出口が見えないロシア軍によるウクライナ侵攻。最初の攻撃から3カ月が経過しますが、状況はあまり変わっていません。一体いつまで続くのでしょうか。そこで今回は、経営コンサルタントの梅本泰則さんが自身のメルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の中で、戦争に対する孫子の言葉を紹介。ロシアの現状から行く末、そして戦争について紐解いていきます。
孫子から見たプーチンの兵法
ロシアのウクライナ侵攻が止まりません。
この事態を経営と重ね合わせて考えることも出来ますが、現実の戦闘場面を見せられると、そうもいかないです。
こうした時にこそ、「孫子」をひも解いてみようと思います。戦争に対する孫子の考え方のすごさが分かるはずです。
まずは戦争の本質について語られた言葉を2つ紹介します。
● 兵は国の大事、死生の地、存亡の道なり。察せざるべからず
「戦争というものは、人民の生死、国家の存亡にかかわる重大事である。だから、戦争を始めるにあたっては、よほど慎重に検討しなければならない」
ウクライナでは、多くの人民が死んでいます。本当に国家の存亡がかかっているところです。ロシアも慎重に準備して戦争を始めたのかもしれませんが、結局ロシアそのものの存亡に、事は及んでいます。
● 兵の拙速を聞くも、未だ功久しきを睹(み)ず
「短期決戦に出て成功した例は聞くが、戦いを長引かせて成功した例は見たことがない」
戦争が長引くと、国力が疲弊します。孫子はその理由もあげています。
1.軍隊、兵器、食料の輸送に膨大な経費を消費する
2.商品の物価が上昇する
3.国家の財政がひっ迫する
4.そのため、税金や賦役が重くなる
5.その結果、人民の生活に窮乏を加え、国全体が貧しくなる
まさにロシアの将来を見透かしているようです。ですから、ロシアは短期決戦をもくろんだようですが、事はうまく運んでいません。孫子によれば、この戦いは成功しないことになります。
次は戦い方についての孫子の言葉です。
上手な戦い方
孫子は、上手な戦い方を教えてくれます。その中から4つの言葉を紹介しましょう。
● 勝ちを知るに五あり
「勝利を収めるための条件は、五つある」
孫子が説くその条件は、次のとおりです。
1.戦うべきかどうかを判断できること
2.兵力に応じた作戦がとれること
3.君主も人民も心を一つに合わせること
4.万全の態勢で、敵の不備につけこむこと
5.将軍が有能であって、しかも君主が将軍の指揮や作戦に干渉しないこと
はてさて、ロシア軍はこの勝利の条件を満たしているでしょうか。満たしていなければ、今回の戦争に勝てないでしょう。特に、5番目の条件が問題です。
● 夫(そ)れ戦勝攻取して、其(そ)の功を修めざるは凶、命(な)づけて費留(ひりゅう)と曰う
「敵と戦って勝ち、敵の城を占領しても、戦争目的を達成できなければ、結果は失敗である。これを骨折り損のくたびれもうけという」
まさに、ロシア軍のことを言っているようです。
● 戦わずして人の兵を屈するは、善の善なるものなり
「戦わないで敵を屈服させることこそが、一番いいのだ」
これは、孫子の考え方を貫いているものです。ロシアにこのような考え方があれば、今回の事態にはならなかったでしょう。
● 行くこと千里にして労せざるは、無人の地を行けばなり。守りて必ず固きは、その攻めざる所を守ればなり
「千里を行軍して疲れないのは、敵のいないところを狙って進むからである。陣地を必ず守り抜くのは、敵が攻めることのできない地形に陣地を構えるからである」
ウクライナ軍が何とか守れているのは、こういうことなのかもしれません。
指揮官のあり方
次は、指揮官についての言葉、4つです。
●善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に、善く戦う者の勝つや、智名、勇攻なし
「いくさ上手な者は、勝ち易い状態を作り、無駄なく自然に勝つ。だから、勝っても智謀は人目につかず、その勇敢さを賞賛されることもない」
ロシア軍は勝ち易い状態を作ってはいません。また大いに無駄もしているようです。ここからすると、プーチン大統領はいくさ上手とはいえません。
● 兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に、兵を知るの将は、民の司命、国家安危の主なり
「戦争は勝つことが大事で、長く戦うことが狙いではない。この道理をわきまえた将であってこそ、人民の生死、国家の安危をまかせるに足るのである」
ウクライナ進攻は、思いもよらず長引いています。プーチン大統領は国家の安危を任せるに足る人物と言えるでしょうか。
● 主は怒りを以て師を興すべからず。将は慍(いきどお)りを以て戦いをいたすべからず
「一国の王たる者、一軍の将たる者は、怒りにまかせて兵を動かしたり戦ったりしてはならない」
孫子は、怒りは時がたてば喜びに変わることもあるが、国は滅んでしまったらそれでおしまいだし、人は死んでしまったら二度と生き返らないからだ、と言葉を続けています。
ウクライナ進攻では、目立つのは怒りばかりです。
● 将、九変の利に通ずる者は、兵を用うることを知る
「臨機応変を知り、変幻自在に兵を動かすことのできる指揮官だけが、任務を成功させる」
今回の戦いでは、どちらの指揮官が「九変の利」に通じているでしょうか。その能力が試されています。
いかがでしょうか。孫子の言葉は、実際の戦闘の場面を前にして読んでみると、一層理解が深まる気がします。
■今日のツボ■
・戦争は、国家の存亡にかかわる重大事だということを肝に銘じる
・一番良いのは、戦わないで勝つことである
・戦うならば短期決戦を目指す。長引いたら成功
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