セクハラをしてくる上司に、被害女性がプレゼントをした場合、それは好意があるととられてしまうのでしょうか。今回の無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、著者で特定社会保険労務士の小林一石さんが、自衛隊で行われたセクハラを訴えた裁判事例を取り上げ、その結末について語っています。
女性から男性へ「ボールペンをプレゼント」は好意の表現になるか?セクハラ裁判の意外な結末
みなさんの中で「女心(男心)がわかってない」と、言われた経験がある人はどれくらいいるでしょうか?
以前にあるインタビューで繊細な歌詞でたくさんの女性ファンを魅了してきた某男性ミュージシャンが「女心がわからないなんて思ったこともない」と発言をしているのを聞いて妙に納得した記憶がありますが、私は完全に逆のようですね。
また、男女に関わらず日本人というくくりで言うと「阿吽の呼吸」というのも外国人からすると非常にわかりづらいそうです。
「お前、もっと空気読めよ」
「クウキッテナンデスカ??」
という会話が本当にあったかどうかはわかりませんが、外国人比率が高い会社などではコミュニケーションにも工夫が必要なようです。
ただ、笑い話で済むような軽い勘違いであれば良いですがそれが大問題になってしまうことがあります。
それについて裁判があります。
ある自衛隊で上官からセクハラを受けたとして女性隊員がその上官を訴えました。ところが裁判所は「セクハラは無かった」としてその訴えを認めませんでした。
その理由は女性隊員がセクハラがあったとされた後に
・ボールペンをプレゼントした
・一緒に映画鑑賞に行った
・娘と3人で動物園に行った
等の事実があったためです。そこで裁判所は「セクハラされた相手にそのようなことをするとは考えられない」と判断したのです。
いかがでしょうか?
いつもでしたらここで話は締めに入るわけですが今回は続きがあります。その裁判結果に納得がいかなかった女性隊員はさらに訴えたのです。
ではその裁判はどうなったか?
女性隊員が勝ちました。
その理由は以下の通りです。
・上官としての地位を利用し、母子家庭で雇用や収入の確保に敏感になっている女性隊員の弱みにつけこんで、性的関係を強要したことは極めて悪質である
・ボールペンのプレゼントは上官の機嫌をとるために贈り物をしただけで、親密さや相互の好意的感情の存在を推認させるものではない
・いまだにPTSD症状に悩まされ、家事、育児など生活に多大な支障をきたしていることを考慮すると慰謝料は800万円が相当である
今回の重要なポイントは「セクハラ被害者の心理や行動に対する理解」です。
セクハラ加害者がよくいうセリフがあります。
「(性行為のときに)相手が嫌がっていなかった」
「嫌がっていなかった」の前にそもそも同意をとったのかとつっこみたくなるところではありますが「嫌がっていなかった」ように「見える」ことは実はよくあることなのです。
今回のお話とは別件ではありますが下記のような裁判所の判断事例もあります。
・強姦の脅迫を受け、又は強姦される時点で、逃げたり、声をあげることによって強姦を防ごうとする直接的な行動をする者は被害者のうちの一部である
・職場での上下関係や、同僚との友好関係を保つために抑圧が働き、これが被害者が必ずしも身体的抵抗という手段をとらない要因として認められる
・被害者が、加害者からの飲酒の誘いに応じたこと、席を立つことなく同一ルートで帰宅したこと、別れ際に握手を求めたこと、事後に感謝といたわりのメールを送信したことなどは、これを拒否すると自己に不利益が生じないとも限らないと考えたためである(よってセクハラである)
これは実務的にも非常に重要ですね。
2022年4月からすべての会社にハラスメント相談窓口の設置が義務付けられました(大企業は2020年よりすでに義務化されています)。
みなさんの中には、直接、セクハラの被害者から話を聞く立場の人もいるのではないでしょうか。そのみなさんが「嫌がっていなかった」で安易にセクハラの有無を判断してしまったら、大問題になってしまう可能性があります(実際にセクハラ相談窓口の担当者が訴えられた裁判例もあります)。
もちろんセクハラが起こらない環境を作ることが重要なのは言うまでもありませんが、万が一のときはしっかりと対応していきたいですね。
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