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日本人が知らない、中国と台湾の関係をあらわす「統戦」と「前線」

台湾と中国の関係は現在、先日のペロシ下院議長の台湾電撃訪問によって「緊迫した状態」になっています。中国出身で日本在住の作家として活動する黄文葦さんは今回、自身のメルマガ『黄文葦の日中楽話』の中で、中国と台湾の関係を、幼少期によく聞いたという2つのキーワードを用いて分析しています。

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台湾問題で、思い出した言葉は「前線」と「統戦」

周知のように、8月にペロシ米下院議長の台湾訪問によって、中国とアメリカ・台湾の間に、火花が散るように緊迫したものになった。今回、「前線」と「統戦」、二つのキーワードで中国と台湾の関係を分析したい。

日本で暮らしているから、よく「故郷はどこですか」と聞かれる。「福建省です」と答えると、知らない人がいる。「台湾の向こう側の福建省です」と言ったら、相手はすぐわかってくれた。日本人にとっては、台湾はやはり親しい存在である。そして、台湾と海峡を挟んだ福建省は、台湾との類似点が多い。地方言語、料理、生活習慣など似ている。文化・伝統などの絆が強靭である。しかし、政治的な原因で、福建省はその地理位置によって、長い期間、「福建前線」と呼ばれていた。

「前線」と「統戦」という言葉は日本人にはあまり聞きなれないと思われる。当方にとっては、子供の頃よく聞いていた言葉であった。中国と台湾の関係の中で、重要なキーワードである。

日本では、さくら前線、梅雨前線、紅葉前線など自然にかかわることぐらいの「前線」をつけるけれど、中国では、前線の本来の意味で「戦場で敵に直接向かい合っている所。戦闘の第一線」と知られていた。「台湾の向こう側の福建省」は戦闘の第一線になっていた。「福建前線」と呼ばれていた。「一定要解放台湾」(私たちは必ず台湾を解放します)のスローガンがどこにでもあった。

そして、現在、台湾の向こう側の福建では再び「前線」の雰囲気が醸されている。観光地のアモイを水陸両用装甲車が海岸を列なして走り、観光客を驚かせた。中国軍で台湾などを管轄する東部戦区は8月4日午後、陸軍部隊が台湾海峡で長距離実弾射撃訓練を行い、予想通りの成果を上げたと発表した。中国軍はこの日から、台湾の周囲6エリアでも軍事演習をすると予告した。

「東部戦区」など戦争の匂いのする言葉がマスコミに使われている。そして、福建を再び前線になるのではないか、と心配しなくてはならない。福建省と台湾の民衆には血縁のつながりが密接であるため、故郷の親友は、もし戦争に巻き込まれたら、どうしよう、と心配している。

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もう一つのキーボードの「統戦」は統一戦線の略語である。共産党政権がよく使う独特な言葉である。例えば中国における「国共合作」(「抗日民族統一戦線」)。中国ネット上の統一戦線について、以下の通りの説明があった。

「広義の統一戦線は、一定の共通目標のために、異なる社会的・政治的勢力が政治的に同盟・連合することを指し、狭義には、プロレタリアートとその党の戦略、主としてプロレタリアート自身の統一と同盟の問題を指している。統一戦線は、中国の革命、建設、改革のすべての時期において、中国共産党の主要な戦略であった」。

勿論、台湾はずっと中国の統一戦線の対象である。しかし、「統戦」のカタチもいろいろある。昔は大陸と台湾、互いにラジオを使って、自らの政策を宣伝していた。「福建前線広播電台」というラジオ局もあった。放送した内容を聞けば、両者の敵対関係が明らかになっていたとわかった。

それ以外に、面白い宣伝方法もあった。海辺に住んでいる知人が、台湾の金門からの大型風船を拾ったことがある。風船の中に、なんと、三民主義のチラシとビスケットがあった。知人が大喜び、それからずっと台湾の風船を待っているという。大陸から台湾金門に送った風船もあった。中身はなんだろうか、知らなかった。共産主義のチラシがあったのだろう。

小さい頃、当方はこっそりと台湾のラジオを聞いていた。バラエティー番組みたい。女性キャスターの風格は笑顔がなく態度が謹厳である中国のキャスターと全然違って、楽しそうに気軽に日常茶飯事とエンタメのことをしゃべる。番組の中で、よく笑ったりしていた。とても親近感を覚えた。当方は台湾に憧れを持つようになった。今思えば、優しさと柔軟さは一番いい「統戦」だろう。

不思議なことに、30年経っても、あのキャスターはまだ同じ番組のキャスターを務めている。偶然にも、数年前、当方はその方とフェイスブックで連絡を取る機会があった。

台湾と福建、今もお互いに風船を送ればいいと思う。アメリカの政治家が台湾を訪問する一方で、大陸は台湾をミサイルで囲み、台湾の農産物輸入を制限し始め、実際に被害を受けるのは台湾海峡の両岸の民衆である。

「前線」になったせいで、福建省の経済発展は上海、広東など地域よりずいぶん遅かった。近年やっと経済が進んできた。故郷が「前線」に戻らないように祈念せずにいられない。

(『黄文葦の日中楽話』2022年8月15日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Shutterstock.com

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在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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【著者】 黄文葦 【月額】 ¥330/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 第1月曜日・第3月曜日(年末年始を除く) 発行予定

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