う態度にインドは歴史的に不信感が強く(反米感情と言って良いと思います)、今回のウクライナ危機でインドがロシアを批判しない態度に対するアメリカの発言も、反米感情がより高まる要因となっています。
そして今日は詳細は触れませんが、バイデン政権の民主主義イデオロギーと、インドのヒンズー教信仰のアイデンティティは相容れない部分が大きく、こちらも今後どう解決していくかがバイデン政権の大きな課題と言えます。
この様に問題山積のアメリカとインドの関係ですが、バイデン政権としては、インドの武器購入についてより選択肢を広げること(アメリカの高価かつ機密制約の多さを解消するだけでなく同盟国であるイギリス、フランス、イスラエルからの供給も)、そして、威圧的な態度を捨てて、今までの外交を見直し、今後のインド太平洋地域の安定の為にも、早急にインドとの関係を良好にすべくベストしてもらいたいと思います。
出典:メルマガ【今アメリカで起こっている話題を紹介】欧米ビジネス政治経済研究所
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