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経済制裁どこ吹く風。世界の石油市場を支配するプーチンの恐ろしさ

プーチン大統領のウクライナ侵攻という蛮行を受け、西側諸国が返り血覚悟で科し続けている厳しい経済制裁。しかしロシア経済は一向に破綻する様子が見られません。なぜ彼らはここまで持ちこたえることが可能なのでしょうか。今回のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では元国税調査官で作家の大村大次郎さんが、その理由のひとつとしてロシアとサウジアラビアが主導するOPECプラスの存在を挙げ、この組織の実態を詳しく紹介。さらに石油の輸入に関する限り、アメリカ以外はOPECプラスに逆らえないという厳しい現実を記しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2022年8月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

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プーチンは世界の石油市場を支配している

ご存じのように2022年2月24日、ロシアが隣国ウクライナへの侵攻を開始しました。ウクライナがNATOに加盟申請することに、ロシアは強硬に反発しており、実力行使に出たのです。世界がまだ新型コロナによるダメージから抜け出せていない中で、世界経済はさらにダメージを受けることになりました。

ウクライナ侵攻が始まると、NATOなどの欧米諸国は、ロシアに厳しい経済制裁を科しました。そうすることで、ロシア経済を破綻に追い込み、ロシア内部からウクライナ侵攻を止めさせようというわけです。

アメリカを中心とする西側諸国はロシアからの石油、天然ガスなどの輸入を縮小し、ロシアに進出している企業などが相次いで営業停止や撤退を決定しました。またロシアの中央銀行や高官などがアメリカやその同盟国に置いている資産を凍結しました。

この資産凍結というのは、国際貿易を行う上で非常に強力な影響を持っています。世界の国々は貿易の決済を行うために、他国の銀行などに外貨などを置いているものです。特にアメリカには、多額の外貨が置かれています。その外貨などが使えなくなってしまうので、貿易が非常にやりにくくなってしまうのです。

戦前の日本は、アメリカからこの資産凍結をされてしまったために、開戦を決断したほどです。ロシアは、6,000億ドル(約80兆円)ほどの外貨を持っていたのですが、この資産凍結のためにその半分以上が使えなくなったと見られています。これらの経済制裁により、ロシア経済はすぐに崩壊するのではないかと予測する専門家なども多数いました。が、案に反し、ロシア経済は、持ちこたえています。

経済制裁が発動された当初、ロシアの通貨であるルーブルは大幅に下落しました。それまで1ドル=80ルーブルほどの相場だったので、経済制裁発動後の3月7日には1ドル=150ルーブルにまで価値を下げたのです。ルーブルの価値は約半分になったわけです。が、ルーブルの為替相場はすぐに持ち直し、4月の半ばにはほぼ制裁前の水準に戻りました。

その大きな理由はロシア経済が意外に盤石だからです。ロシアは莫大な天然資源があり、広大な農地もあります。それは国内の需要を満たすだけではなく、世界中に輸出され、世界経済の一翼を担っています。もし経済制裁を受けても、最悪自給自足ができる国なのです。日本などは経済制裁を受ければ資源不足のためにすぐに干上がってしまいますが、ロシアはそういうことはないのです。ロシアはGDPの規模からいえば世界で11位であり、韓国よりも下です。が、GDPでは計れない国の地力の強さを持っているのです。

というより、ロシアは世界の石油市場を支配しているといってもいいほどの影響力を持っているのです。

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石油輸出シェアの大半を握るOPECプラスとは?

現在、世界の石油市場に大きな影響力を持つ組織として「OPECプラス」というものがあります。OPECプラスというのは、OPECにプラスして産油国数カ国が加わった組織です。OPECの拡大版というわけです。

このOPECプラスの主要メンバーは、サウジアラビアとロシアです。というより、OPECプラスは、サウジアラビアとロシアの結託によってつくられたものです。当然、両国がOPECプラスを主導しています。

OPECプラスの元の組織であるOPEC(石油輸出国機構)というのは、サウジアラビアなど中東の産油国を中心につくられた産油国のグループです。70年代にオイルショックを主導したことで知られています。世界の石油市場に大きな影響力を持ち、73年のオイルショックのときには、世界の原油生産量の51.5%を占めていました。だからこそ、オイルショックは世界に強烈なインパクトを与えたのです。

しかし、近年になって、OPECの影響力は大きく減じました。ロシアの原油生産量などが激増し、またアメリカでシェールオイルの生産が爆発的に増え、OPECのシェアが低下したのです。シェールオイルというのは、岩盤層から抽出して生成される石油のことです。以前は、コストが高く生産が難しかったのですが、2000年代に新しい技術が確立したのです。また石油の価格上昇により、コストが見合うようになり、世界の石油市場に大きなインパクトを与えました。

アメリカはシェールオイルの埋蔵量が非常に多く、この新しい技術により、石油生産が激増しました。その結果、2018年にはアメリカは世界一の石油生産国となりました。逆にOPECは、その存在価値が低下し、世界原油生産量の40%程度しか占められなくなったのです。

OPECとしては、どうにかしてかつてのような世界的な影響力を持ちたいと考えていました。OPECの加盟国は石油が国家収入の柱となっており、石油市場の動向は国家の存亡にも関わっていたからです。そんなときに、世界第3位の産油国であるロシアが、OPECの中心国であるサウジアラビアに歩み寄ってきたのです。

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ロシアとサウジアラビアが急接近する

ロシアとサウジアラビアは、昔から良好な関係だったわけではありません。近年、急激に接近した関係なのです。ロシアは、ソ連時代からイランと非常に良好な関係を持ってきましたが、サウジアラビアはイランと非常に仲が悪いのです。サウジアラビアはイスラム教のスンニ派の総本山であり、イランはイスラム教シーア派の総本山であるという宗教上の諍いもあります。

しかもサウジアラビアは第二次大戦後から一貫してアメリカの同盟国です。だからロシアとサウジアラビアは、これまであまり仲は良くなかったのです。

が、プーチン大統領は、サウジアラビアと積極的に交流を持とうとし、サウジアラビア側もそれに応えたのです。2017年10月には、サルマーン国王が、サウジアラビアの国王としては初めてロシアを訪問しています。このとき行われたプーチン大統領との首脳会談では、サウジアラビアは、ロシアからS-400防空システムを購入することになったとされています。アメリカの同盟国であるサウジアラビアがロシアから武器を購入するのは異例のことであり、ほかにはトルコしかいません。

また両国は、このときエネルギー、貿易などにおいても協定を結び、数十億ドルの共同投資にも合意したと見られています。ロシアが北極圏で行っている液化天然ガス開発「アークティック2LNGプロジェクト」にも、サウジアラビアは資金支援をする計画があります。

しかも2018年には、ロシアとサウジアラビアが結びつく重大な事が起きます。トルコのサウジアラビア領事館で、政府に批判的なサウジアラビア出身の記者ジャマル・カショギ氏が殺害され切断されるという事件が起きたのです。この事件をアメリカは重大視し、サウジアラビアの高官らに対して制裁措置を発令しました。またアメリカ政府は、皇太子への制裁はしなかったものの、皇太子が殺害に関与したことを報告書で発表しました。

もちろん、サウジアラビア側は、アメリカに猛反発し、両国の関係は急激に冷え込みました。しかしロシアは、この事件に対してほとんどアクションをしなかったので、サウジアラビアとしては外交的にロシアに依存する傾向が強くなってきたのです。

2019年6月には、サウジアラビアのムハンマド皇太子とプーチン大統領が、日本で行われたG20のときに、協調して石油の減産を行うことに合意しました。産油国にとって「石油の生産量を調整し価格を維持すること」は至上命題だったのです。

そして2019年7月、ロシアとOPECは、「OPECプラス」を恒久的な機構とすることを合意しました。「OPECプラス」というのは、前述しましたようにOPECと非OPECの主要産油国で形成されるいわば「産油国クラブ」のようなものです。

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が、このOPECプラスにはもう一つ大きな意味合いがあります。それは、「アメリカへの対抗」ということです。OPECプラスは、世界の主要産油国の集まりなのですが、世界最大の産油国であるアメリカは加盟していないのです。このOPECプラス全体の加盟国を見ると、アメリカ、カナダ、ノルウェーなどの西欧諸国以外のほとんどの産油国が参加しているということがわかります。つまりは、アメリカや西側諸国に対抗するという姿勢が明確に見えるのです。

またOPECプラスの中には、サウジアラビアとイランのような政治的、宗教的な対立を持つ関係もあります。そういう政治的な立場を乗り越えて、「自国の産油権益を守るために結束している」という関係なのです。

現在、世界一の産油国であるアメリカは、しかし、自国での石油消費も世界一です。そのため、石油の輸出量から輸入量を差し引いた純輸出量はそう大したものではありません。

アメリカの石油輸出量は、世界で5位であり、2位のロシアの半分の量にも満たないのです。またアメリカは、ガソリン価格の高騰を防ぎ自国の消費を賄うために石油輸出を禁止する可能性もあります。だから、世界の石油市場におけるアメリカ石油はそれほど大きな存在感はありません。

アメリカ以外の国が輸入している石油のほとんどは、OPECプラスによるものなのです。つまり、世界の石油市場の大半は、OPECプラスが握っているのです。

実際に日本も石油の90%程度をOPECプラスの国から輸入しています。同盟国アメリカからの輸入は微々たるものなのです。だから石油の輸入に関する限り、アメリカ以外の国は、OPECプラスには逆らえないのです。そして繰り返しますが、このOPECプラスを主導しているのがロシアとサウジアラビアなのです。

2021年石油輸出国ランキング

 

1位 サウジアラビア  1,595億ドル

2位 ロシア      1,411億ドル

3位 アラブ首長国連邦  906億ドル

4位 カナダ       819億ドル

5位 アメリカ      694億ドル

6位 イラク       532億ドル

7位 クウェート     460億ドル

8位 ノルウェー     370億ドル

9位 ナイジェリア    330億ドル

10位 ブラジル      306億ドル

 

UNCTADデータより

次回は、ロシアからの資源輸入を西側諸国が制限しても、ほかの国が買っているという事情などをご紹介したいと思います。

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