あなたの中にいま、なんらかの不安はありますか?人間生きていれば必ずどこかで大なり小なりの不安な気持ちを抱える事があると思います。今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では著者で心理学者の富田隆さんが、マスメディアと不安、そしてロシアのダーチャを例に挙げて、「不安」についてのお話を語っています。
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ロシアの「ダーチャ」と核シェルター
人間、生きている限り、何らかの「不安」を抱え続ける宿命を背負っています。あらゆる「不安」が消えて無くなるなどということは、お釈迦様のような「悟り」の境地に至らぬ限り不可能なのかもしれません。
一方で、私たちが抱えている「不安」のかなりの部分は、マスメディアが創り出した「幻影」でもあるのです。
1950年代のアメリカでは、多くの人たちが「明日にでもソ連の核ミサイルが飛んで来るかもしれない」と本気で心配していました。郊外に一軒家を構える、少し裕福な人たちは、庭に自家用の「核シェルター」を造ることに夢中になりました。
しかし、もし実際にソ連のICBMが核爆弾を炸裂させていたら、アメリカ人たちが庭に造っていた核シェルターの99%は役に立たなかったでしょう。
彼らがなぜ「役に立たない無駄な出費」をさせられてしまったかと言えば、彼らは核爆弾による被害の実態を知らなかったからです。
マスコミが伝える「ソ連の脅威」により、慢性的な不安を抱えてはいたものの、広島や長崎における核被害の実態を知る者はほとんどいませんでした。
もちろん、核被害の実態を知ることは恐ろしいことです。眼を背けたくなるのも当然ですが、勇気をもって現実を直視することで、私たちは、「正しく恐れる」ことができるようになります。
恐怖の対象の実像に近づくことで、マスコミの「幻影」に踊らされ、右往左往することはなくなるのです。少なくとも、ピント外れで無駄な行動は避けるようになります。
私たち個人の能力やエネルギーは有限ですから、バカなことに夢中になることを避けられれば、不安への有効な「対処法」に費やすことのできるエネルギーは増えるのです。
今現在は「対処法」が見つからなかったとしても、ちょっとした幸運で思いもよらぬ解決策に出会えるかもしれません。
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たとえ抜本的な解決策が見つからなかった場合でも、自分のエネルギーを少しでも自身が「良い」と思えることに使えば、それだけで不安は和らぎ、ひょっとするとそうした行動が将来役に立つかもしれません。
かつて帝政ロシアでは、モスクワなど都市の近郊に「ダーチャ」と呼ばれる別荘を持つことが流行しました。貴族が所有する豪華な建物もありましたが、庶民のダーチャは質素な建物で、何人かで共同所有する場合もあったそうです。
そして、このダーチャには「農園」が付いているのが特徴です。週末になると、人々はダーチャに出かけ、自給自足的な別荘生活を楽しんでいました。別荘コミュニティーを通した「ダーチャ文化」が花開いたのです。
革命後、ソ連の時代になると、ダーチャは接収され国家の共有物となりましたが、政府は、これを取り壊したりせず、国営で管理し、国民の保養施設として活用しました。
その結果「ダーチャ文化」はソ連時代にも引き継がれ、1991年のソ連崩壊後には、再び国民の間で「週末はダーチャで過ごす」というライフスタイルが拡がることになったのです。
現在のロシアでは、全国の3分の1の世帯が「菜園付きのダーチャ」を所有しています。
ソ連崩壊後のロシアには米国などの資本家がハゲタカのように群がり、経済はハイパーインフレに見舞われましたが、紙幣が紙屑になる状況でも庶民が生き延びることのできた理由のひとつが、このダーチャの存在だったと言われています。
それぞれのダーチャで収穫された作物は、貨幣を必要としない物々交換的な経済の中で消費されました。こうした経済システム?において、インフレは力を失います。
つまり、「何が役に立つか分からない」というのは、こういうことです。
自分が「良い」と思ったこと(できるなら愛する人たちにとっても「良いこと」)にエネルギーを注ぐことが、思わぬ打開策を生むのです。
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そのためには、自分自身という存在が、とてつもなく「希少性」に富んだものであることを自覚する必要があるでしょう。
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