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米国と中国の対立に利用されるだけの台湾・日本は「明日のウクライナ」か?

NATOから「アジア太平洋パートナー国」として招待を受け、スペインで行われた首脳会合に出席した岸田首相。同会合では「戦略概念」に初めて対中政策を含めるなど、NATOとして中国への牽制姿勢を鮮明にしましたが、日本が米国を追従しその流れに乗り続けることは、はたして国益にかなう選択と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、日本が米中対立のコマとしてアメリカに利用される可能性を指摘。さらにどちらの大国が勝ちを収めるにせよ我が国が無傷でいられるはずはなく、今まさに日本は歴史の転換点に立たされているとの見方を示しています。

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日本が本当に「明日のウクライナ」にならないために

この1週間を振り返って思うのは、国際情勢がまた大きく動いたということだ。影響を及ぼしたのはドイツで開かれたG7エルマウ・サミット(6月26日から28日)とその直後に開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会合。そして二つの会議に対抗するかのように行われたロシアとカスピ海沿岸国との首脳会議だ。

G7とNATO首脳会合の主題がウクライナ問題であったことは疑いない。しかし同床異夢の一面も晒した。アメリカと日本はNATOとアジアの同盟国をまとめ上げ、中国に対抗しようと動いていた。あからさまな対中包囲網形成の動きに、さすがに習近平政権も神経質を尖らせ始めたようだ。

直前(6月23日)にオンライン形式で開催された第14回BRICS首脳会議では、議長を務めた習近平国家主席が講演。「国連を中心とした国際体系と国際法を基礎とした国際秩序を守り、冷戦思考と集団的対立を捨て、一方的制裁と制裁の乱用に反対し、人類運命共同体の『大きなファミリー』によって覇権主義の『小集団』を超越する必要がある」と述べた。

あらためて言うまでもないが、「国連中心」の強調は、世界を対ロ経済制裁に巻き込もうとするアメリカへの批判だ。冷戦思考の「小集団」はNATOを筆頭に日本、アメリカ、オーストラリア、インドの四カ国の枠組み・クワッド(=QUAD)や英豪の新たな安全保障の枠組み・AUKUS。そしてインド太平洋経済枠組み(IPEF)などを指す。

日米が中国排除のために掲げる旗印は反権威主義国家だ。それを意識して習近平は「我々は開放・包摂的、協力・ウィンウィンというBRICS精神」だと強調する。

アメリカが次々に繰り出す仕掛けに、中国が防戦に躍起になっているというのがこれまでの印象だ。NATOの「戦略概念」でも、初めて中国について明記された。包囲網は明らかに一歩ずつ形成されているようだ。

だが、ロシアがウクライナを侵攻した直後に欧州の国々がNATOの重要性を再認識し団結を確認したのをマックスと考えれば、今回のG7からNATO首脳会合までへの流れは、むしろ思惑の違いが浮き立ったとの見方もできるのではないだろうか。

例えば、G7にはインド、南アフリカ、インドネシア、セネガル、アルゼンチンといった国も招かれていたが、彼らがG7との結束に動いたかといえば、決してそうではなかった。ドイツのテレビ局(ZDF)のインタビューに応じた南アフリカのナレディ・パンドール外務大臣は、「ウクライナ問題は10年前からグローバルな議論のテーマでした。しかし我々はこう言った席に一度も招かれていません。だから突然、この問題でこちらの方向性とか別の方向性で、などと言われる筋合いはない」と正論を口にし印象的だった。

G7出席に先立ち、アルゼンチンが「BRICSへの加盟を望んでいる」との情報が駆け巡り、会議に水を差すことになった。

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不協和音はG7内からも聞こえてきた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領がジョー・バイデン大統領を呼び止めて「石油の増産には……」と深刻な表情で話しかけると、そばにいたジェイク・サリバン大統領補佐官が慌てて遮り、「メディアが撮っている。話は中で」と促した場面にも注目が集まった。

支援に最も積極的なイギリスのボリス・ジョンソン首相とは対照的にドイツもイタリアも慎重だった。「ウクライナ疲れ」といった言葉が象徴するように、これまで対ロ強硬発言が目立ったウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長もウラジミール・プーチン大統領のG20からの排除を望まないと発言した。

対ロ強硬派のジョンソン首相にしても内政では針の筵のようだ。内政での不利を覆すためにウクライナ問題でアクセルを踏むと指摘するメディアは多く、G7の会見ではBBSの記者から「帰国したくないのでは」と突っ込まれる場面も見られた。

NATO首脳会合では、せっかく参加した韓国の尹錫悦(ユン ソンニョル)大統領が国内で散々に酷評され話題となった。バイデン大統領がそっぽを向いたまま尹の手を握ったことに始まり、日米韓首脳会談に費やされた時間がわずかに25分だったこと。また日韓首脳会談に至ってはたった4分という短さだったことが批判を受けた。しかもNATOホームページに掲載された写真は、大統領だけが目をつむっている写真で、続く夫人のケースでも顔が半分隠れた写真がアップされたのだ。こうした冷たい扱いに対しネットで怨嗟の声があふれたのだ。

NATOからすれば、日本や韓国が加わったところで「心強い」はずはないのだから当然だろう。本音を言えば、アジアの紛争に巻き込まれるつもりなど毛頭ないだろうし、巻き込まれるほど愚かでもない。

そもそも主要敵であるロシアが、警戒していたウクライナに手を出したのに対し、ドイツやイギリス、フランスからの支援でさえこれほど緩慢であるのに、どうやってアジアの問題に関わるのか。冷淡なのは当然だろう。

一方、それでも中国はいよいよアメリカの動きが一線を越えたと感じ取ったようだ。

新冷戦を否定しながらも、やはり仲間を増やす必要性を痛感したようなのだ。当面、その中心となるのはBRICSとRCEP(包括的経済連携)、そして「一帯一路」だろう。政治的には「非対立」で大国同士の対立とは距離を置きながら、経済発展という共通項で緩やかに結びついてゆこうという流れだ。

米中対立の真っただ中にいる中国が「大国同士の対立とは距離を置く」といっても分かりにくいが、要するに中国はアメリカと関係を切れとは言わないのだ。発展の機会を放棄してまで米中対立のどちらかに加担するのは嫌だという国には圧倒的に魅力的だ。

G7に先立ち中国外交部の趙立堅報道官はBRICSとG7の人口を比較し「32億人vs.7億7,000万人」と発信した。

かつてG7は世界のGDPの7割を占めていたが、いま(2018年)は45.3%に下がり、下落傾向は続いている。中国は伸び盛りの新興国・発展途上国と共に歩み、先進国とは対立しない程度に付き合えればいいと発想を切り替え始めている。

アメリカがEU・日米豪を味方につけて中国を包囲したとしても、屈服させるのはもはや現実的ではない。

国際分業・生産ネットワークの構築が急速に進んだ世界の対外直接投資残高は、1990年と比べて約14倍にまで拡大(2018年時点で)した。また世界のGDPに対する貿易の比率も2019年には45.2%と膨らんでいる。これをけん引してきたのは中国である。

この段階で突然ネットワークを組み替えろと言われても簡単ではない。コロナ禍の初期、日本の薬局の商品棚からマスクと消毒薬が消えただけで消費者がどれほどパニックに陥ったかを思い出すまでもない話だ。

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こうしたなか中国が打ち出す「対立ではなく発展」には一定の神通力がある。コロナ禍の上にインフレのダメージに苦しむ世界ならばなおのことだ。

だが、もしアメリカが自国に不利な流れを一気に挽回しようとすれば、方法はある。中国に台湾への武力行使を決断させることだ。そのためには徹底的に挑発し続けることだが、そこで利用されるのは台湾内部の独立派と日本である。日本人はそろそろその立場を自覚しなければならない。そのとき戦場になるのはアメリカではなく台湾と日本だということを。この戦いは、最後にどちらが優勢で終わろうと日本だけは無事ではすまない。

岸田首相がNATOに呼ばれ舞い上がって──といってもどの映像や写真を見てもどこかの首脳と楽しげに話し込む姿などなかったのだが──帰国した直後、ロシアは日本企業が絡む天然ガスプロジェクト「サハリン2」で驚きの大統領令を発した。事業主体をロシア企業に変更するというのだ。このニュースはこれまで一方的に制裁する側であった日本が、守勢に回ったことを示す象徴的な意味を持つような気がしてならない。

中国も同時に動いた。長年米中貿易摩擦の緩衝材となってきたボーイング機の爆買いから手を引き、エアバスに切り替えたのだ。これほど思い切ったことをするのであれば、早晩日本にもアクションがあるだろう。

アメリカの手先にしか見えない日本の動きには、東南アジアの国からも苦言が飛んでいた。シンガポールのリー・シェンロン首相からは「歴史問題を見直せ」という批判が。マレーシアのマハティール元首相からは「ASEANに対立はいらない」という苦言だ。これが世界から見えている日本の姿だ。

日本はいま、「あの時にブレーキをかけておくべきだった」という歴史のポイントに立っているように思えてならない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月3日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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