衝撃的な映画が韓国で封切りされようとしています。それは身分を偽り、北朝鮮に潜入した男のドキュメンタリー。無料メルマガ『キムチパワー』では、韓国在住歴30年を超える日本人著者が、10年間ものスパイ任務のもと、金正恩をも欺いた男の詳細とその中身について詳しく紹介しています。
バカの幸運
ソウルラックスパー国際映画祭閉幕作として上映された『潜入』。この映画は独裁政権の北朝鮮に潜入し、10年間スパイ任務を遂行した男のドキュメンタリーだ。デンマークの実在人物ウルリッヒ・ラルセンという男の10年に渡る決死の実体験である。朝鮮日報とのインタビュー記事が載っていた。ご紹介したい。
「3年にわたって撮影したが北朝鮮当局を欺くために身分を偽装したのは10年前からだ。その10年が2時間のドキュメンタリーになったわけだ。この映画が公開され私の正体が露出することになったけれど、怖くはない」。
北朝鮮の武器密売実態を暴露したドキュメンタリー映画『潜入(THE MOLE)』の俳優ウルリッヒ・ラルセン(46、デンマーク)は平凡な男のように見えた。ソウルラックスパー映画祭閉幕作として上映された「潜入」は、彼がスペインに本部を置く北朝鮮親善協会(KFA)」に加入し信頼を得て役員になった後、北朝鮮とウガンダ、ヨルダンなどで武器密売を協議する過程をカメラに収めたもの。
先月30日、ソウル光化門(クァンファムン)で会ったラルセン氏は、「2度訪朝して勲章までもらった。3~4メートルの距離から見た金正恩は中世時代の王のようだった」と述懐した。勇気と根性なしでは作れないドキュメンタリーだ。
平壌(ピョンヤン)のある食堂で、北朝鮮当局はミサイルや戦車などの「兵器メニュー」を披露した。スカッドミサイル5発は1,400万ドルだった。
2018年アフリカウガンダで開かれた会議では「北朝鮮武器をシリアに配達してくれるか」という質問を受ける。
ラルセンとジェームズは、北朝鮮官僚とともにウガンダに行って島の購入について話し合う。ラルセンは「ウガンダ側には豪華リゾートを建てると言ったが、地下には武器と麻薬工場を入れようとした」とし「北朝鮮は不法を隠そうと『三角取引』手法も使っている」と伝えた。
「2011年“残酷な独裁国家をなんで称賛できるのか”という好奇心でKFAに入った。この組織で私の地位が上がりスカンジナビア支部代表を務めることになると『北朝鮮の武器・麻薬を売る事業家を探してほしい』という隠密な要求を受けた。このドキュメンタリーを演出したマス・ブリュガー監督に連絡し『石油財閥ジェームズ』という俳優を雇用した。彼もスパイ役に立つ度胸を持っていた」。
虎を捕まえるためには虎穴に入らなければならない。『潜入』は世界で最も秘密で残酷な独裁政権に潜入するために途方もなく危険な任務を遂行する2人の平凡な男に関する実際の潜伏スリラーだ。
デンマーク独立映画製作者マス・ブリュガーが演出した『潜入』は艦艇捜査技法を使用した。正体がばれるかもしれないが、命をかけるほどのことだったのだろうか。
ラルセンは「北朝鮮は国連制裁を受けながらも武器を売って外貨を稼がなければならなかったし、私たちはその切迫感を逆利用した」とし、「2,500万の北朝鮮住民が体験する苦痛に比べれば、それほど危険ではなかった」と話した。
彼は「神聖な北朝鮮のための闘争を撮影してユーチューブに上げる」として、ほとんどすべてのことを映像で記録した。隠しカメラで撮った場面もある。スウェーデン駐在北朝鮮大使は「万が一何かあったらわが北朝鮮大使館は知らない(責任を負えない)」と話した。
2020年末にこのドキュメンタリーが公開されるや北朝鮮は偽物だと言い放ったが、英国BBCは「金正恩委員長がかなり当惑するだろう」と評した。
ラルセンは引退した料理人で、現在は政府支援金を受けて生活している。『潜入』を準備して撮影する10年間は妻と2人の娘までだました。
元CIA要員に頼んで尾行を見抜く方法などスパイ技術を身につけたという彼は「日常の95%は私自身で、5%はスパイとして生きなければならないという指針に忠実だった」として「撮影を終えて妻に一種の告解をして現実に戻る瞬間が最も苦痛だった」と話した。
「北朝鮮が報復したり脅迫したりしたことはない」と述べた。そうすれば、このドキュメンタリーの内容が本物だということを自認する格好だからだ。ラルセンと家族はデンマーク情報当局の身辺保護を受けている。
原題『THE MOLE』は「スパイ」という意味。この日、彼が渡した名刺には「特別な話を持った平凡な人」と書かれていた。ラルセンは「私の特別な経験について講演し、自叙伝を書く計画だ」と話した。ドキュメンタリーは韓国国内の封切りを推進中だ。
「10年間、偽の人生を送ったが、北朝鮮の犯罪を知らせることができてやりがいを感じる。デンマークには『バカの幸運(fool’s luck)』という表現がある。9時に出勤して5時に退勤する人々は理解できないが、危険は危険だがそれだけに全てをかけてはじめて現実がある種の補償をしてくれるという意味だ。寂しかったが報われた。このドキュメンタリーの中の北朝鮮は偽物ではなく本物だ」。
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月8日号)
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