先日掲載の「かつては統一教会叩きを煽動していた『月刊Hanada』花田紀凱編集長の見事な“改宗”ぶり」でもお伝えしたとおり、あまりの旧統一教会寄りの姿勢が話題となっている『月刊Hanada』ですが、最新号ではそのスタンスをさらに鮮明化させているようです。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、『月刊Hanada』12月号に掲載された旧統一教会の「脱会批判キャンペーン」記事を紹介するとともに、あまりにも多い「おかしな点」を指摘。その上で、教団のこうしたキャンペーンに乗せられ彼らの代弁者となってしまう著名人や知識人に対して、批判的な目を向けています。※本稿では著者の意思と歴史的経緯に鑑み、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を「統一協会」と表記しています
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泉美木蘭のトンデモ見聞録:“拉致監禁して脱会強要”これ、統一協会のキャンペーン用語です
『月刊Hanada』が、統一協会擁護へと完全に振り切れた。
2022年12月号では、福田ますみというノンフィクション作家を起用し、「新聞・テレビが報じない“脱会屋”の犯罪」なるルポをスタート。すっかり「統一協会の機関誌」として商売する方向で固めたようだ。
家族による保護を「拉致監禁・監視」と言い換え
このルポは、統一協会に入信したのち、家族に引き戻されて脱会説得を受けたものの、協会に戻ったという信者の「証言」を元に書かれている。
目玉は、後藤徹という信者だ。
1986年、兄と兄嫁が入信したのをきっかけに、後藤氏とその妹も統一協会入り。だが、この時すでに悪質な勧誘や霊感商法は問題となっており、後藤氏の両親は、子どもたちを心配して、脱会を請け負う牧師に相談。数か月後に兄夫婦が脱会、次いで妹も脱会していた。
1人協会に留まった後藤氏は、父親からホテルの一室に呼び出され【監禁された】が、隙をついて逃げ出す。8年後、再び東京都内の実家に帰宅したところを、家族・親族に取り囲まれて、無理やりワゴン車に押し込まれた。その後は、家族の暮らすマンションで【監禁】され、両親と兄夫婦、妹から【24時間監視】される生活を長年送ったという。
【監禁、監視】というのは、あくまでも後藤氏と執筆者が使っている言葉で、家族や説得を請け負った牧師にとっては「保護」である。当時についてこう書かれている。
部屋はマンションの高層階にあり、飛び降りて逃げることもできず、そもそもそうした窓や玄関には防犯錠や南京錠が取り付けられ、開閉できないようになっていた。
「(説得を請け負った牧師の)宮村は、合計73回、元信者を引き連れてやってきて、親族を含め、10人ほどが私を取り囲んでずらっと座るんです。
宮村は、教義がいかにおかしいかを指摘する。こちらが聞き入れず、『これは監禁だ!』『人権侵害だ!』と言うと、『偉そうなことを言うな』『監禁なんかしていない。家族が保護してるんだ』『ほんとうなら、ぶん殴って半殺しにしてやるところだ』とみなで怒鳴りつける。完全なつるし上げです」
まず、脱会説得のために1人のところへ73回も足を運ぶとは、請け負った牧師の根気強さに脱帽する。それほど大変な作業なのだ。
家族も、一度逃げ出して協会に戻った経緯がある限り、厳重に管理するのは理解できるし、自暴自棄になって窓から飛び降りる危険を考えれば、施錠するのも当然だろう。
このまま協会に戻せば、親類・友人を騙して集金活動したり、悪質な霊感商法や勧誘に手を染め、犯罪者になるかもしれない。ぶん殴ってでも留め置かなければならないという家族の絶対的な覚悟、責任感、そして後藤氏への愛も感じる一節だ。
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その後も、玄関に突進して脱出しようとする後藤氏を、家族が布団でぐるぐる巻きにして保護したり、兄とは、服が破れて流血するほどのもみ合いになるなど、かなり壮絶な格闘があったようだ。
また、後藤氏は、1カ月におよぶハンガーストライキ(絶食)を3回も行った。それでも家族は、協会に帰さなかったという。凄まじい。だが、続く文章がおかしい。
出される食事は次第に質量ともに粗末なものになり、70キロあった体重は50キロまでやせ衰えた。後藤氏はついに生ゴミを漁るようになる。
1カ月もの絶食を、3度もやられたら、普通の食事を出せなくなるのは当たり前だろう。
私が母親なら、食事を拒否され続けたら、無理やり口に詰め込むわけにもいかず、せめて、冷めても食べられるようなおにぎり、漬物、卵焼き、みかんやバナナなど、刃物を使わずに食べられる果物などを置いておくようにする。
さらに拒否されて絶食が続いた場合は、いきなり食事をとると、内臓に負担がかかるし、胃が受け付けないかもしれないと思って、流動食に近いものを考える。医療的にも、衰弱した患者や絶食者には、重湯や具のないスープから再開するのが常識だろう。
自分から食事を拒否してガリガリになっておいて、生ゴミを漁る後藤氏のほうが圧倒的におかしいではないか。
しかも、刑務所の独房ばりに一室に閉じ込められていたのかと思ったら、腹が減って台所まで出てきて生ごみを漁っているのだから、自宅内では普通に過ごしているのである。
だが、2008年、家族は、とうとう脱会説得を諦めてしまう。後藤氏を家から追い出したのだ。12年5カ月もの格闘の末だった。ついに疲労困憊して、見放したのだろう。
解放された後藤氏は、10キロ離れた協会本部まで歩いて戻り、そして病院に搬送され、全身筋力低下、栄養失調などで50日間入院したという。
ルポには、ガリガリになって車いすに座る後藤氏の写真が掲載されている。世界日報にも掲載されているものだ。
犯罪被害者ぶりをアピールする1枚だが、そもそもガリガリに痩せたのは、自分で絶食したからであり、それだけ痩せ衰えても、自力で10キロも歩いて本部に帰ったのだから、一体何を言っているのかとしか思えない。
その後、後藤氏は、母、兄夫婦、妹、脱会説得を行った牧師たちへの告訴状を提出。警察は「家族の案件だから簡単ではない」として逮捕も捜査も行わず、不起訴処分になった。
だが、後藤氏は、さらに民事訴訟を起こし、こちらで全面勝訴する。
判決では、憲法20条「信教の自由」が適用され、「ある宗教の教義がどのようなものであったとしても、それが直接対外的に他の人々や他の団体等の権利や自由を侵害したり、危害等を加えたりするものでない限り、他から干渉されない自由が保障されているものである」とされた。
12年間も家族ががんばって自宅に留め置いた状態で、それでも統一協会の教義を信仰していると主張されたら、信仰そのものが内心で維持された状態になり、こうなってしまうのか。
なんとか脱会させたいという家族の情念があるからこそ、強硬な手段になることもあるわけだが、最終的に裁判所に持ち込まれ、粉々になってしまったのだから、無残としか言いようがない。脱会をめぐって家族崩壊が起きること自体が、統一協会の異常性を示しているとも言えるだろう。
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まったく逆の目線から読むと…
さて、ここまでの話を、まったく逆の目線、「後藤氏に対して、家族と一緒に脱会を説得した立場」から語った記事がある。
2010年、家族が後藤氏を見放してから2年後に『月刊タイムス』に掲載された座談会記事で、説得を行った牧師の宮村峻氏、神学博士の浅見定雄氏、有田芳生氏などが発言している。
宮村牧師によると、後藤氏の父親からはじめて連絡があったとき、父親は癌で余命3カ月の状態で、「このまま死ぬのはたまらん。宮村さん、どうしても徹と話してもらえませんか」と依頼されたという。
その後、父親が亡くなり、家族からの連絡で後藤氏と会うようになり、月に7~8回、10カ月間で80回ほど話した。
その結果、後藤氏が導きだした答えは、「統一協会の教えも活動もすべてがデタラメだとわかった」。だけど、「自分は自分のしたいことをする。なぜ、お前に止める権利があるんだ」だったという。
「統一協会が正しいからやりたい」というなら、それはデタラメだと教えられるが、デタラメでもやりたいとなると、説得できない。宮村牧師は、後藤氏の元に通うのは辞めた。その後、家族が説得をつづけたが、途方に暮れて追い出すことになったという。父親の無念を思い、12年間以上粘ったものの、疲労困憊してしまったのだろう。
また、説得に関わった神学博士の浅見氏によれば、お父さんが亡くなった後は、お兄さんが関わっていられなくなり、後藤氏と一緒にいたのは、いつも女性である母親と妹だけだったという。 女性2人から12年間も「監禁される」などあり得るのか?
宮村牧師 「彼は身長が180センチ以上あるのに、お母さんと妹さんは155センチくらいしかない。しかもマンションの部屋には、この間に電気屋が入ったり、足場をかけてマンション全体の外装工事もしているんです」
浅見氏 「マンションから立ち去ろうと思えばできるのに、そうしない。不貞腐れて出て行かなかったんです。本人に統一協会について考える気持ちがもうなかったのでしょうか」
痩せこけて車いすを使っている写真に対しても、時系列が疑われている。
母親と妹が出ていけと言ったとき、本当に写真のように痩せこけていたのか。子どもを心配して統一協会から救出しようとした親が、こんな状態で「出ていけ」とは言わないのではないかという疑問だ。
歩いて協会本部まで帰ったのに、立つことも困難で車いすを使っているというのは、やはりおかしな話で、この座談会では、「追い出されたあとに断食でもやれば、この写真みたいになっちゃう」という意見も出ていた。
しかも、後藤氏が、家族・親族に取り囲まれて、「無理やりワゴン車に押し込まれて拉致監禁された」という話も、「自ら歩いて車に乗って、しかるべき場所に向かった」というのが事実だという。
後藤氏は、拉致監禁被害の広告塔だった
もはや、『Hanada』で紹介された証言のすべてがあやしい。
そこで、この後藤徹氏について調べてみると、なんと現在、統一協会の「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」の会長であることがわかった。
ホームページには、自分で絶食したという事実も、自分が玄関に突進するなど暴れたという事実もすっかり省いて、「家族から一方的に暴力を振るわれた」「拉致監禁され、食べ物も与えられなかった」というストーリーに仕上げた漫画が公開されている。
また、『Hanada』のルポには、もう1人、家族と牧師から監禁されたと主張する信者が登場するのだが、こちらも、後藤氏と共に熱心に「被害者」活動を行っていた。脱会説得から逃げ出した体験を綴った著書を、統一協会の出版社から出している人物でもある。
『Hanada』の記事は、完全に、統一協会による「脱会説得者を“犯罪者”呼ばわりするキャンペーン」を担ったものなのである。
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怪しいルポライターにご注意
さらに調べると、ガリガリに痩せて車いすを使う後藤氏のあやしい写真を撮ったのは、米本和広というルポライターであることもわかった。
米本は、安倍銃撃を決めた山上が、統一協会への恨みや、本来は教祖の韓鶴子を狙うつもりだったなど、犯行をほのめかす手紙を送った相手でもある。
米本は、もともとはカルト教団を批判する立場で、オウム真理教、統一協会、ヤマギシズムなどが、家庭や子どもにどんな壮絶な影響を与えているかを徹底取材した著作を複数出版しており、評価されていた。
ところが、統一協会信者の脱会説得に対して、批判的な目線を持つようになり、完全に協会目線の著作を執筆。これが協会で大絶賛され、大量購入されたらしい。
その後は、信者の前で講演したり、日本統一協会・元会長の梶栗玄太郎(かつて、文鮮明の命令で世界日報本社を襲撃した人物)の著書に登場して、「拉致監禁」「犯罪行為」について語るなどし、すっかり“ミイラ取りがミイラになった”格好だ。
救済活動をする弁護士に対して、懲戒請求を出すなどの嫌がらせも主導しているという。
ちなみに、太田光が発言していることは、ほとんど米本の本に書かれている内容らしい。太田は、真面目に読書して「拉致監禁の犯罪」という言葉を真に受けているようだ。読書するにしても、もうちょっと常識的に考えろよと思うが。
その米本の後を追っているのが、『Hanada』で統一協会側のキャンペーンを書き始めた福田ますみ、ということになるだろう。
「拉致監禁」「脱会強要」「犯罪」という言葉は、すべて、家族を思って苦悶しながら脱会説得を行った人々を、デタラメな屁理屈で攻撃する、統一協会によるキャンペーン用語だ。惑わされてはいけない。
このキャンペーンにまんまと乗せられて、統一協会の代弁をしてしまう著名人・知識人には、厳しい目を向けなければいけない。
(『小林よしのりライジング』2022年11月1日号より一部抜粋・文中敬称略)
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