今や利用していない個人を見つけるほうが困難とも言えるほど、広く普及を果たした各種SNS。しかし、ひとたびいじめや誹謗中傷のツールとして使われてしまえば、被害者のダメージは計り知れないほど大きなものとなり、問題解決も困難を極めることとなってしまいます。そんなSNSによるいじめを取り上げているのは、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんはメルマガ『伝説の探偵』で今回、都内在住の女子高生が襲われたSNSいじめの一部始終を紹介するとともに、いじめや誹謗中傷解決に後ろ向きな通信事業者と国の姿勢を強く批判しています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。)
この記事の著者・阿部泰尚さんのメルマガ
注意したい夏休みの「SNSいじめ」都内在住Sさんのケース
学生は夏休みの期間になる。
この時期、最も増えるのが「SNSいじめ」の相談である。
SNSといっても、様々な種類があって、それぞれその特徴が異なるから、各対策は舞台となるSNSによって対応策が異なる。
また、広くこうした相談や対策、調査をしていても、新手のSNSが出てくるもので、その都度対応策を講じなければならなくなる。まさに、イタチごっこの世界なのだ。
例えば、ゼンリーというアプリをご存じの方はいるだろうか?
これを使うと、友達登録されたメンバーに居場所を通知することになる。アプリは全て便利であり、コミュニケーションインフラとして有効だが、いじめに使われると、逃げられないものになってしまう。
私は実際に相談を受けるまで、こうしたアプリがある事を知らなかったから、相談を受けてから使ってみて機能を知り、研究して、被害状況と照らし合わせていくことになる。
都内在住のSさんのケース
都内在住の高校1年生Sさんは、Instagramをごく平均的に使っていた。時折、写真を投稿し、友人らの投稿をサラッと見る程度。
夏休みに入る直前、出身の中学校が同じ女子生徒に、Instagramのメッセージを晒された。
その内容は、たわいもないものであったが、「暑くてだるい。。。」というメッセージを、加工されて「〇×、だるい。。。」というように人に対するメッセージに書き換えられていた。
こうした編集は実に簡単であり、加工アプリを使えばだれでも本物と見分けがつかないように作成することができる。
ショックを受けたSさんは、すぐにこのやり取りをした相手に抗議をしたが、その時点で、すでにこうした加工されたメッセージは拡散状態にあり、LINEで質問を受けたり、Sさんのインスタの投稿のコメントに質問をしてくる人物も現れるようになってしまった。
Sさんは、これに反応して、「私はこんなメッセージは送っていない」と実際のやり取りをスクリーンショットして対応したが、「それこそ加工してるんじゃない?」などの辛辣なコメントすらあった。
警察に相談し、削除の申請をしたり、こうしたメッセージや投稿などを記録したりしたが、対応してやり取りをすれば、これがまた晒されるという状態も続いた。
学校に至っては、SさんのSNSの運用方法を確認するに留まり、反応しないようにという指導しかしなかった。
結局、Sさんは、アカウントに鍵をつけるなどの対応をしたが、それ自体は、ほとんど意味はなかった。
私が相談を受けたとき、Sさんは酷く消沈している状態であり、話をするのも苦しそうな状態であった。特に、信頼していた友人に私信のメッセージを他に渡され、それが加工されるという卑怯なやり方に怒りと悲しみを感じているようであった。
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また、メッセージを渡してしまった友人は、連絡が取れない状態になっていたが、事情を改めて質問をすると、まさかこんなことに使われるとは思わず、メッセージ自体のスクショを頼まれるままに、共通の友人のYに渡してしまったと話していた。
この友人自体も、自分のしたことでSさんとの信頼関係が崩壊し、Yに抗議をしても、それ自体が晒されることへの恐怖があり、葛藤して思い悩んでいた。
この友人の母親にも許可を取る関係で、話を聞いたが、一度、「消えてしまいたい」といって、大量の風邪薬を飲もうとしたと話していた。真相は定かではないが、毎日泣いていて、部屋に閉じこもり、精神的におかしくなっているとも話していた。
これは事実であろう。実際に会うと、顔が腫れあがって、泣いていたというのは確信できた。
また、全アカウントなど、スマホの中にあったアプリを消してしまっているとのことで、データが残っていないとのことであった。
詳しく聞けば、その友人はYに抗議をした際、脅されてアカウントを消すように指示され、これに応じてしまったということであった。
しかし、実際に会って、スマホを見たところ、アカウントを削除したわけではなく、一時停止にしたに過ぎなかった。そのため再度ログインして、元に戻すだけで、全てのデータは元に戻ったのである。
FacebookやTwitterでは猶予期間があるため、削除したとしても再度ログインすれば復活できる期間がある。一方、Instagramは猶予期間がない。削除するとすべて消えてしまう。
しかし、こうしたものは簡単に変更されてしまうため、翌月にはTwitterが消したら復活できなくなる設定になることもある。こうした情報は常にアップデートが必要なのだ。
ここで記録を取り、その友人の意向で、本件終了後速やかにアカウントを削除することにして、私は学校と話をした。
Sさん本人と保護者、私と学校側は生活指導主任と担任の話となり、短期間で不特定多数から攻撃を受ける誹謗中傷の状態の事態の深刻さと心のダメージの深刻さを説明すると、学校にできることとして、個別の指導に応じてくれることになった。
個別の指導とは、こうした加工メッセージについて介入したり、質問をしてきた生徒らを呼び出すなどして、こうした行為の中止と謝罪を指導していくというものであった。
指導はかなり有効であり、その日から謝罪の連絡や不穏な投稿の自主削除が次々にあった。
また、Yについては保護者同伴で学校から説明を受け、Sさんへの謝罪をするということで、この問題は終結することになった。
一見、Sさんは日常を取り戻しているかのように見えるが、心のダメージは深刻であり、表面上の解消に至っても、以前のような心の持ちようにはなれないと話してくれた。
それも当然だろう。謝罪を受けたところで、心が晴れやかになるということはない。
しかし、Sさん自身、サッサとけりをつけたい気持ちが勝っていたから、表面的な解消の道を選んだに過ぎないのだ。
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SNSはコミュニケーションインフラといえる
現代社会において、SNSはコミュニケーションインフラと言える。コロナ禍ということもあって、人との接触という関係は変化し続けているのだ。
一方、こうしたインフラは悪意の手の下では、いかようにも悪用が可能だ。
全く非がない状態でも、他者に悪用されれば、煙も立てられれば、何かの犯人に仕立て上げられてしまうこともできる。
つまり、自己責任論では全く防止ができない関係が成立する。
兎角、こうしたSNSいじめなどの問題を取り上げると、どう防止すればばよいか、ユーザー側にできることはないかという展開を求められるが、防止のしようはなく、全ての対策は、悪用を前提とした行為者には全くの無効なのだ。
そして、前提に戻って「コミュニケーションツール」ではなく、「ほぼインフラ」の状態であると仮定すると、これを担う事業者に対する責任は、あまりにも軽いことがわかる。
各法令を見ても、事業者はほぼ免責される特権があり、何かが起きても責任を負うことはない。確かに、悪用するユーザーを未然に把握することは困難であり、プログラムを巡回させて不正を見つけるのも誤削除や表現の自由や言論の自由への問題も生じ得るだろう。
しかし、いじめ問題でみれば、大半のいじめで、SNSは大なり小なり利用されており、前述のSさんは事業者側に何度も通報したが、全く削除されることが無かったことからすれば、事業者が用意する対策と効果はあまりに貧弱としか言いようがない。
一方、法令についても、プロレスラーの木村花さん事件のような衝撃的な事件があって、法令が強化されたとニュースになっていても、ほとんど機能していないとしか言いようがない。現場レベルでは、よくわからない世界のトラブル程度にみていたり、嫌ならやめたらいいという意識が強く働いているように感じる。
まともに動いていないと批判すれば、対応する行政などの人材の問題や数の問題を盾にされるが、それは甘えでしかない。
誹謗中傷、SNSいじめについては再度国会でも話し合い、法令などを強化しても取りこぼしまくっている従前と何ら変わらない問題を一刻早く前に進ませるようにするべきだろう。
事業者の利益のために甘いザル法を置き、対応するはずの行政やその機関は忙しさと知識と技術不足を盾に国民に甘えることを常として、悪用する卑怯者を放置し、弱者が苦しむことを自己責任論で放置していると見えるのが、現場から見える風景だ。
編集後記
私も誹謗中傷に晒されることがあります。
その中には、複雑な罠があって、善意の心で信頼をして相談を受けたのに、騙されて、誹謗中傷の種にされるというものもあります。
ですから、こうした被害者の気持ちや、その時その時点での細かな不満や心の葛藤は、実体験からよくわかります。
これは実体験をしてみて初めて分かることですが、相談を受けることに慣れていると自覚していても、これまでの対応に反省するところが多くありました。
そして、特にSNSや誹謗中傷の類は、法も組織もほぼ機能していないということがわかりますし、法手続きは未だに高額であることは変わりない事実ですから、何を改善したのか、全く変わってないのが、現場で起きていることです。
仮に、もしも、誰かの命がこれで奪われたら、誰が責任を取るのでしょう。きっと誰も責任を取りません。
もしも、今、SNSいじめや誹謗中傷で苦しんでいる人がいたら、1つ理解してもらいたいです。抗議の自死も、自傷も、自分が傷つき、自分を本当に大事に思ってくれる人が悲しむだけで、問題の本質にはたどり着くことは極めて困難です。
だから提案です。私と共に戦いませんか?
私の実績や真骨頂は、私を知る人物に聞けば、面白く語ってくれるはずです。
よければ、お電話ください。
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