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“敵の牙城”で大暴れ。大阪に乗り込み「維新の正体」を暴く菅直人元首相の行動力

7月10日に投開票が行われる参院選で、昨秋の衆院選の勢いそのままに野党第一党の座を狙う日本維新の会。しかしその前に、強力な敵が現れたようです。元毎日新聞で政治部副部長などを務めたジャーナリストの尾中 香尚里さんは今回、かつて首相を務めた立憲民主党の菅直人氏が、自ら大阪に乗り込み展開する「維新との戦い」の様子を詳細にレポート。菅氏が暴かんとする維新の正体と、彼らの政治に翻弄される大阪の市井の人々の声を紹介しています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

「維新を斬れ」菅直人元首相が大暴れ(前編)

立憲民主党の菅直人元首相(党最高顧問)が、参院選(22日公示、7月10日投開票)を前に、妙に存在感を増している。この参院選で「立憲から野党第1党の座を奪う」と息巻く日本維新の会を目下の「敵」と見定め、自ら党の「大阪特命担当」を名乗り、維新の牙城の大阪にたびたび乗り込んでいる。現在75歳。菅氏は自身の政治活動の「集大成」を「維新との戦い」と見定めているかのようだ。

「11年前に総理を務めました、菅直人です」

13日朝。菅氏は、立憲民主党が参院選の大阪選挙区に擁立を決めた新人・石田敏高氏らとともに、JR京橋駅(大阪市城東区)前で街頭演説に立っていた。京阪本線や大阪メトロも乗り入れるターミナル駅。足早に行き交う大勢の通勤客に向け、菅氏はこう訴えた。

「自民党が与党で、維新が野党なのではありません。維新は自民党をもっと右に引っ張っていく政党なのです。維新の正体を大阪の皆さんに見極めてもらいたい」

街頭演説で配られていたのが、菅氏自らが作成した小冊子「維新政治を斬る!」だ。

A5判24ページの冊子には、維新政治の危険さを表すキーワードとして「カジノ・イソジン・核武装」を挙げた。カジノは「弱い者をいじめて強い者を強くする新自由主義的な経済を目指すこと」、イソジンは「国民の生命や暮らしを守ることをないがしろにし、『やってる感』ばかりを演出すること」、核武装は「戦後日本が築いてきた平和主義と民主主義的価値観を踏みにじり、戦前回帰を図ろうとすること」の象徴であると指摘した上で、維新が掲げる「身を切る改革」について「国会議員を3割減らしても、国民1人あたり約200円にしかならない」などと批判している。

ビラに比べてかなり情報量の多い冊子だが、せわしない通勤時間帯にもかかわらず、用意していた数はすべてはけていた。

今さら繰り返すまでもないが、大阪における維新の勢いはすさまじい。昨秋の衆院選では、19ある小選挙区のうち15選挙区で維新が勝利。ちなみに、残る4議席は事実上の協力関係にある公明党が勝利している。

一方、立憲は党のシンボル的存在である辻元清美氏(大阪10区)が比例復活もできず落選するなど惨敗し、現在大阪を選挙区に持つ立憲の衆院議員は、比例復活した森山浩行氏(選挙区は大阪16区)1人だけ。参院議員は1人もいない。参院選はここ2回、改選数の4議席を維新2、自民1、公明1で分け合っており、今回も同様の結果になるのではないかという予測も出ている。

党の足腰となる地方議員をみても、大阪府議会は定数88の9割以上を維新、自民、公明の各党が占め、立憲の府会議員はわずか2人である。

こんな惨憺たる状況のなか、党内には一時不戦敗の空気さえ漂っていた。

菅氏が「対維新」に前のめりになり始めたのは、そんな折だった。

1月19日にツイッターで「『維新』と戦う立憲有志の会の準備をしている」と投稿。21日には維新創設者の橋下徹氏の弁舌について「ヒットラーを思い起こす」と記述し注目を集めた。維新の馬場伸幸共同代表が菅氏に抗議に来ると、菅氏は「維新と橋下氏の関係」について逆質問。「橋下氏と維新とは関係がない」と述べる馬場氏に「ではなぜ維新が党として抗議に来るのか」と問いただし、返り討ちを浴びせた。2月には維新が進めているカジノの予定地・夢洲を視察。繁華街・ミナミでの街頭演説で「維新は自民党の別動隊」「維新に入れる1票はカジノに賛成する1票」と声を張り上げた。

菅氏の動きに呼応するように、立憲の大阪府連は4月、石田氏の公認を決定。石田氏の擁立に合わせ、立憲は菅氏を参院大阪選挙区の「特命担当」に指名した。

さて、5度目となった菅氏の大阪入り。今回の目的は、維新一色に塗りつぶされた大阪で、顧みられていない市井の人々の声に耳を傾けることだった。京橋駅での街頭演説の前日の12日、菅氏は東大阪市で歯車などを製造する企業で「ものづくり」の現場を視察。技術を受け継ぐ後継者育成の難しさや、自動車産業の将来などについて話を聞いた。

さらに菅氏は、昭和40年代に開発された泉北ニュータウンの府営住宅を訪問した。高度経済成長期の大阪の住宅難に対応するため造成されたこの団地は、開発から半世紀あまりが過ぎたなかで激しい老朽化が進む一方、住民は高齢化し、ある種の過疎状態になっている。雑草に覆われた錆び付いた滑り台が、かつてそこが子供たちでにぎわった公園であったことを、かすかに伺わせた。

府は入居者に現地立て替えを提示していたが、その後移転、廃止と方針が二転三転。住宅は老朽化したまま放置され、住民の日常生活に支障が生じていた。「文句があるなら遠いところへ引っ越せ、と言われる」「万博やカジノをやるお金があったら、ほかに回してほしい」。次々に上がる住民の不満。菅氏は「大阪府が5年先10年先を見通して、住民が安心して住み続けられる案を描かないといけない」と応じた。

実はこの地域は、維新の馬場共同代表の選挙区だ。あのヒットラー発言をめぐる因縁の相手である。菅氏は、シャッター通りと化したかつての商店街を背に、報道陣に向けてこう言い放った。

「維新は足元の皆さんの要望を無視している。地元住民にとって大きな課題である府営住宅の問題すら対応できない維新に、日本の改革など絶対にできないと確信した」

それにしても、東京を選挙区に持つ菅氏が、わざわざ「大阪特命担当」を名乗ってまで維新批判に乗り出したのはなぜなのか。後編では菅氏へのインタビューを掲載する。

image by: Twitter(@菅直人 立憲民主党大阪特命担当 衆議院議員

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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