家族全員の生活を背負うことになった20歳の青年。その選択は正しいものだったと、85歳になった現在、自分の「定食を出す和菓子屋」を見ながら思っているのかもしれません。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、 そんな不思議なメニューが連なる和菓子屋さんのエピソードを紹介しています。
ある和菓子屋さんの一番人気は、「肉野菜炒め定食」!?
みたらしだんご、栗かのこ、豆大福、桜もち、草もち……。
昔ながらの和菓子を60年以上作り続けるお店が、東京都文京区本郷にあります。
創業は明治10年。145年の歴史となりますが、当初は青果店として開業し、2代目の時に、かき氷やアイスキャンデー、ぜんざい、あんみつなどを売る甘味処となり、65年前、3代目が後を継ぐこととなった時に、和菓子を作るようになりました。
現在85歳の店主が後を継いだのは、20歳の時。
突然2代目が亡くなり、残された5人の幼い弟と妹を育てるため、母とともにお店を切り盛りするように。
しかし、甘味だけでは生活は苦しいので、知り合いのお店で和菓子づくりを習ったのです。
それでも、まだまだ余裕はなく、和菓子屋と同時に、食堂を始めることにしました。
こちらも近所の料理店で、ラーメンや焼きそば、一品料理の作り方を教えてもらいました。
簡単なことではありません。
しかし、投げ出すことはできません。7人の生活が掛かっています。
20歳の青年が、人生に迷う時間も与えられず、やり続けるしかなかったのです。
それを見ていた、まわりの人たちの助けがあったからこそ、挫けることなく、続けることができたのです。
年数を重ねるごとに、食堂のメニューも増えていき、和菓子屋でありながら、食堂メインのお店となっていったのです。
カレーライスや炒飯、かつ丼、焼肉定食、焼き魚定食、ラーメン、五目そばなど、他の食堂に負けないぐらいの品揃えとなっています。
その中の一番人気が、「肉野菜炒め定食」なのです。
町内会の人や地元のサラリーマンに喜ばれています。
他にも、奥さんが考案した「ツナハンバーグ定食」も注文が多く入ります。
後を継いで、65年。結婚もして、子どももでき、孫が遊びに来るように。
夫婦ふたりで忙しく動きまわっていますが、大変なこともありました。
13年ほど前、店主は、脊柱管狭窄症と股関節症の手術を受け、鍋を振れなくなったため、食堂の調理は奥さんと交代しました。
それでも、和菓子づくりは続け、接客担当として、いまも元気に働いています。
朝4時から、5、6時間掛けて、和菓子づくりと料理の下準備をひとりで行っています。
身体の衰えを感じながらも、できる限りは、お店を守っていくつもりです。
小学生の孫が、後を継ぐと言ってくれてはいるものの、現実問題としては、間に合わないかもしれません。
長年親しまれてきたお店が、店主の高齢化によって閉店になることは、ありふれた出来事だと言えます。
反面、常連さんたちは、できることなら残して欲しいと願うもの。
しかし、小さなお店はいずれ消え去るもの。
数十年の歴史は、店主が生きてきた証です。
同時に、お店を愛した人たちの想い出でもあります。
古ぼけたお店は、やがて更地になるかもしれません。それでも、いまはまだ生き続けています。
もうしばらくは、店主の喜び、そしてお客さまの癒しの場として、そこに存在して欲しいと思います。
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