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逆境で急成長。「焼肉ライク」が“ひとり焼肉”でコロナ禍に起こした革命

続々と繰り出されるユニークなキャンペーンがメディアでもたびたび取り上げられ、焼肉業界の中でも抜群の知名度と人気を誇る「焼肉ライク」。他者の追随を許さないアイディアは一体どこから湧いてくるのでしょうか。その秘訣を探るのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、同社の魅力的な企画の数々と、顧客の心を掴み続けるため彼らが続けている取り組みを紹介しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

創業まもなくでコロナ禍に見舞われた「焼肉ライク」が、“ひとり焼肉”で革命を起こすまで

コロナ禍で会社の体質を鍛えたという飲食業の話を紹介しよう。それは、元祖ひとり焼肉の「焼肉ライク」である。

このチェーンは「牛角」チェーンを2000年初頭の短期間で800店舗に育てた西山知義氏が率いるダイニングイノベーションによって、いまから丸4年前の2018年8月29日に1号店がオープン。その後分社して焼肉ライク(本社/東京都渋谷区、代表/有村壮央)となり、この8月末現在で全国に85店舗(うちFC79店舗)を展開している。

“売上の最大化”を常に追求する

「焼肉ライク」の特徴は「1人につき1台の無煙ロースター」「注文から提供まで3分間、平均滞在時間25分間」「一番安いセットメニューが580円(税込)」といったこと。焼肉を食べたいときに1人でサクッと食べられる、ということだ。これが女性の潜在需要を引き出して女性客が3~5割となっている。

同チェーンは話題に事欠かない。小刻みに耳目を集めるキャンペーンを展開している。直近で大ヒットしたメニューは「平日11時~18時、時間内無制限食べ放題」2,170円(税込、以下同)と「焼肉フィットネス」サブスク月額1万780円である。

大食漢向け人気メニューを“7時間食べ放題”にして人気を博した「メガホ」

「フィットネス」に根差したメニューを恵比寿本店、赤坂見附店限定で毎日食べられることが話題となり、7月25日に販売を開始した「焼肉フィットネス」はサブスクプランが公開5分で完売した

前者は、元々同チェーンの「メガ盛りセット」300g1,290円、400g1,790円が人気上位3位にあり、食べ放題ファンのお客から「一般の焼肉食べ放題は90分限定で落ち着かない」という声があったことから、新たに2,170円のメニューを設定して「7時間食べ放題」にしたという。当初6月27日から7月31日の期間限定で難波なんさん通り店(大阪)と国立店(東京)の2店で提供していたが、好評を博したことから8月16日に提供店舗は20店舗に拡大した。

そして、9月27日より「シン・メガホ」と名称を新たにして、新メニューとして「ネギ塩」と「ニンニクマシマシスタミナカルビ」を加え、提供店舗を26店舗に増やした。このメニューが好評であることがうかがわれる。

「メガホ」に味変メニューを加えて実施店舗を26店舗に増やした「シン・メガホ」

「7時間食べ放題」であっても実際の利用客は1時間ないし1時間30分で食べ放題を終えるという。とは言え店側が「1時間」「1時間30分」と小刻みに区切って食べ放題をアピールするのではなく「平日11時~18時時間内無制限!!」と表示していることに“遊び心”や“懐の深さ”を感じさせる。そして、ピークタイムである18時以降は食べ放題の時間に充てていない。常に“売上の最大化”が図られている。

後者は、LINEサブスクシステムの「サブスクライン」によって「フィットネス」に根差したメニューを恵比寿本店、赤坂見附店(以上、東京)限定で毎日食べられるという内容。100名様限定で7月25日朝7時より販売を開始したところ開始5分で完売した。そして8月1日より上記2店限定で3種類のセットを各1,490円で提供している。

それは「筋力アップセット200g」「低脂肪セット200g」「ロカボセット200g」。メニューは、赤身肉、鶏肉と脂肪分の低いもので組み立てて、ロカボセットにはごはんはつかない。これらには順に、780kcal、701kcal(ともにごはん普通盛りの場合)、554kcalとカロリー表示がなされ、脂質、炭水化物、糖質の量も表示されている。

このメニューも10月1日から実施店舗を10店舗に拡大。月額10,780円と14,080円のサブスクプランで対応する。

「焼肉フィットネス」のサブスクは10月1日から実施店舗が10店舗に拡大し2種類のメニューを設けた

“ワンデー・ワンアイデア”を習慣化

このような企画のアイデアはどのような環境が生み出しているのだろうか。焼肉ライクの有村壮央(もりひさ)代表はこう語る。

「ファウンダーの西山さんの時代に築かれたことですが、当社にはお客様の視点に立って徹底的に話し合う文化がある。コロナ禍で厳しくなった中、社内的に“ワンデー・ワンアイデア”を行った。各人毎日アイデアを1本挙げようという運動。これがヒットするアイデアを生み出す環境をつくった」

当初、同チェーンが出店していた場所は、新橋、新宿、上野、赤坂といったビジネス街。しかしながら、コロナ禍が始まった頃これらの店は大きなダメージを受けた。そこで同社では「われわれの強みは何か」ということを徹底的に考えていった。そこで出てきたことは、焼肉店ならではの「換気」。そして無煙ロースターが1人1台という「個食」であった。

そこでアピールしたことは「約2分30秒で客席全体の空気が入れ替わる」ということ。1人1台の無煙ロースターが煙と臭いだけではなく、店内の空気を強力に吸い込んでいることを“安心・安全”につなげた。

2020年5月、正体不明のコロナ禍にあって「換気」が充実していることをアピールし「安心・安全」につなげた

そして最初の緊急事態宣言が解除された2020年5月26日の翌日から「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンを展開。これは同チェーン1番人気の「牛タン&匠カルビ&ハラミセット」200g1,480円(税抜、当時)を1,280円で提供。ここには「ファンくる(ROI)調べ」として「緊急事態宣言解除後に行きたい外食の第1位に『焼肉』が選ばれた」ことを情報として付け加えた。

当初「ひとり焼肉」と言い方はなるべく避けていたが「密」とは無関係ということで強調するようになった


「朝焼肉」を発掘、アルコールも強化

コロナ禍が続き、自治体から時短営業が要請される。そこで考え出したのが「朝焼肉」500円(税、当時)。これは2020年8月1日から東京・新橋本店で販売開始。同店では朝7時からの営業にした。メニューは、バラカルビ100g・ご飯・わかめスープ・味付のりがついて、さらに生玉子かキムチが選べるというもの。新橋は夜勤明けの人が多く、早朝から行列ができた。後に10時~11時に「朝焼肉」を提供する店舗を増やした。

「朝焼肉」では“がっつり”というイメージから脱して、朝食らしい“さっぱり”とした内容にした

焼肉用代替肉の「NEXTカルビ」「NEXTハラミ」をラインアップ。これはネクストミーツ社が開発した大豆を用いた焼肉用代替肉を提供したもの。2020年10月23日から渋谷店で先行販売、その後、店舗別に販売をしていたが、12月14日に全店導入を開始した。有村氏は「代替肉は世界的な流れとして注目されていること。豚肉、鶏肉のように牛肉に代わる肉のカテゴリーに入るのではないか」と語る。ビーガンの人が来店する事例も散見された。焼肉の多様性ということでは先験的なことである。

焼肉業界の中で焼肉代替肉を提供するのは「焼肉カルビ」が先駆け、他の焼肉チェーンが追随した

このタイミングで、11月23日から「松阪牛」50g500円(税別)を6万食販売。これが端緒となり黒毛和牛の販売は断続的に展開されている。

2021年に入り、アルコールを伸ばす企画を打ち出すようになった。3月22日から31日まで「今こそ!!ビールだ!焼肉だ!!」をうたい、ドリンク(アルコール・ソフトドリンクとも)終日半額にした。この路線は、まん延防止等重点措置にある飲酒の人数制限や時間制限を意識して6月21日から一部店舗でレモンサワー・ハイボール「飲み放題60分550円(税込、以下同)11時~19時」を販売。10月1日~15日「おひとり様(ワンベロ)飲み放題550円」「お二人様(ツーベロ)1000」を販売。

「今こそ!!ビールだ!焼肉だ!!」が皮切りとなって、アルコール販売にも力を入れていくようになった

60分飲み放題企画はレモンサワーとハイボールのダブルサーバーがついた飲み放題専用シートに拡大していく

「焼肉」に拘泥しない幅広い業態力

この年に手掛けた、ひとりジンギスカン「スプリングラム」の企画が光った。この発想は「焼肉の利用動機を広げること」(有村氏)。「焼肉ライク」を立ち上げた当時から温めていた。そこでオーストラリア産の羊肉が最もおいしいとされているスプリングラムを食べたところその食味に感動し、同社が独自に生のスプリングラムを仕入れるルートを開拓した。

第1弾は2021年5月11日~5月31日「スプリングラムジンギスカンセット」130g1,480円(税込)で提供。北海道の家庭で常備品とされているベル食品「成吉思汗のたれ」を添えた。今年も第2弾として4月29日~6月15日開催。昨年と同様のメニューに加え、セットメニューのバリエーションを広げた。今後はマクドナルドの「お月見バーガー」のように、顧客に季節感をもたらす定例のメニューに育てていきたいという。

生のスプリングラムによるジンギスカンは今年で2回目、今後定例化していく模様

2022年に入り4月4日~5月9日、上野店の1階を「すき焼ライク」として営業した。「焼肉ライク」のロースターにすっぽりとはまるひとり鍋を開発し「国産牛すき焼きセット」1,280円、追加肉680円で販売した。この先は、前段で紹介したキャンペーンとなる。

大好評を博した「すき焼ライク」は肉業態としての可能性を広げた

いまや「焼肉ライク」では「カスタムメニュー」と称した50g単位の肉メニューをラインアップ。14時~18時はアルコールが全品半額のハッピーアワーも行っていて“ちょい飲み”の需要にも応えている。

このように見ると「焼肉ライク」はコロナ禍にあってそれを乗り越える力がオールラウンドに付いたと言える。根底にあるのはコロナ禍の当初より習慣化した“ワンデー・ワンアイデア”である。こうして社員のアイデアを鍛える環境が培われ、それを尊重する社風が育っていったと言えるのではないか。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社焼肉ライク

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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