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無策で低レベル。なぜ野党はいつも「ここ一番」で必ず自滅するのか?

旧統一教会との不適切な関係や安倍元首相の国葬実施を巡り、支持率の急落に見舞われている岸田政権。しかし野党第一党である立憲民主党は迷走を続けるばかりで、国民の支持を得るには遠い状態にあると言っても過言ではありません。そんな野党の体たらくを厳しく批判しているのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回、野党が自民党一強の状況を作り上げてしまった理由を考察するとともに、日本の未来のため彼らが自覚すべき役割を提示しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

政権支持率低下にも動けず。自民党の失策活かせぬ野党の体たらく

立憲民主党と日本維新の会が「国会内共闘」を進めている。臨時国会の要求がある場合、内閣が20日以内に召集に応じることを義務付ける「国会法改正案」や、衆院選挙区の「10増10減」を含む公職選挙法改正案の成立など6項目を合意した。また、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題についても、被害者の救済や防止策といった協議を両党で進めるとした。

しかし、地域政党「大阪維新の会」大阪府議団が、共闘に反対を表明した。立憲民主党も臨時国会での協力が選挙協力に発展するかについて、曖昧な表現を繰り返している。この共闘の将来は不透明だ。

旧統一教会と政治の関係や、安倍晋三元首相の国葬実施で、岸田文雄内閣の支持率が急落しており、野党は一致して攻勢を強めている。だが、これまで「政策」でうまく共闘できなかった野党が、「宗教」「国葬」で共闘しているとはしゃいでいる姿に、国民は冷ややかは視線を向けている。岸田内閣への不支持が、野党への支持にまったく向かっていないのだ。

立民と維新の共闘も評判が悪い。端的にいって、立民は「左派」、維新は「右派」の政党だ。政策志向が真逆なのは、国民の誰もが知っている。

立民は、共産党とのいわゆる「野党共闘」路線を追究してきた。政策的には民主党政権までの「中道左派」路線は事実上捨てて、共産党に引きずられて「左傾化」してきた。特に、安倍晋三政権が「アベノミクス」で左傾化していく中、違いをみせるために立民は「極左化」してきたと言っていい。そして、安全保障政策の推進には消極的だ。

しかし、「野党が候補者を一本化できれば自民党に勝てる」と期待された成果はなかった。泉健太代表が就任した後、路線修正を試みているが、共産党との共闘打ち切りは中途半端なままで、参院選に敗北してしまった。

一方、維新は昨年11月の衆院選、今年7月の参院選と国政選挙での躍進が続き、立民に代わって野党第一党の座を奪おうという勢いだ。維新は大阪を中心とする地域政党から、全国政党への脱皮を図ろうとしている。そのアピールは、自民党よりもラディカルな「憲法改正」「安全保障政策」だ。

この両党が、どのように共闘を進めていくというのか。「国会法」「公職選挙法」「旧統一教会」は、誰もが賛同できるものである。いわば、「宗教、国葬で共闘」とはしゃいだ延長線上にあるものだ。

だが、インフレに悩み、格差の拡大に苦しむ国民生活に密接にかかわる経済財政政策や、中国の軍事的急拡大、北朝鮮のミサイル開発など悪化する安全保障環境に対応するための政策という、厳しい現実に向き合わねばならない政策で、この両党は共闘できるのか。「共闘」「共闘」と浮かれる前に、少しは真剣に考えてみろといいたい。

そもそも、岸田政権の支持率急落は、野党にとって浮かれるような好機なのだろうか。過去を振り返ると、支持率の低下した自民党政権がやることは、まず徹底した景気対策である。岸田政権も今後、景気対策を次々と打ち出していくことになる。「新しい資本主義」のコンセプトに従い、アベノミクスが置き去りにした中小企業や個人への再配分を強化する。これまで以上に「予備費」を使った補正予算が編成されるはずだ。

予算には、安倍政権以降実施されてきた「全世代への社会保障」「子育て支援」「女性の社会進出の支援」「教育無償化」などが盛り込まれるだろう。だが、「労働者への分配」は、本来ならば立民など左派野党が取り組むべき政策だともいえる。

要するに、この連載で指摘してきたように、安倍政権以降自民党は国内政策において「左傾化」を続けており、岸田政権は、支持率対策のために、さらに「左旋回」するだろうということだ。

【関連】参院選で左派野党を粉砕。安倍政権から始まった「自民の左傾化」

岸田政権は、本来野党が訴えるべき政策を次々と実行していく。国会で野党が更なる弱者救済策を求めたら、岸田政権は待っていましたとばかりに「野党の皆さんの要望でもあるので」と、さらにバラマキを拡大するだろう。国民は、「自民党が自分たちになにをしてくれるか」をより注視する。その結果、野党はこれまで以上に居場所を自民党に奪われてしまう。

立民など左派野党は、岸田政権のバラマキを後押しするという意味において、実は「補完勢力」になり下がっているのが現実だ。だから野党は、岸田政権の支持率低下を手放しで喜べないのだ。この状況に対して、打つ手はあるのだろうか。

立民の岡田克也幹事長は、就任記者会見で「きちんとした批判は野党の使命」と発言した。これまで、泉代表は、「提案型野党」を掲げてきた。昨年の衆院選で立憲民主党が敗北した原因として「批判ばかりしていて、政策の提案がない」と指摘された。そこで、泉代表は岸田政権への対案を国民に提示していく方針を打ち出した。ところが、参院選に敗北したことで、新たに党執行部に加わった岡田幹事長などから「提案型野党」は理解を得られなかったとして、今度は、「批判型野党」に戻そうという動きになっているのだ。

だが、泉代表が共闘を進めようとしている維新は、自民党の「補完勢力」と呼ばれることがあった。前述の通り安全保障政策では自民党より踏み込んだ政策を打ち出し、経済財政政策では自民党との違いがよくわからない。つまり、維新と共闘するなら「提案型」を志向することになるはずだ。

一方、「批判型」だと共産党、社民党、れいわ新選組など「左派野党」との「共闘」に近い関係となっていくことになる。参院選後、岡田幹事長に加えて、政調会長に長妻昭元厚労相、国会対策委員長に安住淳元財務相が起用された。いずれも、かつて「野党共闘」の推進にかかわったベテランだ。泉代表の退任こそなかったが、党の実権は若手からベテランに移行したことがはっきりわかる人事でもある。

どこかの党との共闘以前に、「提案型」か「批判型」かの党内の意見対立が先鋭化し、他党からの信頼を失うのではないかと危惧する。

そもそも、野党の方向性を「提案型」と「批判型」を分けること自体が実はナンセンスなのだ。なぜなら、英国などでは野党とは「提案型」であり「批判型」でもあるからだ。

二大政党制の英国の政治は、「交代可能な独裁」と呼ばれることがある。政権党が議会で単独過半数を得るため、政権はほとんどの法案を無修正で通すことができるし、実際にそうするからだ。端的にいえば、英国議会の法案審議は、ほとんどが日本でいえば「強行採決」である。

一方、議会での野党の役割は、徹底的な政権批判である。ここでは「批判型野党」である。

野党が、議会で「批判的野党」に徹するのは、日本のように議会で政権と協議して妥協を勝ち取り、自らの主張を実現することができないからである。野党は、徹底的な批判を通じて、政権の支持率を落とし、野党の支持率を上昇させることに徹する。それは来たる選挙に勝利し、政権交代を実現するためである。

だが、選挙になると、野党は「提案型野党」に変化する。「マニフェスト」と呼ばれる政権公約集を提示して、政権与党と競うのだ。マニフェストとは、「有権者団との約束」という意味で、そこには、経済、財政、福祉、社会保障、教育、環境など項目別に、政策とともに財政的裏付け、数値目標、実施期限なども記されている詳細なものだ。選挙で勝利し、政権を獲得すれば即、実行できるだけのものが練り上げられている。

なぜ、野党は詳細なマニフェストが作成できるのか。それは、議会活動での徹底した政権の政策の批判がベースとなっている。徹底した批判を貫徹するには、政権の政策をありとあらゆる角度から詳細に検証し、さまざまな問題点を洗い出す必要がある。そして、政策のあらゆる問題を理解するからこそ、その解決策として、対案を提示できるのである。

翻って立民など日本の野党はどうだろうか。まず、「批判型野党」というが、本当に批判型になっていたのだろうか。安倍政権時代の様々な重要課題の国会審議を振り返ってみる。「特定秘密保護法(2013年)」「安全保障法制(2015年)」「テロ等準備罪(共謀罪)法(2017年)」「働き方改革法(2018年)」「IR実施法(2018年)」などである。

これらは、法案審議で、維新の会など一部の保守系を除く左派野党が、法案の問題点を批判するのではなく、法案の存在自体を全否定して「廃案」を求めて審議拒否した。それに反発した与党との間で協議の場がなくなり、ほぼ無修正のまま強行採決で成立したという共通点がある。

要するに、野党は「批判型」だったわけではなく、批判という野党の役割を放棄してしまったのだ。私は、このような野党の「廃案追求路線」は「零点」だったと考える。

また、野党は「森友学園問題」「加計学園問題」など、政権側に度々起こるスキャンダルに飛びついた。政権の政策の問題点を徹底的に検証する作業を放棄し、安易に政権の支持率を低下させることを選んだのだ。

しかし、その手法が問題だった。例えば、野党が官僚を国会内に呼び出して行う「野党合同ヒアリング」だ。不正にかかわった省庁の官僚を国会の部屋に呼び、多くの野党議員が次々と厳しい質問を続ける。その様子を、しっかりテレビ局に撮影させて、各局のニュース番組で放送させた。しかし、いくら官僚を吊るし上げるようなことをしても、野党の支持率はさっぱり上がらなかった。

野党の政治家たちは、自分たちの政権が国民の支持を失い、今日に至るまで、国民の信頼を取り戻せない1つの大きな理由が、「官僚と良好な関係を築けず、政権運営に窮してしまった」ことだということを、忘れてしまったのだろうか。「野党合同ヒアリング」の様子をテレビで観た多くの国民は、「やっぱり、官僚と関係を築くことができない。政権を任せるわけにはいかない」と思ってしまった。

それに、野党の政治家は、政治家と官僚の「権力関係」への配慮がなさすぎた。政治家は、たとえ野党とはいえ、官僚に対して「権力」を持っている。だから、野党からヒアリングをすると言われれば断れないのだ。その権力を持つ野党が、官僚を並べてテレビカメラの前で罵声を浴びせ続ければ、「パワーハラスメント」が成立する。パワハラに対する国民の見方は非常に厳しい。野党はそのことに対する配慮が足りなさすぎた。

現在、立民など野党は、旧統一教会と自民党の関係が次々と発覚し、岸田政権の支持率が低下する状況に、好機到来とはしゃいでいる。だが、政策はそっちのけである。これは、安倍政権時の政策に対する批判を放棄し、スキャンダル追及という安易な道に走った時と、なにも変わっていないことを示している。

要するに、立民など左派野党は、これまで「批判型」でも「提案型」でもなかった。野党の役割をまったく果たせていなかったために、自民党政権の「一強体制」を許してしまったといえる。

今後、「批判型」を目指すというならそれもいいだろう。しかし、まずは岸田政権の政策を徹底的に批判することを通じて、机上の空論ではない、現実的な対案を練り上げる「提案型」にもならなければならない。「批判型」でもあり「提案型」でもあるという、英国などの野党のレベルに、自らを高めなければなければならない。

最後に、野党にエールを送りたい。私はかつて、社会民主党の政審会長だった伊藤茂氏とお会いしたことがある。伊藤氏は、「戦後、農地改革以降の経済政策は、全部革新が考えた。それを、保守政権がカネを付けて実行した」と自慢げに語った。

農水省の「革新官僚」だった和田博雄は、戦後に閣僚としてとして「農地改革」に取り組み、後に社会党副委員長となった。1960-70年代、公害などの都市問題に取り組む環境政策や福祉政策は、社会党などが支持した「革新自治体」から生まれた。しかし、自民党政権はその成果を自らのものとした。環境庁を発足させ、「福祉元年」を打ち出したのだ。そして、革新自治体が実行した環境政策や福祉政策を「国の政策」とし、予算を付けて、全国の自治体で一律に実施したのである。

この流れが近年も続いている。「女性の社会進出」「子育て支援」「LGBTQをはじめとするマイノリティーの権利拡大」など、安倍政権期に次々と実行された政策は、元々野党が先行して取り組んでいたものだ。

前原誠司・民進党代表(当時)が打ち出した「消費増税による教育無償化」と酷似した政策を、安倍首相が2017年総選挙で自民党の公約にしてしまったのは記憶に新しい。そしてこの政策は、選挙に大勝した安倍政権によって実行されてしまった。

野党が考案した政策を、予算を付けて次々と実行してしまう自民党のしたたかさは恐るべきものだ。一方で、時代の先端をいく政策にまず取り組んできた野党の「革新性」も高く評価すべきだろう。かつての野党は、決して「なんでも反対」だけではなかったのだ。

現在、日本は、IT化、デジタル化、新しい産業の育成、女性やLGBTQなどの基本的人権の尊重などで、世界から大きく遅れている。自民党は、さまざまな政策課題に一応取り組んでいるのだが、残念ながら「「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」なのが問題だ。

だが、それは野党が時代の先端の課題に取り組む「革新性」を失っていることも一因である。野党が、新しい政策課題に自民党よりも先に取り組み、新しい政策を提案してこそ、日本は世界に追いつくことができるのだ。野党は、自らの本当の役割を強く自覚すべきなのである。

image by: 立憲民主党

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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