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なぜ、ビルの4階にある「浅草横丁」が強烈な集客力を誇っているのか?

ここ数年のブームとなっている、横丁スタイルの飲食店街。立地としては路面が半ば常識でしたが、ビルの4階にありながら売上が計画の2倍で推移しているという大繁盛横丁が話題となっています。その成功の秘訣を探るのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、7月にオープンした「浅草横丁」にここまでの活況をもたらした運営会社によるとある企画と、プロデュースを担当した企業が取ったビル空中階というハンデの解決策を紹介。さらに自身が繰り返し浅草横丁を訪ね感じ取った、これからの商売にとって重要となるであろう戦略を記しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

売上が計画の2倍で推移している「浅草横町」に秘められたSNS集客作戦

7月1日、東京・浅草に「食と祭りの殿堂 浅草横町」(以下、浅草横丁)という“横丁”がオープンした。場所は浅草寺の近く、ドン・キホーテの向かいの東京楽天地浅草ビルという商業施設の4階。不特定多数のお客を集める“横丁”の立地は路面がベストで空中階は難しいとされていたが、ここがいま多くのお客でにぎわっている。

ここに集まる客層は“老若男女”ではない、ずばり20代から30代半ばで、MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)と呼ばれている層だ。だからこのフロアには活気が感じられる。浅草にお客が戻ってきたとされているが、この“ビル4階の横丁”の活気は年齢層が若いだけに格別のものがある。

1フロアの敷地面積が約330坪(一般的なファミリーレストランの3倍強の広さ)、ここに7つの飲食店と着物レンタル1店舗が営業している。7つの飲食店は以下のようになっている。うな串「いづも」34席、大衆食堂「ロッキーカナイ」97席、韓国料理「ハンマート」80席、すし「浅草すし」27席、焼き鳥「ユラユラ」63席、ホルモン「ホルモン ペペ」84席。現状、売上上位店舗は、1位いづも、2位ロッキーカナイ、3位ハンマートとなっている。

フロアの中が飲食店7、着物レンタル1で構成されている。着物レンタルがあることで浅草横町の利用動機が広がる

売上3位となっている韓流の店。いまや韓流の店はレストラン複合の中に欠かせない存在

ここの月商計画は3,000万円だが、営業開始して3週間を経た段階で6,000万円のペースで推移している。いかにしてこのような活況がもたらされているのだろうか。

「浅草ラブ」をアピールしてもらう

浅草横町を運営するのはHi-STAND(本社/東京都品川区、代表/戸田博章)。戸田氏はバーテンダーから転じて飲食業や飲食業プロデュースを行うスパイスワークスホールディングス(SWHD、後述)の前身に入社して、店舗運営からブランドマネージャーを歴任。2012年に独立し、2014年に会社を設立した。現在、飲食店19店舗、180人の従業員を率いている。

戸田氏が“ビルの4階にある横丁”の集客対策として考えたことは「TikTok、YouTubeでバズらせること」であった。戸田氏はこう語る。

「新しくできた施設がテレビで紹介されると40代50代の人がやってきます。しかし、MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)といわれる20代から30代半ばの世代はTikTokとYouTubeから情報を得ている。そこでここでバズると『この風景と同化したい』ということで、そこに行く動機が強烈に高まる」

戸田氏は1981年1月生まれでいま41歳だが、ライフスタイルや考え方はMZ世代そのもの。このような意識をもって若い従業員を束ねている。この度浅草横町を運営することになって、「是非やってみたい企画」に取り組んだ。

「それは『浅草横町のアンバサダー募集』。オープンが7月1日で、その1カ月前の6月1日から8月31日まで『#浅草横町』『#浅草』の投稿をしてもらい、『どれくらい浅草ラブなのか』をアピールしてもらう。最初400人くらいのインフルエンサーから100人に絞りバズらせる。最終的に5人に絞る。このように、ここと浅草をバズらせることによって“横丁”が4階にあっても集客できるのではないかと思っていた」

この試みは思いのほか強烈な集客力をもたらしているようだ。それが月商計画に対して2倍のレベルで推移している状況に表れている。現在、食材のストックから人員配置に至るまで予想外のことが起きていることから、運営者としてはオペレーションを鍛える絶好の機会をもたらされた。

4階のお祭りがビルの中から外を巡る

浅草横町をプロデュースしたのは戸田氏の前職であるSWHD(本社/東京都台東区、代表/下遠野亘)。約100店舗の飲食店を運営するほか、飲食店の内装設計及び商業施設の環境デザイン、宿泊施設の運営、商業施設の企画プロデュースを事業としている。代表の下遠野氏は「飲食」に関わるトータルプロデュースが評判を呼び多方面で活躍している。

同社に東京楽天地から相談があったのは3年前のこと。同社では東京楽天地のグループ理念「東京下町の大衆に健全な娯楽を提供する」ということに大いに共感して、何とか具体化したいと考えた。しかしながら、物件が“ビルの4階”ということで大いに悩んだ。

そして。その解決策として打ち出したことは、「ビルの中と外の街が一体化すること」であった。下遠野氏はこう語る。

「日本の商業施設はこれまで外の空気を遮断して、一つのビルで完結していた。しかし、商業施設は街と一体化する必要がある。4階にある“ビル中横丁”でお祭りをテーマにするのであれば、そのお祭りはビルの全体を練り歩き、ビルの外にあふれ出すような感じで打ち出していかないと」

壁も天井の至る所が“お祭り気分”でにぎやかになっていて飽きさせない

実際に浅草横町ではこのように下遠野氏がイメージする通りのことを実践している。7月1日のオープニングの時は、浅草サンバカーニバルが浅草横町から下の階にあるユニクロを巡って浅草の街の中を踊り巡った。その後は、よさこい、阿波踊り、エイサーなどが巡っている。

フロアの中にメインステージがあり定期的にイベントが行われ、踊りは下の階から外の街へと踊り巡る

このビルにはファサードが国際通り方面と浅草寺側と二つあるが、エレベーターがある浅草寺側のファサードが浅草横町をアピールするものになっている。1、2階を占めるユニクロも浅草オリジナルの店になっている。こうしてビルは浅草横町と一体化している。

店舗の中央部にエスカレーターがあって、ここが吹き抜け構造となっていて混雑していても窮屈な印象を与えない

新規客に町場のホスピタリティで対応

戸田氏はSWHDのグループ会社である「ファミリーのれん会」の一員。ここは24社で構成されていて、そのうちの3分の1はSWHDのOBで構成されている。SWHDとファミリーのれん会のお互いがお互いの株を持ち合っている。筆者の私見であるが、SWHDとファミリーのれん会は師弟関係であり、リスペクトし合う中で結束を深めている。

戸田氏はファミリーのれん会の中でリーダー的な存在とのこと。SWHDにとって、浅草横町のプロジェクトはファミリーのれん会を育成していく上で絶好の機会といえるのではないか。そして浅草横町運営の任を受けた戸田氏は、自らが考える「これからの集客と繁盛経営の在り方」をトライしていくことになる。オープン丸1カ月が経過して、浅草横町の動向にしついて戸田氏はこう語る。

「お客様のほとんどが『流動的新規客』。店の利用の仕方は、一杯飲んで定番のメニューを食べて、ほかの店を巡るというパターン。自分の肌感覚で1.8店舗を回っているようだ。ここでのホスピタリティを町場で営業しているものと同じレベルで維持していかなければならないと考えている」

筆者は浅草横町の開業エピソードを知った上で、ここに集まる人々を見ていると何かアイデアがわくのではないかと思い5回訪ねた。そこで見聞し感じたことは以下のとおり。

まず、50代以上の人はほとんどいない。20代から30代半ばまでが主流。薄汚れた服装は皆無。女子のお化粧が完璧。着物を着ている女子が1割程度(それに混じった男子の和装もちらほら)。ここの主流の客層がこれからの消費の世界を支えていくのだろう。ターゲットに向けた情報発信こそこれからの商売にとって重要である。

客層は20代から35歳までがほとんど。みなおしゃれな服装で華やかなイメージがある

image by: 千葉哲幸
協力:Hi-STAND , SWHD

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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