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教団の“代弁者”状態。統一教会「被害者救済法」を邪魔したい自民議員の名前

11月8日、これまでの方針を一変させ、政府として旧統一教会の被害者救済法案を提出する意向を示した岸田首相。同法案を巡っては、これまでの与野党協議で自公サイドが慎重姿勢を取り続けてきましたが、そもそもなぜ与党はここまで後ろ向きなのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その「本当の理由」を推測。さらに未だ旧統一教会との癒着を断ち切れぬ自民党を強く批判しています。

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統一教会の被害者救済法に自公が後ろ向きな本当の理由

「政府としては今国会への提出を視野に最大限の努力をする」。統一教会(現・世界平和統一家庭連合)をめぐる被害者救済法案が、与野党協議における自民、公明両党の慎重姿勢でまとまらないのに業を煮やした岸田首相は、政府の手で法案を提出する方針を表明した。

被害者救済法案は、立憲民主党と日本維新の会が議員立法として共同提出し、それを基調に、自民、公明、立憲、維新の4党による協議が行われてきた。今国会での成立をめざしたが、11月1日の協議で、与党側が流れを押しとどめた。「新たな法律の制定については今後の検討事項とすべきだ」と、今国会は見送る方針を示していた。

この状況に、岸田首相は危機感を抱いた。内閣支持率の下落に歯止めをかける切り札とみているからだ。先般、宗教法人法に基づく質問権を行使して統一教会の実態調査をすると言明したが、解散命令を裁判所に請求できるかどうかは不透明だ。まずは、被害者救済のための新法をつくり、成果を早く示したいという思惑があるに違いない。

与野党協議の不調を打開するため政府が法案を提出するというのなら、それなりに正当な理由があり、岸田首相のリーダーシップもアピールできる。これまで議論を主導してきた立憲、維新両党は、岸田首相に油揚をさらわれる形になるが、成立に一歩進むのであれば、文句はいえまい。

むしろ、岸田首相の決断に複雑な思いなのは自民、公明両党ではないだろうか。岸田首相もそこに配慮し、公明党の山口代表、自民党の萩生田政調会長の了解をとりつけたうえで、政府案提出の方針を発表した。

ただし、岸田首相が乗り出したからといって、新法制定が確実になったわけではない。与野党協議は今後も行われ、対立点の解消のために政府との間で駆け引きが続くだろう。

メディアの報じる対立点はこうだ。野党はマインドコントロール下における献金や物品購入について、被害者家族が返金請求できることを明記するよう求め、それに対し与党は、「マインドコントロール」の定義は難しく、そもそも憲法が保障する財産権を侵害しかねないとして慎重だ。

たしかに、マインドコントロールという概念を法律に盛り込むのは、難しい。オウム真理教事件で罪を犯した信者がマインドコントロールされていたという理由で減刑を求め裁判所に却下された例もある。

そこで、野党の法案を見てみると、実はそこに「マインドコントロール」という言葉は出ていない。ただ「特定財産損害誘導行為」を説明する以下の部分は、明らかにマインドコントロールについての記述だ。

精神・身体の拘束や、霊感に基づく不利益告知により不安・恐怖を与えたり、心理学に関する知識・技術の濫用で心身に重大な影響を及ぼすなどして、自由な意思決定を困難にする不当行為。

このような条件下で、信者に高額献金や物品の購入を繰り返させる行為を「特定財産損害誘導行為」と位置づけ、罰則付きで禁止。本人だけでなく家族にも「取消権」を認め、国が宗教団体に中止を勧告したり、是正を命令したりできるとしている。

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この与野党協議。立憲、維新にすれば、政権側に接近し「提案型野党」をアピールできる。岸田首相にしても、野党との連携強化で党内基盤の弱さを補強してゆく思惑があった。

これに対し、与党側が渋る要因の一つは、創価学会という宗教団体を母体とする公明党の意向があるからだろう。

公明党の石井幹事長は、「拙速に決めるのではなく、専門家の意見も踏まえながら、あとあと問題にならないように少し時間をかけて議論していくのがよいのではないか」と慎重な姿勢を示していた。

周知の通り、創価学会にも献金システムがある。「マインドコントロール」の定義によっては、献金被害と認定されるケースも起こり得るだろう。

もう一つ。あくまで推測だが、岸田首相に対する萩生田自民党政調会長の反発もあるのではないか。

岸田首相は10月17日の衆院予算委員会で、「旧統一教会と関係を持たずに政治活動を行ってきた私が責任を持って未来に向けて、この問題を解決したい」と大見得を切った。10月31日の自民役員会では「与野党協議会への対応を含め政府・与党でよく連携したい」と、協議の進展にむけてハッパをかけた。

岸田首相のそんな発言は、さぞかし統一教会と親密で野党嫌いな萩生田氏の気に障ったことだろう。萩生田氏は統一教会のみならず、多くの宗教法人を傘下にする日本会議との関係も深い。宗教団体への規制強化そのものに対して抵抗感が強いはずだ。

安倍・菅時代と違い、立憲民主党は岸田政権との距離を縮めている。宏池会出身の岸田首相とは肌が合うのだろう。それもまた、安倍シンパだった萩生田氏ら右派勢力には気に入らない材料だ。

ともあれ、岸田首相は自らの発言によって、統一教会問題の解決に期待値を高めた分、重い責任を負うことになった。被害者救済法が誕生するなら、政権浮揚につながるかもしれないが、不首尾に終われば、指導力不足を問われるだろう。

萩生田氏をはじめとした自民党右派と公明党は明らかに、岸田首相の思惑とは逆の方向に進んでいるように見えた。

与野党協議に任せておくと、被害者救済法案はまとまらない。そう思った岸田首相は萩生田政調会長と山口公明党代表を説き伏せて、法案制定を政府主導とするところまでこぎつけた。

しかし、政府の法案が、野党の求める内容と同じレベルになるかどうかはわからない。しかも、岸田首相は「今国会への提出を視野に最大限の努力をする」と、曖昧さをのぞかせている。「条文が出てこないと判断できない。これで安心とは言えない」(立憲幹部)という声も出ており、新法の実現に向けてはまだ曲折がありそうだ。

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岸田首相は安倍元首相の国葬でつまずいて以来、やることなすこと裏目に出て、政権内のガバナンスが揺らいでいる。とりわけ目立つのは、与党との連携がうまくいっていないことだ。

電気・ガス代など諸物価高騰に対処するための29.1兆円にのぼる総合経済対策でさえ、党の要求に岸田首相が折れ、一夜にして4兆円が上積みされたと、そのバラマキぶりが批判される始末だが、それも積極財政を唱える萩生田政調会長が、財務省幹部に「怒号」を発したのがきっかけだったようだ。

人事もちぐはぐだ。統一教会との接点が次々と発覚した山際大志郎氏が経済再生担当大臣を更迭されたと思ったら、わずか4日後には自民党の新型コロナウイルス対策本部長に就任した。萩生田氏の差し金ではないかと憶測を呼んでいる。

当然、強い批判が予想される人事であり、岸田首相が指示するはずはない。茂木幹事長も「これ政務調査会の人事でありますので、そちらにお聞きください」と記者の質問に答え、萩生田氏の介在をにおわせた。

自民党はいまだ統一教会の呪縛から解き放たれていない。暴露攻勢を恐れ、教団を刺激しないよう関係をあっさり認めてしまう副大臣や政務官、政府高官らが国会審議の中で続出したのには驚いた。大串正樹デジタル副大臣と山田賢司外務副大臣は、昨年の衆院解散前に教団関連団体との間で「推薦確認書」を交わし、木原誠二内閣官房副長官は推薦状をもらっていた。井野俊郎防衛副大臣は法務政務官だった2016年、教団関係者を政務官室に招き入れたと認めた。

とどまるところのない底なしの汚染。これでは、いくら岸田首相が焦りを募らせようとも、統一教会に本気で立ち向かい癒着を断つ機運が自民党から生まれてこないだろう。そのような政党に国政を委ねたままにしておいていいのだろうか。

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image by: はぎうだ 光一 - Home | Facebook

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