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就任2か月で叩かれ出した尹錫悦。早くも文在寅と同じ“大統領病”か

前政権の汚点を払拭すべく期待されていた韓国の尹錫悦大統領。しかし、すでに暗雲が立ち込めている様子が見られます。今回のメルマガ『キムチパワー』では、韓国在住歴30年を超える日本人著者が、尹錫悦大統領が発足2か月で叩かれることになった原因について語っています。

強く雄々しくあれ、しかし傲慢にはなるな

尹錫悦(ユン・ソンニョル)の人事が政権の足を引っ張っている。過去に不正の明確な人間を次々と人事候補にあげ、叩かれている。彼と昔友人関係だったとか、司法修習生時代の同期だったとかいう理由でなんとか大臣に任命しようとしているのだ。

たとえば過去に飲酒運転で罰をうけたことのある女性を教育部長官に任命しようとしたり(1度の飲酒運転摘発で校長職を辞めさせられたり、年金ストップになったりする教師があまたいることを付記しておく)。

これでは文政権時代と何がちがうのかと誰しもが考える。しかし7月5日の毎朝恒例の庁舎入口での記者らへの声掛けで、「文政権時代に長官に指名された人間で素晴らしいという者がいたか?」という言葉を投げ、物議をかもしている。

確かに文の人事はくそのようなものだった。しかし新大統領が心の中だけで思うのではなく大向こうを相手に「口に出して」言う内容なのか、これが。

こんなことでは先が思いやられるが、きょう、朝鮮日報の筆者の好む「金大中コラム」に尹に期待しながらもシッタもいとわない文章が出ていた。ご紹介したい。以下がそれ。

尹錫悦政権は成功できるだろうか。発足して2か月余りの政権に向けて、このような性急な質問を投げかけるのは、今の韓国の状況がそれだけ切迫しているためだ。

世界的な経済危機の中、そして前政権の無責任で無分別な政策乱調の結果、韓国は経済3高(高物価・高金利・高為替レート)の泥沼に陥っている。貿易収支にも赤信号が灯った。

「初心者」大統領の尹錫悦は政治家出身ではない。経済を扱った経験もない。検察以外には人脈もない。一言で「準備された大統領」ではない。

この不吉な組み合わせがこの厳しい危機をどう克服できるのか。これは単に左右の理念的対峙や与野党政治ゲームの次元を越え、国民の安寧と国の存立という命題と密接に関係している。

彼の出発は豪気(剛毅でも可)である。彼の生まれ持った個人的気質でもあるが、彼はたくましく出発している。何よりも文在寅政権が壊した対北朝鮮安保と国防、そして大韓民国のアイデンティティを元の位置に戻そうとする意志と試みがそうだ。

尹大統領の国際舞台進出は、国民の心配とは裏腹に円満に行われている印象がある。なんの猶予期間も経ずして直ちに米国の中心のブロックに突進することが性急に見えたが、前任の親中・親北朝鮮路線を払拭するのには十分に寄与している。

しかし、豪気という言葉には「威張る」という意味もある。人々は彼がたくましいあまり、ひょっとして偉ぶる人間になるのではないかと警戒心を持ってみている。一部の世論調査の結果も彼に好意的ではない。

就任して2か月余りの大統領に与える点数としては非常に厳しい(新任の時期は誰でも点数は高く出るものなのにだ)。関係者たちはその原因を人事と経済に置いているが、これは尹錫悦が後々までぶつかるべき左派攻勢の始まりと見るのが正しいだろう。

すでに民主労総の大規模デモで始まった左派の攻勢は、今後尹政府を絶えず苦しめ、この社会をさらに無秩序に追い込むだろう。

新任大統領に許されるといういわゆる「大統領のハネムーン」期間はすでに終わっている。今や彼の前には目まぐるしい「反対」だけが積もっていくだろう。彼の保護膜は保守・右派層だが、彼らさえ経済の乱脈と破綻に振り回されることになれば、彼の友軍は大幅に減ることもありうる。

誰かがこんなことを言った。「大統領というのは、空軍1号機に乗って海外訪問する時と、軍隊を査閲する時に、俗に“ブーン”と浮上する(大統領として大満足の気分になれる)」と。

わたしはそれにもう一つ付け足してやりたい。それは人事だ。大統領は人事で権力を満喫することになる(思いのままに人事すること)。このようなことを称していわゆる「大統領病」と言ったんじゃないのか。

大統領は「大統領」に酔ってはならない。私たちは歴代大統領とその夫人たちが大統領病にかかって演出した寸劇をよく見てきた。

尹大統領はこれ以上大統領を楽しむ時間も、それに酔っている余裕もない。もうゴシップや写真でニュースを飾るのはやめてほしい。

ある論評者が「時間は尹大統領の味方だ」と言ったというが、私はそう思わない。時間が経つにつれてミスは多くなり、尹大統領のイメージは薄れ、彼の反対者たちはさらに猛威を振るうだろう。権力とはそういうものだ。

今から気を引き締めずに「大統領」を楽しむことに現(うつつ)を抜かすことになれば、彼に期待していた韓国政治のアップグレードは再び座礁するだろう。

尹大統領はまた、「わたしは失うものはない」という覚悟で臨まなければならない。国民は、人生で一瞬もその位置を夢見たことのない人にその座を任せた。

それだけに彼は失うものは何もない。基本に忠実にやるだけでも「上出来」という姿勢で臨めばいい。

人気にこだわる必要もない。ムン元大統領が世の中を見下し、ムンをして傲慢にさせたのは「世論調査支持率40%」だった。民主党の政権獲得を5年で台無しにしたのも「国会議席180」だった。

数字は人を傲慢にさせる。むしろ「人気のない大統領」を覚悟すれば、この社会の根本的な病的要因と対処することに力が注がれるだろう。

そのために尹大統領は万機親覧(=王様が国政の全てを親密に考慮する)するより、選択と集中の道を進んでほしい。彼は今自分が世の中を変えることができるという自信に陥っているのかもしれない。

しかし、世の中はそんなに簡単でも、容易でも、甘くもない。それなら、世界中のことに手をつけようとするより、必ずしなければならないことを選択し、それに集中して力を注ぐのがより効果的だろう。

その「仕事」がまさに「民生」であり、経済だ。民生が険悪になれば、これまで見せてくれたすべての「尹大統領らしさ」は、一場の春夢(いちじょうのしゅんむ=儚い夢)に転落してしまうだろう。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年7月6日号)

image by: 尹錫悦 - Home | Facebook

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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