新大統領となった尹錫悦率いる新政府が本格的に始動を開始していますが、目の前には暗雲が立ち込めている様子です。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、前政権が残したあまりにもひどい弊害を尹錫悦大統領がどこまでそぎ落とせるか論じています。
尹錫悦新政府、本格始動
尹錫悦(ユン・ソンニョル)政府が本格的に国政にエンジンをかけた模様だ。むろんまだ内閣も完全な形にはなっておらず、重要な要職人事も残っている。政府組織の再編は始まってもいない。
それでも任期5年間、文在寅政府時の政府主導経済を市場・民間主導経済に転換し経済を正常化するという経済政策の大きな枠組みを確定し、初めての不動産対策も出した。ひとまず国政システムが稼動するくらいまでは来たようだ。
しかし文前政権が残した弊害がますます深刻性を示している。(文政府の)国政はどこを見てもまともなところは一つもないが、特に経済分野の傷はことばもない。物価高は基本的にグローバルサプライチェーンの亀裂が問題だが、この文政権の5年間、積弊を取っ払うとして海外資源開発を源泉封鎖した余波が、苦痛を全方位に拡大させている状況だ。
脱原発はエネルギー供給に支障をきたし、優良企業だった韓国電力を不良企業に転落させ、この渦中に電気料金の引き上げを余儀なくされた。住宅担保貸出者が、継続する金利引き上げで元利金償還のために非常事態に陥ることになった原因も、文前政権の不動産政策の失敗だ。
5年間、資金供給で市中の流動性を大幅に増やし、家計負債を1,900兆ウォンに放置してきた部分も大きい。尹政府スタート以後まで雇用・財政・住宅などの政府統計に長く暗い影を落とすことになるだろう。
今、経済が四方八方塞がった四面楚歌ならぬ「八面楚歌」危機に処することになった原罪は、文前政権の失政にあると見るほかはない。
そのため経済正常化は急がれるだけでなく、避けられない。企業がうまく走れるように、文前政権が25%に引き上げた法人税の最高税率を再び下げて従来の水準に還元し、規制改革で砂袋を取り外そうとするのも正しい方向だ。
懲罰的な総合不動産税・財産税を下げる税制正常化も当然だ。それでも国会を掌握している民主党は、間違いなくタックルをかけてくるだろう。3月の大統領選挙前には保有税引き下げをあれほど叫んだが、敗北すると言葉を変えてしまった。選挙を3度連続で失敗しても反省がない。
しかしこれも尹政府が乗り越えなければならない課題だ。
文前政権の失政が莫大な負担を押し付けたのは明白な事実だが、前政権のせいにだけしていれば正常化のための「ゴールデンタイム」を逃す恐れがある。他人のせいにばかりする民主党のように、ややもすれば言い訳をすると誤解されかねない。
おそらく民主党は、「おまえのせいだ」とレッテルを張って攻防が長引くことを望んでいるのかもしれない(民主党にとっては国民は眼中になく自分だけがある)。
さらには尹政府内部を見ても尋常ではない。すでに方向性を離脱した事例が相次ぎ、憂慮される。貨物連帯ストに屈服したのが代表的だ。法治と公正と常識を前面に掲げた尹政府が「無理強い法」に押された悪い先例を残すこととなった。
さらに首相室は規制革新団を設置し、なんと全体200人のうち150人を退職公務員で満たした。過去李明博・朴槿恵政府も電柱を抜いて爪の下のとげも抜く(悪い物は全部抜き取る)と豪語していたが、「フードトラック」1台も実現できなかった。
官僚と一線公務員の抵抗ないし小細工改革が大きな原因だった。ここに至って規制をこれまで放置してきた張本人の退職公務員たちが改革を主導するということは時代錯誤もいいところだ。主役でなければならない民間は脇役にすぎない格好だ。主客転倒だ。
このような公職者中心の退行的発想が尹政府から出たというのが信じられない。まずはここから正さなければならない。
文前政権が細かく歪曲した「非正常」を正常化するだけでも任期5年で可能かどうかは未知数だ。重要な国政課題ごとに関連法の改正・制定が欠かせない。
これを避けて「施行令統治」をすることは限界が明確だ。関連法なしに改革をしてみたところで、問題の本質はそのままにした小細工でなければその場しのぎという批判は避けられない。
もはや「尹政府の時間」だ。万事が尹政府の責任だ。民主党が支配する国会を越えることも、尹政府の時代的召命だ。粘り強い理解と説得、多角的な戦略で正面突破しなければならない。尹大統領が直接与党・野党議員と個別に疎通する覚悟もしなければならない。
2024年4月の国会議員総選挙まで2年も残っていない。働ける時間があまりない。可視的な成果を出すよう全力投球しなければならない。(国民日報コラムをベースとした)
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月26日号)
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