もはや時間の問題との見方も一部で強まる、ロシアによる核兵器の使用。国際社会の批判を浴び続けるプーチン大統領は、これまで以上の愚行を犯してしまうのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、戦況の悪化で追い詰められたプーチン氏が展開する「戦術核使用のロジック」を取り上げ、非人道的兵器が使われる可能性を考察。さらに日本までもが戦争に巻き込まれる「超最悪のシナリオ」を紹介しています。
第3次世界大戦へのシナリオ
今回は、予測というか、「可能性」に関するお話です。私自身、「絶対に起こってほしくないシナリオ」について。それでも「可能性がある」ので書かないわけにはいきません。
追い詰められたプーチン
私は以前から、「プーチンは、戦略家ではなく戦術家。だから進めば進むほど苦しくなっていく」と書いてきました。
今回のウクライナ侵攻がはじまる前から、「プーチンの戦略的敗北は不可避」と書いてきました。
実際、何が起こったのでしょうか?
2月24日、プーチンは、ウクライナ侵攻命令を下します。当初は、「3日でキーウを攻略して終わらせる」予定だった。それで「戦争」ではなく、「特別軍事作戦」という用語を使ったのです。ところが、キーウは、落ちませんでした。
3月末、ロシア軍はキーウ攻略を断念します。新たな目標は、「5月9日の対ドイツ戦勝記念日までに、ルガンスク州、ドネツク州を完全制圧し、勝利宣言すること」になりました。5月9日、ロシア軍は、ルガンスク州、ドネツク州を制圧できていませんでした。
7月3日、ロシア軍はようやくルガンスク州を完全制圧したと発表しました。プーチンは歓喜し、「次はドネツク州だ!」と小躍りしたことでしょう。
ところが、ロシア軍の進撃は、ここでストップ。以後、ウクライナ軍が反転攻勢を強めるようになっていくのです。プーチンは弱気になり、「停戦交渉派」になっていきます。プーチンの停戦条件は、
- ウクライナは、クリミアをロシア領と認めること
- ウクライナは、ルガンスク人民共和国、ドネツク人民共和国の独立を認めること
- ザポリージャ州、ヘルソン州をロシア領と認めること
ゼレンスキーは、こんな無茶な要求を呑めるわけがありません。それで、停戦交渉再開を拒否していた。
そうこうしているうちに9月11日、ハリコフ州の戦いでロシア軍が大敗した。ウクライナ軍は5日間で、東京都よりも大きな土地を奪還することに成功しました。
この敗北は、ロシアの支配者層に大きな衝撃を与えました。
プーチンは、「このままでは、ロシア軍が実効支配している、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州も維持できないかもしれない。ロシアは負けるかもしれない!」と思ったことでしょう。
つづいてイメージされるのは、プーチン自身の未来です。辞任に追い込まれるのはまだマシで、捕まったり、殺されたりすることもイメージできたでしょう。プーチンは、「自分の体面、権力、命を守るために」この戦争に勝利しなければならない。
プーチンに残され二つの選択肢
でも、どうやって?二つしか方法は、ありません。
- 動員をかけて、兵士の数を激増させること
- 戦術核を使うこと
それで9月21日、プーチンは、「部分的動員令」を出したのです。
「部分的」といいますが、ロシア全土で大々的に動員が行われています。「部分的」という言葉は、「戦争」を「特別軍事作戦」と言い換えたのと同じ詭弁です。国民がパニックを起こさないよう「総動員」という言葉を避けた。実際は、「総動員」と変わりません。
戦術核使用のロジック
9月30日、プーチンは、東部ルガンスク州、ドネツク州、南部ザポリージャ州、ヘルソン州を併合しました。併合したからといって、ウクライナ軍が攻撃をやめることはないでしょう。何が変わったのでしょうか?
ロシア側のロジックでは、4州は、すでに「ロシア領」です。ウクライナ軍が4州を攻撃することは、「ロシア領を攻撃している」ことになる。そうなるとこれは、ロシア側によると、「ウクライナ軍がロシア領を侵略している」ことになるのですかなり異常な論理ですが、プーチンのロジックは、まさにそういうことになります。
そして、ロシアの軍事ドクトリンによると、「自衛のためなら核を使用することができる」のです。
ロイター9月30日。
ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ東・南部4州の併合を宣言する演説で、米国が第二次世界大戦末期に広島と長崎に原爆を落とし、核兵器使用の「前例」を作ったと指摘した。
プーチン大統領は最近、自国の領土を守るために核兵器を使用する用意があると述べ、核兵器使用が懸念されている。
プーチン氏は演説で「米国は日本に対し核兵器を2回使用した」とし「米国が核兵器使用の前例を作った」と述べた。
要するにプーチンは、「アメリカも核を使ったよね。だから、俺が使っても文句ないよね」と主張している。
ロシアが戦術核を使ったらアメリカは?
その時、アメリカはどう動くのでしょうか?サリバン大統領補佐官は9月25日、核を使えば「ロシアに破滅的な結果を与える」と警告しました。彼は、ロシア政府に、直接同様の警告を繰り返ししているそうです。
「破滅的な結果」とは何でしょうか?
サリバンさん自身は語っていません。しかし、ホッジス元米陸軍欧州司令官は以下のように語っています。
米国の反撃は核兵器ではないかもしれない。しかしそうであっても極めて破壊的な攻撃になるだろう。例えばロシアの黒海艦隊を殲滅させるとか、クリミア半島のロシアの基地を破壊するようなことだ。
(FNNプライムオンライン10月3日)
ロシアが戦術核を使えば、「黒海艦隊を殲滅させる」そうです。
実際にそうなるかわかりません。しかし、それをするとすれば、米軍・NATO軍が黒海艦隊を壊滅させるのでしょう。
そうなると、ウクライナ対ロシアの戦争ではなくなります。NATO・ウクライナ対ロシアの戦争になる。第3次世界大戦勃発です。
最悪のシナリオ
NATO軍の攻撃で、黒海艦隊が全滅した。プーチンは、「やべえ!やっぱNATOにはかなわねえ。降伏しよう!」となるでしょうか?ならない可能性が高い気がします。
そうなると、「黒海艦隊のかたき」を討たなければならない。どうやって?
たとえば、NATO加盟国であるバルト三国やポーランドに対する戦術核使用。これは、NATO加盟国への核攻撃ですから、当然NATOも核で反撃する可能性がでてくる。核の撃ち合い。最悪です。
そうなると今度は、「プーチンは、いつ戦略核の使用を決断するのか?」といった話になってきます。
超最悪のシナリオ
さらに悪いシナリオもあります。
欧州で、NATO対ロシアの戦争がはじまった。アメリカは、ロシアとの戦いで忙しい。その時、習近平は、「アメリカが欧州方面で戦っている今がチャンスだ!」と考えないでしょうか?
習は、「千載一遇のチャンスを活かさなければ!」と考え台湾に侵攻する。そうなると、日本と中国の戦争もはじまってしまいます。
なんとも、恐ろしいシナリオでした。
しかし、このシナリオの最初の部分、「プーチンが戦術核を使う可能性がどんどん高まっている」というのは、事実です。クリミア大橋が爆破された。これでまた、「プーチンが戦術核を使用する可能性が高まった」と見るべきなのです。
私には夢がある。
「第3次世界大戦が起こっていない世界で、2023年を迎えること」
戦術核が使われませんように。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2022年10月11日号より一部抜粋)
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