参院選で左派野党を粉砕。安倍政権から始まった「自民の左傾化」

2022.07.14
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安倍元首相銃撃事件の衝撃が生々しい中、7月10日に投開票が行われた参議院選。結果は与党の圧勝となりましたが、何が彼らにここまでの勝利をもたらしたのでしょうか。その理由を「自民党の左傾化」と見るのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんは今回、安倍政権が社会民主主義的な政策を次々と実現することで、野党の存在感を奪っていったと分析するとともに、それこそが安倍元首相が日本政治に残した最大のレガシーであるとの見解を記しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

参院選の野党大敗と安倍元首相の死を受けて振り返る「自民党の左傾化」

安倍晋三元首相が、応援演説中に銃撃されて死去した。心から哀悼の意を表したい。自由民主主義の根幹である選挙の期間中の蛮行に最大級の怒りを示したい。

参院選は、自民党、公明党の連立与党が参院全体の過半数を大きく超えて、146議席となった。一方、立憲民主党は、選挙前から7議席減らし、非改選も合わせて39議席にとどまった。日本維新の会は昨年の衆院選に続いて躍進し、改選前の15議席から21議席に増やした。比例では立憲民主党を上回った。

そして、自公に日本維新の会、国民民主党を加えた憲法改正に前向きな「改憲勢力」が、非改選も合わせて、改正の発議に必要な衆議院全体の3分の2を上回る177議席を占めた。

今回の結果については、「安倍元首相の弔い合戦」となり、自民党への同情票が集まったなど、さまざまな分析がある。私は、安倍政権から始まった「自民党の左傾化」が完成したことが、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の「左派野党」の存在意義を奪ってしまったことが大きかった。

「自民党の左傾化」を振り返ってみよう。それは、安倍元首相が打ち出した経済政策「アベノミクス」から始まっている。アベノミクスとは、異次元の金融緩和・公共事業で株高・円安に導き輸出産業に一息つかせるという政策で、旧態依然たる自民党の伝統的なバラマキ政策そのものだった。

ところが、自民党の伝統的なバラマキを異次元の規模で実行したのに、かつてのような効果がなかった。安倍首相や経済閣僚が、アベノミクスで積みあがる利益を内部留保にしないで「賃上げ」するように何度も要請したが、成果を挙げられなかった。「企業は利益を得ても、それが個人に降りてこなかった」と岸田首相が批判している通りだ。

かつて、高度経済成長期には池田勇人政権が「国民所得倍増計画(月給二倍論)」を打ち出したが、計画以上の成果を挙げた。つまり、「賃上げ」を2倍以上の規模で実現したということだ。

高度経済成長期と現在の違いは、経済の「グローバル化」だ。90年代前半に東西冷戦が終結すると、中国、東南アジア、東欧諸国などが新たに国際経済の市場に参入し、日本の強力な競争相手となった。激しい国際競争に晒された日本企業は、いつ競争に敗れて経営危機に陥るかわからない状況下で、利益が出ても社員に賃上げという形で還元できず、さらなる競争に備えて内部留保をため込むようになっているのだ。

この状況に対して、安倍政権は2016年、国民の厳しい批判を受けながら、国会で強行採決して「安保法制」通した後に「アベノミクスの新3本の矢」「一億総活躍社会」を打ち出して、政策の修正を図った。

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