先日の記事『年金批判のために曲解された害悪な言葉「100年安心」を発したのは誰か?』では、「100年安心」という言葉がなぜ年金批判として曲解されたのか、そして現在の年金の仕組みについて詳しく解説した、メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』の著者で年金アドバイザーのhirokiさん。今回の記事では、その内容をさらに補填しています。
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年金の実質価値の維持機能と、平成16年改正後は機械的に受給年齢を引き上げる意味が薄れた
本日の号外は先月11月に発行した269号の補填的な内容です。
【関連】年金批判のために曲解された害悪な言葉「100年安心」を発したのは誰か?
もうちょっと書きたかった事です^^;
1何年経っても年金の価値を維持する事が重要になった
平成16年の事なんですが、この年に年金は大きな転換をしました。
何が大転換だったのかというと、それまでは年金受給者の人の年金をある一定の水準を保つために、現役世代から徴収する保険料を5年毎の年金再計算時に決めていました。
当時のやり方のままであれば、このまま高齢化が進めば受給者の人が増えるので、その人たちに一定の水準を保ち続けるのであればどこまでも保険料を引き上げていく必要があるものでした。
受給者の人の年金水準を保つために、保険料負担者の保険料を変化させていくやり方でした。
例えば昭和48年に年金水準の考え方が大きく変わって、現役男子の平均賃金の60%台の給付水準を行うという考えが初めて取り入れられました。つまり、今後にどんなに物価や賃金が上がろうとも、年金の価値を維持するという方向に変わったというわけです。
将来にどのくらいの年金を支給しなければならないかというのは、将来何十年もの先の事となると「いくらの金額であれば大丈夫なのか」という事は皆目見当もつきません。
今は月30万円で暮らせても、その金額で果たして50年後に満足な収入になるのかはわかりません。
まさに人知を超えた不確実な世界なのであります。
でも、現役時代の平均賃金の60%を維持するという事であれば、ハッキリ示す事が出来るようになりました。
よって、年金の価値を維持するという事であれば、積立金で年金を運営するというやり方では不可能なので(積立金は運用利回りなので賃金や物価には連動しない)、賦課方式のやり方に移行していきました。
賦課方式の年金は現役世代の給料の一部から支払う保険料が財源なので、もし経済が上昇し彼らの賃金が上がれば支払う保険料も増加するので、それと連動して自動的に受給者の年金も引き上がります。
昭和48年からはこのように年金の実質価値を維持するという形になりました。
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ところで、少子高齢化の進行はもう50年ほど前から本格化していたので、現役世代の保険料負担を過大にしたくないのであれば年金水準を抑えるという事が必要でした。
なので、昭和61年改正時や平成12年改正時などに給付水準を削って、保険料の負担がせめて給料の20%以内には収まるように受給者の給付を削ったりしていました。本当は30%以内が目標でしたが、不況の影響もあり平成12年からは20%以内が目標となりました。
またそれに伴い、平成6年や平成12年には厚生年金の段階的な60歳から65歳への受給開始年齢の引き上げを決めました。
厚生年金は今もなお65歳受給開始年齢へ向かって進行しており、2030年に完了します。
本当はもう年金水準を下げる事は平成12改正の時点で終わる予定のはずでした。
ところが、その後の人口将来推計により高齢化率や少子化はもっと進む事になり、平成16年に更なる改正が求められる事になったのであります。
その後、平成18年の人口将来推計では少子化の見通しは1.26でしたが、平成24年時の推計では1.35まで回復する事が見込まれました。
よって、1970年代以降少子化率は下がり続けましたが、これが一体どこまで下がるものなのかずーっとわからなかったものが、この平成24年推計時からハッキリわかるようになったため高齢化率も2050年あたりから安定的に40%ほどを維持するものになるという見通しが立つ事になりました。
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2.平成16年の年金改正で年金の財政の在り方が180度変化した
さて一方、平成になって経済は停滞してる中で、一体どこまで保険料を負担する必要があるんだ…という国民の不安が広がる中、平成16年の改正が行われました。
その内容とは、現役世代の負担する保険料の上限を決め、その収入の中で年金を支払うという事に決めたのであります。
従来は受給者の給付水準がある程度決まっていたものが(もちろん納めた保険料により人それぞれ違いますが)一転して、入ってくる保険料収入が決まってしまったのです。
つまり、従来は決めた年金水準を維持するためにそのつど保険料を変更させるやり方から、入ってくる保険料収入を決めてその中で給付をやりくりする形へと180度転換されたのです。
平成16年改正時に将来入ってくる保険料収入がある程度決まったという事は、その総額を今の受給者と将来の受給者でどのように分け合うのかという考えに変わります。
例えば1,000万円を親と、将来大きくなった子供でそれぞれ500万円ずつ利用したいとします。
それであればどちらも同じ公平なお金を使う事が出来ます。
しかし、現在の親がもうちょっと使いたいから700万円使ってしまうと、将来の子供は300万円でやりくりをするしかありません。
じゃあ将来の子供の取り分を残すにはどうしたらいいかというと、親が今使うのを我慢するという事が大切になってきます。
で、今の年金とその話が何の関連があるのかというと、よく今の年金は上がりにくいとか、実質価値は目減りという言い方がされる事がよくあります。
年金は物価や賃金にスライドしますが、これらの伸びを実際の伸びよりも抑えるという事をします。
例えば1%賃金が上がれば年金も1%上がりますが、年金は0.7%しか上がらないというような形ですね。
本当はもっと貰いたいのに給付を抑えるという措置が取られています。
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なぜ今の年金額がそう簡単に上がらないように抑えられてしまうのか。
それはさっき言ったような、1,000万円の話と同じ事であります。
現在の受給者の人の年金を抑える事で、将来の年金受給者(つまり今の若い人が年金受給者となった時)の給付水準が上がるのであります。
でも逆に抑えずに、今が大切だからって事で余分に使ってしまうと将来の人の年金水準が低下する事になるという事になります。
際限のない保険料の増加をさせないために、平成16年改正の時に保険料収入を固定した以上はもう将来入ってくる財源は大体決まってしまったのでこのような仕組みになっています。
ちなみに従来は現役時代の約60%台以上を給付する事を目指していましたが、今の固定された保険料水準だと50%ちょいを目標とするものになりました。そのために決められたのが厚生年金保険料率18.3%です。
経済界は本当はもっと引き下げろって言いました。15%くらいにしたかったようです。
経済界というのは社会保険料の負担が嫌いなので、いかに自分たちの負担を下げるかという方向を常に考えます。そして収益を第一にします。
それが資本主義なのですが、そのために労働者の社会保障が削られて、将来の高齢者は貧困の危機に陥る危険があります。
経済界は今後も年金に対し批判的な立場を取り続けるでしょう。
彼ら経済界の保険料抑制の欲望を牽制するために、当時の坂口厚生労働大臣が給付水準50%以上という案を出し、そのために18.3%というラインを引いた事で経済界を牽制したと言われています。
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3.現在の年金給付の増加を抑え、将来世代の年金水準を高くしようとしている
話を戻しますが未だ現在は、約60%近くの高い水準の給付が行われている状況であり、早く50%に持っていくように給付を抑えていかないといけません。
本来の水準よりも多く受給する事が続けば、どうしても将来世代の水準が低下してしまうので、物価や賃金が上がった時は上がり方を抑制するという事が急務となっています。
しかしながら、平成に入ってからデフレ続きなので物価や賃金はほぼ上がらないか、マイナスという事もよくありました。
そのため、うまく抑制策が機能しなかったのであります。
給付水準を下げないといけなかったのに、それが遅れてしまっている。
そうなると将来世代の年金水準が低下してしまう。
非常に重大な事が行われているものの、若い人が老齢の年金を受給するのは何十年も先の話なので、どうしても目に見える形で顕在化していない今、問題視されづらくなっています。
年金水準を抑えるとか下がる方向に向かわせていると言うと、悪い事してるとしか捉えてもらえない。野党の政治家ですらそんな事言って相変わらず年金を政争の具とするのだから、国民にはなかなか正しい事が伝わりません。
ちなみに決まった保険料の総額を増加させる手として、高齢者雇用や働く女性の増加により、保険料を支払う人の増加させる事ですね。保険料払う人が増えるという事は先ほどの1,000万円の取り分が1,200万円になったり1,500万円に増えてくるイメージです。
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4.平成16年改正以降の仕組みからは年金受給開始年齢を引き上げる意味が無くなった
また、もう一つ言っておきたい事があります。
それは年金の受給開始年齢を今後65歳以降に引き上げるという事が、あまり意味をなさなくなったという事です。
毎年一定の保険料収入が決まっている以上、それを受給者がどのように分けるかという事が問題なので、もし今後65歳から68歳とかその辺に受給開始年齢を引き上げても、その決まった保険料収入の財源は変わりません。
つまり、定期的に毎回入ってくる100の財源を5人で分けるか2人で分けるかのような違いでしかありません。
よって、平成16年改正で保険料収入が固定された今の制度の中で、原始的に受給開始年齢を機械的に引き上げても年金財源がラクになるという事はありません。
逆に保険料が固定されていなかった従来の場合はそれで良かったんです。受給開始年齢を引き上げればその分財政がラクになる。
従来のやり方は保険料収入は安定してませんが、給付のほうは60%台を支給するよ!っていう入ってくる年金給付のほうが固定されていたようなものです。こういうのを確定給付と言いますが、まさにそれですね。
給付が確定してるという事は受給者の皆さんが貰う総額は決まっているので、もしその総額を減らしたいのであれば、受給開始年齢を引き上げてやればいい。
例えば受給総額を面積として考えて面積が100ある中で、20ぶった斬れば80になって年金財源が軽くなります。
しかし、この機械的な受給開始年齢引き上げには欠点があります。
受給開始し始めあたりの人は減らせるけども、すでに受給してる人の総額を減らす事が出来ない。
(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年12月5日号外より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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