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Japanese man with a pension book

厚生年金に入れない非正規雇用者がこんなにも増えたのはなぜか?

会社員の多くが加入している厚生年金ですが、実は同じように働いているのに厚生年金に加入できていない人たちが1000万人もいるそうです。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 非正規雇用者の現状と今度について事例を用いて詳しく解説しています。 

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非正規雇用者が厚生年金に1000万人加入出来ていない現状と、10月からの更なる厚生年金加入促進。

1.会社に勤めているのに厚生年金に加入させてもらっていない人が1000万人。

現在時点で厚生年金に加入している人は4500万人程います。

内訳は男性は約2800万人で、女性が約1700万人です。

厚生年金に加入できる年齢は70歳までとなっています。

国民年金は20歳から強制加入しますが、厚生年金は20歳からという制限はありません。

高校卒業後や中学卒業後にすぐに働きに出る人も普通に居るので、そういう場合は20歳前から厚生年金に加入したりします。

なお、労働基準法により15歳に達した後の最初の3月31日が達するまでは原則として働かせる事は出来ませんので、実際は中学を卒業しないと厚生年金には加入できないという事はあります。

映画の撮影とか、演劇みたいな労働はすごく小さい子でも働かせる事が出来ます(テレビドラマとかにも子役とかいますよね。あれは労働基準法で認められてるから)。

さて、厚生年金加入者になるには普通は会社に就職した場合に加入者となります。

なのでサラリーマンとか公務員になってる人は厚生年金の被保険者と考えていいです。

とはいえ、どの会社に勤めても厚生年金に加入できるのではなくて、以下のような会社に勤めている人が対象になります。

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ア.国、地方公共団体または法人の事業所で、常時従業員を使用するものは、業種を問わず厚生年金が適用されます。
従業員が1人であっても強制加入します。

イ.個人事業については常時5人以上の従業員を使用してる場合は厚生年金が適用されます。
つまり常時5人未満の個人事業は適用されない。

ただし、農林水産畜産業とか接客娯楽業、法務業、宗教業などの個人事業は厚生年金が強制適用されずに、常時5人以上でも厚生年金が適用されない。
令和4年10月からは個人事業の法務業(弁護士、税理士、社労士業のような士業)は常時5人以上の場合は厚生年金適用となります。
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ちなみに、会社で働いてる人のうち正社員は3500万人程いますが、非正規雇用者は2000万人ちょっといます。
全雇用者の4割は非正規雇用者なのですね。

その中で非正規雇用者の人も会社に雇われてるので、この人たちも厚生年金の被保険者になってるのかというと、2000万人の内1000万人程の人は加入させられていません。

正社員と同じように会社に雇用されているのに、どうして厚生年金に加入させてもらえていないのか。

まず、厚生年金に加入するには会社に入社するだけでいいというわけではありません。

働き方に一定の条件が設けられています。

例えばその会社に常時雇用される社員(主に正社員の人)の1日の勤務時間、1ヶ月の勤務日数の概ね4分の3以上の人が厚生年金に加入できます。
これは昭和55年あたりからの原則でした。

なので正社員の労働時間が8時間で1ヶ月勤務日数が25日勤務なら、その4分の3である6時間以上働いて月に19日くらい働いていれば厚生年金に加入する大まかな基準になります。

労働契約を結ぶ時にこのくらい働く条件なら、入社早々厚生年金に加入させるのは会社の義務になります。

例えばよくあるのが入社して2~3ヶ月くらいは試用期間だから加入させないというのは、違法になってしまいます。

反対に労働者が厚生年金に加入したくない!って言っても、会社は加入させないといけません。

さて、厚生年金に加入させるのって会社側としては社会保険料の負担が増える事になるので、経費を抑えたい事業主側からしたら嬉しいものではないですね。

例えば厚生年金保険料を月々3万円支払うなら、社員と事業主で半分ずつの15,000円ずつを支払う事になるからです。

そう、会社も社員と同じ保険料負担を支払う義務が発生するわけです。

これは厚生年金保険料だけでなく、健康保険料や介護保険料(介護保険は40歳以上の人)、雇用保険料も同じように会社も社員と同じ負担が生じます。
雇用保険料はやや会社が多めに支払います。

また、労災保険は会社が全額負担しなければいけませんし、誰か一人でも雇ったら労災に入る事が義務となっています。

結構会社って、一人の社員に対して多くの負担をしています。

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2.なぜ厚生年金に入っていない上に、会社にとって都合のいい非正規雇用者が急増したのか。

ところで、先ほども申し上げたように非正規雇用者2000万人程のうち1000万人程の人が厚生年金に加入していません。

これは先ほどの4分の3以上の基準に満たないからというのもあります。

じゃあ、厚生年金に加入していない非正規雇用者の人は何の社会保険料を支払っているのかというと、自ら国民年金保険料(令和4年度は16,590円)と国民健康保険料(所得による)、介護保険料を納めています。

厚生年金に入ってる人は半分は会社が負担してくれますが、厚生年金に入っていない場合はすべて自分が全額負担する事になります。

かといって、厚生年金加入者のほうがすべてにおいて安い保険料で済んでるというわけではありません。

厚生年金被保険者の保険料は18.3%の保険料率で取っているので、給料が高い人ほど納める保険料も高くなります。
例えば厚生年金の最高給与(標準報酬月額)である65万円の人であれば、18.3%の半分である9.15%の59,475円を毎月支払います。
会社側も毎月59,475円支払います。

で、賞与ですが賞与は1回の支払いにつき最高限度額150万円に保険料率掛けて徴収しますが、そうすると150万円×9.15%=137,250円を会社と折半します。

国民年金保険料のみだと毎月16,590円の定額であります。

だから、全体で見れば厚生年金の被保険者の人のほうが国民年金保険料のみ支払ってる人より多く支払ってるでしょう。

ただ、厚生年金加入者と国民年金のみの加入者の人の決定的な違いは、将来の年金額です。

国民年金だけだと老齢基礎年金満額777,800円(令和4年度満額)が基本的に上限ですが、厚生年金加入者は基礎年金の上に更に報酬に比例した年金である老齢厚生年金を受け取る事が出来ます。

老齢厚生年金は過去の給与水準で年金額が決まるので、給与が高かった人は多い年金になるし、低かった人は年金額も低くなります。

まあでも国民年金のみの時よりも手厚い保障となりますので、厚生年金に加入できるなら加入したほうが年金受給する際は安心感が増します。

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※参考
自営業が主に加入する国民年金のみ(満額は65,000円くらい)と、サラリーマンが加入する厚生年金(モデル平均月額15万円)はどうして今額がこんなに違うのか。
そりゃあ、厚生年金は基礎年金の上に報酬比例があるからだろうって話ですよね。

この理由としては自営業者と違ってサラリーマンは定年があるからです。

もちろん自営業は年金額が少ないので、自分の自助努力が必要にはなってきますが、いろいろ税が優遇された資産形成のための制度があるので余力があればサラリーマンより何かとやりやすいからというのもあります。

自営業とサラリーマンどちらが有利不利かは一概には言えないところではあります。
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このように厚生年金に加入すると会社が半分負担するし、年金貰う時はより手厚くなるしで、会社に勤めている人はその点はやっぱり結構恵まれていると言えます。

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ちなみにどうしてこんなにも非正規雇用者の人が増加したのか。

大体、約40年前のバブルに入る直前辺りの非正規雇用者は600万人程でした。

しかし、バブルが崩壊してからの平成からは非正規雇用者が急増していきました。

バブル崩壊後は会社倒産の危機に陥る企業が多くなり、巨額の不良債権(貸したお金が戻ってこない)を銀行が抱えたため、企業にお金を貸す事を渋るようになりました。
貸し渋りと合わせて、貸しはがし(期限よりも早期に回収)とかですね。

会社を立てなおそうとしても銀行が貸してくれないからそのまま倒産していくわけです。

当時は、公定歩合というものがありました(今は無担保コール翌日物で銀行が自由に金利決めてますが)。

日本銀行が民間銀行に貸す時の金利ですね。
通常は大体6%くらいの金利。

公定歩合が引き下がると(1995~2000年は0.5%、2001年から2006年は0.1%まで引き下げた)、民間銀行はお金が借りやすくなって、そのお金を民間に貸し出しやすくなるんですが、バブル崩壊で貸し出しに臆病になってしまった民間銀行はなかなか民間企業にお金を貸そうとしませんでした。
貸し渋りを続けたわけです。

そのため、日本経済はなかなか回復せずに停滞が続き、今現在ですら賃金が上がる事自体がほぼ無くなりました。

賃金が上がらなくなれば人々はモノが積極的に買えなくなるので、消費に対する需要が上がらないため、会社は商品の値段を下げるしかありません。

商品の値段を下げれば、利益が少なくなるのでますます社員の給料は上がらなくなるか、下がってしまいます。

余計に消費は冷え込むスパイラルに陥りました。

これじゃあデフレからはなかなか抜け出せないですよね。

少ない利益の中、できるだけ収益を上げるためには経費を抑えないといけないので、正社員を雇うのではなく給料が安くて済む非正規雇用者に置き換えていきました。

非正規雇用者にすれば給与は低くて済むし、賞与も基本的に支払わないでいい。
さらに社会保険料も会社の折半負担もない。

よって、会社はこぞって非正規雇用者を増やしていったわけです。

そして非正規を余儀なくされた雇用者の将来の年金が、今後危ぶまれているわけです。

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3.正社員と非正規雇用者の給与格差だけでなく、将来の年金格差の危険性。

ところが会社に勤めているにもかかわらず、非正規雇用者だからといって厚生年金に加入させられていない1000万人程の人がいる事が現在は問題になっています。

なぜ問題になるのかというと正社員は給与も年金も手厚いですが、非正規雇用者は給与も年金も低くなるため、給与格差だけでなく将来の年金格差を引き起こす問題を孕んでいるからです。

そうすると今現在、非正規雇用で厚生年金に加入できていない人が、老後になると貧困問題が顕在化し、大きな社会問題になってくる危険性があります。

貧困が加速すると、モノを買う消費活動も困難になるので、需要がなかなか増えないので会社側としても利益が上がらずに経済全体に悪影響を及ぼします。

じゃあどうするかと考えた時に、厚生年金に加入できていない非正規雇用者の厚生年金加入を促進しようという動きが平成16年年金改正の頃から出てきましたーー(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)

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年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【月額】 ¥770/月(税込) 初月有料 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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