近年、増加の一途をたどる情報商材を巡るトラブル。Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さんによると、そこまで詐欺的かつ露骨ではないまでも、さして役にも立たないお金儲けの方法を有料で提供するコンテンツも多く存在しているといいます。今回倉下さんは自身のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』で、なぜこのようなコンテンツが生まれ続けるのかを仮説を立てて検証。さらに「儲けること」を至上命題にすることの危険性を説いています。
この記事の著者・倉下忠憲さんのメルマガ
たいして役にも立たない「儲け方」を有料で提供している準情報商材はなぜ生まれるのか?
インターネットのコンテンツを見ていると、「準情報商材はなぜ生まれるのか」という疑問が湧いてきます。
準情報商材とは何か?
これは私の造語なので定義が必要でしょう。
まず「情報商材」は、広義の「コンテンツ」ではなく、より限定的な「儲けられることを謳いながら、その実、詐欺的な情報しか書かれていない」ものを指しています。
この点に注意してください。基本的に「情報商材」は、情報を販売するもの全般について使われるフラットな言葉ですが、この原稿では詐欺的なものに限定して使っています。
たとえば、「100万円儲ける方法」と謳っている10万円の情報を購入してみたら、「これと同じものを10万円で10人に販売する」としか書かれていなかった、といったものが当てはまります。
このような情報を販売することが、詐欺に当たるのかの法律的な判断はわかりませんが、少なくとも「詐欺的」と評しても問題ないでしょう。
で、上記のような露骨なものを「情報商材」としたときに、そこまで露骨ではないけれども、たいして役にも立たない「儲け方」を有料で提供しているコンテンツが「準情報商材」になります。
最近のインターネットを見渡してみると、こうした準情報商材をよく見かけます。それってなぜなのだろう、というのが冒頭の疑問なわけです。
情報商材の増殖性
たとえばそれが「情報商材」(詐欺的なやつのことです)であるならば、話はわかります。なぜなら、そこに含まれている情報が「複写」的だからです。同じものを作れ、という命令が(あたかも遺伝子のように)含まれています。
よって情報商材の中身をそのまま実行すれば、同じような情報が増えるでしょう。ウイルスのような増殖性がそこにはあるわけです。
しかし、準情報商材は情報商材ではないわけで、まっすぐに考えればそこには増殖性はないはずです。にもかかわらず、結構な数を見かけます。
その理由が気になっているのです。
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仮説を立てる
まず、いくつかの仮説を立てましょう。
仮説1:準情報商材を販売している人は、儲けようと思っている
当たり前だと思われるかもしれません。しかし、この仮説が示しているのは微妙なニュアンスを含む状況です。
たとえば私は「みんながもっとノートを使えるようになったらいいな。でも、ノートに縛られすぎるのも違うな」という気持ちを持って、『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』を書きました。
もちろん、そうして本を書くことは「仕事」ですし、印税というお金も出版社から頂いています。でも、儲けようとは思っていません。たくさん売れたら嬉しいですし、一定量売れないと生計が成り立たなくなるので困りますが、ある程度売れたら「まあ、よし」のような感覚はあります。
だって「みんながもっとノートを使えるようになったらいいな。でも、ノートに縛られすぎるのも違うな」ということを伝えたいというのが、私の「思い」だからです。
では、準情報商材を販売している人はどうでしょうか。その人は売り上げがトントンでもそれを継続するでしょうか。あるいは売り上げがほとんど立たなくても、納得できる「成果」があるでしょうか。
私はないのではないかと想像します。あくまで想像でしかありませんが、全体的な印象を統合すると、そのような想像が立ち上がってきます。
残念ながら、この仮説に関しては論証する術はありません。人の心の中は見えないものであり、そもそも当人すらわかっていない可能性もあるので、仮にインタビューしたとしてもその確実性は高くないからです。
でも、とりあえず、これを一つの仮説とした上で次に進んでみましょう。
利益の構造
仮説2:情報で稼ぐためには、原価を抑えるのが一番
これは難しい話ではありません。以下の式をイメージすればわかりやすいでしょう。
- 売り上げ - 原価 = 利益
利益を大きくするには、原価を上げずに売り上げを増やすか、売り上げを下げずに、原価を下げることです。
もし売り上げの拡大が難しいのならば、原価を下げるのが一番でしょう。
情報を生み出すことは、基本的に「仕入れ」が必要ないので、帳簿的には原価なんてあってないようなものですが、一方で、「たくさんの資料を検討する」や「じっくり考えて判断する」といったコストはたしかに存在しています。こうしたものをどんどんなくしていけば、利益率が高い商材ができあがるわけです。
でもって、情報においてそれを突き詰めると、「コピペ」にたどり着きます。知的生産の定義を逆向きに参照すれば「頭をはたらかせず」に情報を生成するのが、一番安上がりというわけです。
ようは、自分で新たに情報をおこさずに、他の誰かが書いたことをほとんどそのままもってくれば、非常に「原価率の低い」商材ができ上がるのです。儲ける目的のためならば、一番の商材と言えるでしょう。
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マーケティング
仮説3:お金を払ってもらうのに一番簡単なのは、「儲ける方法」を提示すること
これも難しくありません。たとえば、このメルマガは「読む・書く・考えるの探求」をテーマにしていますが、これを買ってもらうのはなかなか大変です。なにせそれがどんな価値を持つのかを明示できないからです(皆様ありがとうございます)。
一方で、「儲ける方法」なら話はぐっと簡単になります。1,000円でそれを買っても、後で1万円儲けられるなら十分ペイする、と「計算」できるからです。そこでは、天秤の右側と左側に乗っているものは同じなので、判断は容易です。
それに比べると、「読む・書く・考えるの探求」や「アウトライナーを活用して文章を書き、考え、生活する」(by アウトライナー・ライフ)な情報にいくら払えばペイできるのかはなかなか計算できません。よって、アピールは非常に難しくなります。
アピール活動そのものにもコストがかかることを考えれば、「儲ける方法」のようにはっきりと具体的な方法を謳うものを「商材」にするのが一番でしょう。
行き着く方法論
上記のような仮説を統合すると、以下のような結論が出てきます。
儲けることそのものが目的の人は、なるべくコストをかけないことが至上命題になり、その結果、見聞きしただけの「儲ける方法」を模倣し、多少アレンジを加えただけで十分な省察も加えることなく、それをコンテンツと称して、お金を儲けたい人に売ることになる。
当然のように、そうしたコンテンツを買った人もまた「お金を儲けたい人」であり、後は同じような構図が繰り返されます。この繰り返しに関しては情報商材とまったく同じです。
ただし、情報商材は情報そのものに増殖性が含まれていたのに対して、準情報商材は利益の構造において模倣的なコンテンツが生まれやすい土壌がある、という点に違いがあります。
で、なぜこんな分析をしているのかというと、情報商材のようにはじめから欺瞞的なものを作るつもりがなくても、「儲ける」ことを至上命題にしていると──なんならPDCAサイクルを回していると──結果的に準情報商材に近づいていくのではないか、という懸念があるからです。
姿形のない「情報」で利益を上げるのは大変です。その大変さをわかっていないままビジネスに参入してしまうと、上記のような道のりを辿ってしまうのでしょう。皆様もお気をつけください。
※ 本記事は有料メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2022年7月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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