参院選で左派野党を粉砕。安倍政権から始まった「自民の左傾化」

2022.07.14
 

安倍首相は、高齢者のみならず現役世代も含む「全方位社会保障」を打ち出し、「子育て対策」などで「女性の社会進出」を促進し、非正規雇用の問題を解決する「同一労働同一賃金」を目指す「働き方改革」を行った。中小企業などの労働力不足を解決するために、初めて外国人単純労働者を受け入れる「改正入管法」も成立させた。

特に、2017年の衆院選では、前原誠司民進党代表(当時)の「All for All」と呼ばれた政策を奪う形で、消費増税分で「教育無償化」を実現することを公約して勝利したことは、特筆すべきだ。

要するに、安倍政権は、主義主張にこだわらず国民の要望を幅広く取り入れて実現する「包括政党」(キャッチ・オール・パーティ)という自民党の強みを最大限に発揮した。本来は左派野党が取り組むべき「社会民主主義的」な政策を次々と実現することで、野党の存在感を奪っていったのだ。

そして、岸田政権は、安倍政権以上に「左傾化」してきた。首相は、「アベノミクス」を新自由主義的な政策とみなしている。アベノミクスが大企業と富裕層を優遇して潤した一方で、中小企業や個人には利益が行き渡らず、格差を拡大させたと認識し、より経済成長の果実を個人レベルまで「分配」する政策を実行することが、首相が提唱する「新しい資本主義」なのだと説明している。

前述の通り、アベノミクスは新自由主義ではなく、伝統的な自民党のバラマキ政策を異次元の規模でやっただけだ。岸田首相は「誤解」しているのだが、その誤解によって、すでに安倍政権下で「左傾化」した自民党を、ますます左旋回させている。岸田政権発足後、中小企業や個人レベルへの「分配」を重視し、補正予算など「予備費」を乱発して財政出動を拡大してきたのである。

それに対して、左派野党は政策の違いをみせることができなくなった。左派野党が、弱者救済のためにさらなる財政出動を求めても、岸田政権は待っていましたとばかり「野党の皆さんの要望でもあるので」と、さらにバラマキを拡大してしまう。左派野党は、自民党の「補完勢力」にすぎない存在となってしまった。参院選での左派野党の惨敗は必然だったといえる。

要するに、参院選での自民党の勝利は、国内政策における「自民党の左傾化」を、岸田首相がさらに推進したことで、左派野党が存在意義を失い、壊滅的な打撃を負ってしまったからである。

本来、保守派であるはずの安倍元首相にとって、国内政策の「左傾化」は、不本意だったかもしれない。だが、国内の社会問題にリアリスティックに対応した結果である。私は、自民党の左傾化と左派野党の壊滅こそ、安倍元首相が日本政治に残した最大の「レガシー」であると考える。

なぜなら、時代は完全に変わったと認識すべきだからである。これからは、「保守(右派)vs.リベラル(左派)」の対立という従来の「常識」は通用しなくなるのだ。

参院選後、岸田政権はまず、物価高への対応に追われることになる。日銀の量的緩和政策は少なくとも年末まで継続される。補正予算、予備費を使った補助金などの財政出動は続く。重要なことは、自民党がさらに左傾化し、左派野党を飲み込むことになることだ。今後は、立憲民主党の「社民党化」「泡沫政党化」という悲惨な事態が起こる。しかし、左派を支持する人たちは、この事態を心配することはない。これから「弱者救済」は、左傾化した自民党がすべて担うことになっていくからだ。

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