MAG2 NEWS MENU

Seoul, South Korea - September 15 2022: Seoul National University sign at the entrance

韓国を包む「医学部・薬学部以外、全員負け組」という社会的空気

 韓国の国立大学であるソウル大学で自主退学する学生数が330人にものぼったという報道がありました。その理由は何か、韓国在住歴30年を超える日本人著者が発行するメルマガ『 キムチパワー 』の中で紹介しています。

ソウル大学「退学生330人」はどこに行った?

ソウル大学に入学して自ら辞めた学生数が昨年330人に達したことが9月20日、把握された。ソウル大学が関連統計を集計した1998年以後23年ぶりの最高値だ。

退学学生の大多数は理工系の学生で、(彼らは)医学部、薬学部などに進学し離脱を煽ったものと分析される。COVID-19によって非対面授業をしながらキャンパス生活を享受できなかった学生たちが「半浪人(どこかの大学に一応合格しておいて途中で休学届を出して浪人生活をして別のもっといい大学に行くこと)」を多く選んだのも自主退学が増えた背景として挙げられる。

ソウル大学で集計した年度別の退学学生の人数を見れば、昨年の退学学生数は1学期25人、2学期305人で計330人だ。04年に328人(従来の最高値)を記録して以来、再び300人台を記録したのは昨年が初めてとなる。10年前の2012年の120人に比べても2.75倍増えた。昨年、ソウル大学の入学生は3,153人だった。

退学学生が急増した背景は、工学部、農業生命科学部など理工系学生の離脱が増えたためだ。ソウル大学が民主党のムン・ジョンボク議員室に提出した「最近10年間のソウル大学退学学生現況統計」資料によれば、昨年工科大学(工学部)だけで104人が自主退職を決めた。この10年間で工科大学で100人以上退学したのは昨年が唯一だ。

農業生命科学部88人、自然科学部46人、教育学部(地球科学・化学・生命教育科など)30人など、理工系全般で自主退学生(284人)がまんべんなく出されており、全体の退学学生のうち86.4%を占めた。一方、医・薬学系は2019年以降、退学生が1人もいない。

昨年ソウル大学の退学学生10人のうち6人は、新入生(1年生、198人)だった。2年生も82人に達した。彼らは2020・2021年にいわゆる“悲運のコロナ学番”とも呼ばれる。学番というのは、入学時に与えられる学籍番号のことだ。

 

ソウル大学機械工学部2年生のキム・ヒョンミン(20・仮名)君は、「1年生の時一緒に学校に通った友達の中でも今年、医学部や薬学部に新入生として進学した友達がかなりいる」、「コロナ19で先輩と後輩間の交流が難しくなったため、先輩に進路相談をしたくても非対面で直接会えなくて、学校内でのコミュニティなどに依存するしかないのだけれどコミュニティには『工学部を出てると、大学院に行かなければならないなど必要な努力に比べて見通しがそれほど明るくない』といった匿名のアドバイスが多く、半浪人をみんな勧めているような雰囲気」と話した。

理学部学生らが医学部・薬学部を好む現象は前からあるが、これによってソウル大学という「看板(=ブランド)」の代わりに地方の医学部でも行こうとする学生が増えたのと同時に今年14年ぶりに初めて全国の薬学大学(薬学部)が、学部の新入生を選抜したことも退学学生が多く出た原因に挙げられる。

韓国の薬学部は、過去14年間、薬学部で直接学生を選抜することをせず、一旦どこかの大学の何学部でも入っている人(すなわち大学生になっていることだけが条件)が、2年生になるときのタイミングでピートという試験を受けて合格すれば志望の薬学部に行けるシステムをとっていた。今年14年ぶりにこのシステムが廃止されて薬学部でも他の学部のように直接最初から学生を選抜することにした。

キム・ウォンジュン江南(カンナム)大成(デソン)学院の学歴開発研究室長は「ソウル大学が最もいい大学とされるが、実際にソウル大学の学生でありながらで浪人や半浪人をしている生徒と面談してみると学校より学科にもっと焦点を置いて挑戦しようとするケースが多い」と語った。

ソウル大学看護学科に在学中のチョ・ヘミ(24・仮名)さんも「看護大学の場合、医学や薬学系と学ぶ内容が似ており、もう少し勉強すれば医学部に進学できるかもしれないと考えている友達がかなり多い」、「専門職を好む社会的空気ができており、毎年半浪人をした後、地方医学部に進学する学生が少しずついる」と話した。

 

ソウル大学側は自主退学生が大幅に増えた原因としてコロナ19をあげる。どうせ学校に行けないんだからいっそのこと「半浪人」でもしよう、このような現象が増えたということだ。進路に対する不安も原因のひとつに挙げられた。

ハ・スンヨル(ソウル大学自然科学大学教務副学長)は「学生たちが未来に対する不確実性を減らすために医学系列に進学する場合が多いが、自然科学系学部は学問でなんとかしようと思えば大学院で勉強する期間が長く、進路も不透明なため、進路不安が高く、半浪人をする場合が多い」、「高等教育過程において基礎数学や基礎科学を縮小するなど、生徒らが基礎学問に易しく接して学ぶ機会が減っている。国内産業構造上、基礎科学を後押しする雰囲気もないため自然科学系学部でも医学部の方に再進学しようとする生徒が生じる」と指摘した。

林成浩(イム・ソンホ)鐘路(チョンノ)学院代表は、「コロナ19のために非対面の授業が多くなり、個人の勉強時間が十分に整備されるなか、昨年半浪人生が急激に増加した傾向があり、その中でさらに14年ぶりに初めて全国の薬学大学が学部の新入生を選抜したことと相まって、上位圏の学生の再挑戦心理がとても増幅した」、「工科大学だけでなく、文科の学生も専門職を好む傾向が鮮明になり、また勉強をして地方の医学部に行こうとする学生たちが現れた」と分析する。コロナ19の影響とピート試験の廃止などが相まって、ソウル大の退学学生が大量「発生」したものとみられるようだ。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年9月22日号)

image by:  yllyso / Shutterstock.com

キムチパワーこの著者の記事一覧

韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 キムチパワー 』

【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け