「貧困」といえば食べるものに困ってやせ細るイメージですが、国そのものが豊かな先進国の場合は、「貧困」は「肥満」へのルートのようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、医師で糖質制限食の提唱者である江部康二先生が、共同通信に掲載された「年収が少ない女性ほど肥満リスクが大きくなる」というデータに注目。なぜそうなるかは、スーパーやコンビニに並ぶ食べ物を見ればわかると、肥満発症のメカニズムをわかりやすく解説しています。
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貧困と肥満
以前、共同通信に、『年収少ない女性ほど肥満リスク大』という記事が掲載されました。
(1)世帯収入600万以上
(2)世帯収入200万~600万未満
(3)世帯収入200万未満
(1)に比べて、(2)は1.7倍、(3)は2.1倍の肥満リスクということでした。
スーパーやコンビニなどに買い物に行って、気がつくのは、「見渡せば糖質」という現状です。特に、安価ですぐに食べることができるものは、菓子パン、食パン、ドーナツ、シュークリーム、サンドイッチ、カップラーメン、カップ焼きそば、おにぎり、清涼飲料水…ほぼ、糖質オールスターズといったラインアップです。
このような状況であれば、世帯収入が低いほど、糖質を摂取する機会が多くなることは容易に想像がつきます。血糖値を直接上昇させるのは糖質、脂質、蛋白質のうち、糖質だけです。糖質を摂取した場合は、血糖値が上昇してインスリン(肥満ホルモン)がたっぷり分泌されます。
A)インスリンにより体脂肪は燃えなくなる。
B)インスリンにより血糖が中性脂肪に変わり蓄積される。
C)インスリンは血中の脂肪酸を中性脂肪に合成し脂肪細胞内に蓄える。
このようにインスリンは三重の肥満ホルモンです。蛋白質は一定量のインスリンを分泌させますが、脂肪はインスリンを分泌させません。
- 糖質の頻回過剰摂取 → インスリンの頻回過剰分泌
これこそが、肥満のシンプルな発症メカニズムです。
- 年収が少ない → 糖質の頻回過剰摂取 → インスリンの頻回過剰分泌
年収が少ないほど、糖質の摂取が増えます。これが、「年収少ない女性ほど肥満リスク大」の発症メカニズムと考えられます。これは、基本的に男性でも同様と思います。
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米国でも「貧困と肥満」が問題となっています。貧困層において、「空腹を満たすために、安価で、高カロリーで栄養価が低い食品を食べざるを得ず、その結果、肥満になる」というパターンです。
米国ではハンバーガーがご馳走と思う人も少なからずいます。ハンバーガーを1個注文して、あとはコーラの飲み放題とチップの食べ放題で兎に角、お腹を満たすというパターンで、「トリプル糖質」の食事です。
これでは米国の肥満は増え続けるばかりでしょう。「南部糖尿病ベルト地帯」という言葉もあります。南部を中心とした16州が該当するのですが、この一体はかねてより肥満者の割合がとくに高く、それに関連して糖尿病や高血圧症の人も多い傾向にあります。
そしてこのエリアは貧困層が集中しているのです。南北戦争で解放された黒人奴隷の子孫が多く住む南部諸州は、全米平均に比べ、著しく貧しい階層が多いのです。
米国だけでなく、OECD諸国においても「貧困層の肥満」が喫緊の課題となっています。
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